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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
35/209

酒と薬③♦

「白々しい! わかってて振りぬいたんだろうが!」

 落下しながら体を捻らせ、今度は縦一文字にシヴの剣が振り下ろされた。素早く横移動で躱しながら、ココノエは剣を鞘に収める。

 シヴの叩きつけで砂埃が巻き上がる中、それを気にもせずにココノエは着地したシヴへと詰めつつ、先の一閃の時よりも上半身を前に倒した。


「これはどうする?」

 地上僅か数ミリを通って斜めに斬り上げられたココノエの剣がシヴに迫る。

 大地にその半分ほどがめり込んだ剣を握っていた左手を離し、シヴは軌道を読んでぎりぎりで避けつつ、右手で剣を引き抜きながらそのまま打ち上げた。

 空を切ったココノエの剣と、下から追いついたシヴの剣が交差する。ココノエの剣は両断され、刀身が回転しながら宙を舞った。


「はっ、見直しましたよ!」

 そう言いながらすぐに折れた剣を捨て、同時にコートの下から液体の入った小瓶を取り出し地面に投げつけるココノエ。小瓶は割れ、液体は空気に触れる事で大量の黒煙を出す。シヴは追撃を警戒し、振り上げた剣を停めずにそのまま回転させたが、ココノエは後方に退いた後だった。すぐにシヴも黒煙の発生源から離れる。


「しょーもない事ばっかりしやがって、矜持はねーのかよ矜持は。」

「あなたのような下らない生き方はしておりませんので。私が生きて相手が死ぬ、その結果に行き付く過程に興味はございません。」

「つまんねー野郎だな、その割には喧嘩楽しんでるように見えるがよ。」

「あくまで仕事の話ですから。闘争は楽しいですよ、否定はしませんね。そして、あなたは最終試験にも合格しました。」


「そうかい試験官様よ。で、どうなんだそれで、大人しく帰る気になったか?」

「最終試験合格はすなわち、殺す価値……あ(・)り(・)です!」

 刹那、シヴの足を狙って毒の塗られた投げナイフが飛ぶ。咄嗟にシヴは剣で弾くが、その隙にココノエはシヴの背後を取りつつ、コートの中から先程シヴに斬られた剣と同じ物を取り出し一閃の構えに入る。



(なんて速さだ、ココノエさんがあのような体術を使えるなんて思いもしなかった……。)

 ナインハルトは落ち着きを取り戻し、二人の戦いを冷静に見ていた。今まで疑う事無く普通に接してきていた老執事の本当の顔。一朝一夕で身に付くとは思えない超人的な身のこなしと、技の数々。

 実際にココノエがアサシンとして自分を狙って来たら、撃退どころか、逃げ切れる自信すらなかった。


(シヴ様の本気は未だ見た事はないが、さっきまでのシヴ様が本気だとしたら……? このままでは、下手をすればシヴ様が殺されてしまうかもしれない……、それほどココノエさんは間違いなく強い。)

 しかし、そんなナインハルトの心配は杞憂に終わる。結論から言えばシヴは未だ本気には程遠い状態で戦っており、見慣れないアサシンの技、それを引き出させ、自分の目で見る為に相手に合わせているだけだった。



「やはり私の方が強いな。」

 ココノエの抜刀斬り上げがシヴの背後で放たれる。ココノエもナインハルトも、歓喜と悲観の違いはあれど、シヴの死を確信した。しかし、次の瞬間ココノエの視界が唐突に回転を始める。

 小細工無し、ただただ速いだ(・)け(・)のシヴの裏拳が頬にめり込み、その勢いで体ごと回転して吹っ飛ばされたのだ。

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