酒と薬①♦
「おっさんのおしっこの心配なんかするか!」
「そう言うなよ、荷物だけ頼むな、な。」
シヴは愛剣以外の荷物をアレンに預けると、ギルドの方へ向かう。
自分にだけ向けられている鋭い殺気、隠そうとするどころか、故意に気付かせようとしているそれは、タークスの店からずっと続いている。
ギルドでは相変わらず依頼待ちのクロウが、表のテーブルで朝から酒を飲んでいるが、試験の時と違って、シヴの姿を見ると皆立ち上がって挨拶するようになった。
「おはようございますシヴさん、今日も依頼はないみたいですぜ。」
「いや、仕事しに来たんじゃねえ。ちょっと俺に喧嘩売りたい奴がいるみたいなんでな。」
「シヴさんに喧嘩を!? そんなバカがいるんですかい? もしかしてまたギルドマスターが?」
「ちげーよ、ナインハルトには喧嘩の場所を借りるって言いに来ただけだ。」
シヴは受付のヒルダにギルドマスターに用があるとだけ伝え、返事も待たずに奥の部屋へと入る。
「これはシヴ様、残念ですがまだ依頼は……。」
「そうじゃねえ、悪いが裏庭を借りたいんだ。」
「裏庭を? 何に使われるんですか?」
「すぐわかる、誰にも迷惑はかけないようにやるから心配いらねえ。」
あらかじめオウル試験があるとわかっていれば見物人も訪れるギルドだが、普段は用事も無く訪れる者はいない。町の人間に万が一でも被害が及ばないようにするにはうってつけの場所だ。
「……もしや誰かにつけられているのですか?」
「察しがいいな、そういうこった。善人から恨まれるような事はしちゃいねーがよ。」
「わかりました、好きに使われてください。ただし、私もご一緒させてもらいます。」
「断る。」
間髪入れずにナインハルトの出した条件を突き返すシヴ。ナインハルトは承知の上だという顔をして別の条件を出す。
「いいでしょう、その代わり一切の被害が出ないように私も庭に出ます。もし町の方達や依頼人が来たら大変ですから、構いませんね?」
「好きにしろ、あっさり終わってつまんなくても文句言うなよ。」
最初から見物すると言えばシヴは止めた。人が来ても護る自信はあったし、そもそも殺気だけは向けながら、相手は今に至るまで手を出して来てはいない。向こうはシヴ以外に手を出す気はないとわかる。わざわざ見世物になる気はなかったのだ。
ナインハルトはシヴの本気の剣が見てみたいと思えど、自分の腕ではそれを引き出す事はできないと理解している。今後、無理やり襲い掛かりでもしない限り、何度手合わせを願っても断られる事も。
「シヴ様に感謝します、間近で見られる機会をくれたその相手にも。」
「へっ、おまえより弱えー可能性だってあんのによ。まあ強かな奴は嫌いじゃねえ、しっかり見とけよ。」
ナインハルトはすぐに見物の準備をする。ヒルダに表のクロウ達を追い払わせ、裏庭に繋がるもの以外の扉や窓をすべて閉めさせた。建物の中に光は無い。
「もういいか? 殺気が強くなった、あちらさんもここが気に入ったようだぜ。」
「はい、鎧等はご用意できますが必要ですか?」
「わかってて言ってんだろおまえさん、要らねえよ。」
シヴは着流しの袖をまくって、腕をポンと叩いた。裏庭に続く扉がヒルダによって開かれ、身長程ある大剣を逆手に持った無精髭の中年剣士と、美しい金髪の青年剣士が外の光に飲まれていった。




