入居します⑪
「清掃の方は完了したそうでございますよ。」
「ありがとうございます、後は家具を入れるだけですね。」
タークスさんとおじ様にお礼を言う。
「国王陛下はもうお帰りになられたのですか? 先程領主様の姿はお見掛けしましたが。」
「まだ居ると思いますよ、石でも投げに行きますか?」
「ははは、冗談がお好きですね。この通りみすぼらしい爺ですから、お目汚しする訳にはまいりませんよ。」
冗談のつもりではなかったんだが。
「では、私共の仕事は全て終わりましたので、この辺で引きあげさせていただこうと思います。こちらが残りの鍵です。もう一本ずつ複製しておりますので、どちらかは大事に保管されるのが良いかと存じます。」
そう言ってタークスさんは、ジャラジャラと鍵の付いた束を二つ渡して来た。これは後で部屋の割り振りの時にでも配ろう。
タークスさんとおじ様を見送る時に、今後とも御贔屓にと渡されたおじ様の名刺には、ポンドロチョンと書いてあった。今まで名前も聞かずにいてごめん、ポンドロチョンさん。自分だったら嫌だけど、なんだか素敵な響きだねポンドロチョンさん。
「ポンドロチョン……、変わった名じゃの……。」
「どこで区切るのか聞いとけば良かったな。」
「フルネームとは限らねーだろ。」
「苗字ポンドロチョン!?」
「いや、名前がポンドロチョンの方が自然じゃろう。」
「どっちもかもしれねーじゃねーか。」
「ポンドロチョン・ポンドロチョン!?」
「真相を知る為にもう一度依頼する必要がありそうじゃの……。」
こんな下らない会話が盛り上がる位にはみんな気持ちが上がっていたようだ。だってもう名実共にここは我が家なのだ。
早速、と言っても当たり前の話なのだが、各々自分の部屋を決めようという流れになった。シヴは屋根があれば家なんて何でもいいみたいな事を言っていた癖に、きっちり西側の一番奥を選んだ。朝日が差し込むのは嫌なんだそうだ。
キイは俺が使う気がないならと地下の部屋を選んだ。エルフの屋敷にエルフの女王が居るんだし、エルフにとって一番いい部屋を使ってもらうのは正しいだろう。今後キイの関係者が来た時に何を言われるかわかったもんじゃないしな。
何となく均衡を取って、俺は増築された方の二階に決めた。こっちの二階にはシヴ、一階にはローラン、地下にはキイがいる事になるので、一応別館にも人が居たほうがいいかなと思ったからだ。
「庭の家具を取りに行こう。誰の分が来ているのか確認もしてないし。」
庭に行くためにまた館内を移動するとトビーと会う事になるので、外から向かう事にした。正面玄関から出たところで、純白のベッドが運ばれて来ているのが目に入る。
「あれはキイのベッドじゃないか? バラして乗ってるのは天蓋の部品だろ。」
「そのようじゃな、昨日家具屋で現品で良いと言ったから早速持って来てくれたんじゃろう。」
「じゃあそのままキイはあの人達を案内するといいよ、はいこれ地下の鍵。」
どれがどれだかわからないので、地下と書かれたタグが付いている鍵を全部渡して、キイと別れる。
シヴと二人でトビーの尻を横目に、庭に置かれた家具を運び込む。命令通りトビーを挟んだまま待機しているローランに聞けば、さっきみんなで紅茶を飲むのに使ったテーブルはまさかのローランの物だったらしい。見覚えがないはずだ、というかすでに家具を用意している所は本当に抜け目ないと思う。雇い主である俺が用意する物のような気もするんだが。
つまりは最初に到着した家具は、領主館から運ばれてきたローランお気に入りの家具達だったという訳なので、全て使用人室に押し込んだ。
偶々打ち合わせか挨拶だかに家具屋の店主が来たのと被ってしまって、俺達の誰かのものだろうと勝手に思いこんでいたが、おそらく今運ばれているキイのベッドが第一号だろう。
使用人の私が自分でやります、とローランは言ったが、他にやる事もないので配置だけは自分でしろと伝えて、トビーの封印を続行してもらった。




