入居します⑨
西の山にある龍の穴、そこに住む龍は人と会話ができるとタークスさんが言っていた。そして、貴族に信仰者が多いとも。本当に存在しているかは不明だったが、どうも信憑性が出て来たな。だとしたら忘れそうになるがトビーは国王なのだ、顔見知りでもおかしくはない。
ローランがココノエさんをどこかに預けて帰って来た。後ろには先日の家具屋の店主さんもいる。
どうやら家具を数点持って来たようだが、後で運び込むから庭にすべて置いておいてくれと頼んだ。その家具の中からテーブルセットを出して、お茶でも飲みながらトビーの話の続きを聞く事にしよう。
ローランはシヴに買って来た酒を渡す、どうやら奮発して高い物にしたようだ。そして気が利くというか、メイドだから当たり前なのだろうが、俺達の分の紅茶を淹れる為のお湯とカップも調達してきていた。
「ローラン、ココノエはどうした?」
ハバキ様が訊ねる。
「はい、ハバキ様の馬車に投げ込んで、御者にいつもの所へ行くように伝えましたから大丈夫だと思いますよ。」
「そうか、助かるといいが……。」
「死んだ方がスッキリしてよろしい気もしますけど。」
「ココノエのしていた仕事が全てお前にまわってくるのだぞ?」
「師匠には是非長生きしていただきたいものです。」
いつもの所というのはわからないが、医者の類なんだろう、外部に漏れないような特別な。
すでにテーブルで紅茶を飲んでいるトビーの正面に腰掛けて、火龍の牙の話を続ける。
「しかし火龍とおまえが友達ってのは盛っただろいくら何でも。」
「ノノン、友達で間違いないよ、良い紅茶があれば余の所へ来て一緒に嗜む仲さ。」
「龍の方から?」
「そう、龍の方から。一部の者達しか知らない事なんだけど、この国は龍と契約をしているんだ。龍の中でも変わった龍でね、静かにのんびーり暮らすのが理想なんだってさ。だから龍の存在は出来るだけ拡散しないように水面下で抑止しているんだけど、その見返りとして剥がれた鱗とか抜けた歯とかくれるんだよ。」
「いくら何でも龍が来たら目立ってどうしようもないだろ。」
「その点は大丈夫、変わってるって言っただろ~ん? 静かに暮らしたい彼女は、努力の甲斐あってある魔法を生み出したんだ。」
彼女……? 雌なのか。
「誰にも見つからなくなる魔法とかか? 多少気配を消すようなのは聞いたことあるけど。」
「近いけどそんなもんじゃないよね。彼女は自分の姿を……」
「か、変えられるのか?」
「そほおおんな訳ないじゃんほんとおバカ、でも半分せいか……あああ熱っつ!熱い!!」
気付けば俺はトビーに紅茶をぶっかけていたが、即座にローランが二杯目を注いでくれたのでそれもぶっかけた。三杯目の紅茶を一口飲んで、怒りが少し落ち着いた。
「面倒だからさっさと話せ。」
「だぁかぁらぁ! 要はね、変身するとかいう訳じゃないんだけど、周りの人間からは人間に見える魔法を生み出したのさ。その魔法を使って来るからばれないの!」
「変身じゃないのかそれは。」
「ノン、だって実際に触れると見た目と全然形が違うんだよ、あの混乱体験は是非皆にも味わってほしいな~。」
とにかく、西の山の龍は友好的で、直接「火龍の牙下さい。」って言いに行ってみる価値があるって事か。
「しかし今の時期は龍の元へは行けないと思うぞ?」
ハバキ様が縁起でもない事を言い出す。
「何でですか? 俺でもその辺の魔物には負けない自負はありますけど。」
「魔物より厄介なのだ、この時期は龍の穴の近くで一斉にサツマタケが生えるからな。」
サツマタケ? 何か聞いた事有るような無いような……。キイにチラっと目で助けを求めてみる。
「サツマタケか、厄介じゃの。あのキノコが出す毒の粉は強力な魔物も殺す程に強いからのう。」
「あ、殺魔茸か。軽い振動でも毒粉まき散らすんだっけ?」
「そうじゃ、急いで治療すれば解毒は出来るが……、毒粉の中を進むのは無理じゃの。」
「そういう事だ。穴の中も安全かどうかわからん、龍には毒が効かないからな。仕事に使うからとココノエが採取に行く事もあるが、あいつですら穴まで辿り着ける気はしないと言っていた。」
「大人しくサツマタケが消える時期を待つんだねえ、えーと、後四カ月くらいかな~?」
ハバキ様が頷いて、こちらを見る。
「その位だな、寒くなれば奴らは根を残して土に帰るからその時に……」
「なんてね~!! 今からでも全然行けるよ~!?」
「ビーちゃん何を言い出すんだ! そんな方法はない、騙して友人を殺す気か。」
「殺す気なんかないよ、殺せないんだから。」
……あ、そういう事ね。
「わかった、俺が直接頼みに行ってみるよ。」
「貴公は話を聞かない病気でも患っているのか!? 行けば死ぬと言っているだろう!」
「トビー、ハバキ様には全部話していいから、向こうの部屋で説明してきて。一々止められたんじゃ話が進まないよ。」
「え~、いいのかい?」
「いい、いいから。但し、例の呼び名を出したら領主館ごと焼き払うってちゃんと付け加えといてくれ。キイもシヴもいいだろ?」
「仕方ないのじゃ……。」
「しゃーねーだろこうなったら。」
十分後、トビーとハバキ様が自分の席に戻ってくる。今まで言いたいのに我慢していた事をぶちまけて、ひどくご満悦な顔のトビーと、どういう感情になれば正解なのかわからないせいで無表情のハバキ様が席についた。




