入居します⑥
「いやーまさか君達がハーちゃんの領地に住むなんてねー! 言ってくれれば余の城の近くに大豪邸でも用意してあげたのに何で言ってくれないの恥ずかしいの?」
「ピンクの家なんかいらない、ハーちゃんて誰だよ。」
「君達自分の住んでいる所の領主も知らないのそんなことで大丈夫なの頭おかしいの?」
「ハバキ様なら昨日聞いた、ハーちゃんという人は知らない。」
「ハバキなんだからハーちゃんに決まってるじゃーーーん普通わかるでしょそんなの、ローランちゃんこんな人の下で働いて大丈夫?」
うるさい。とにかくうるさい。わかってて相手しなかったに決まってるだろ。
ローランは楽しそうにしているが、トビーが来る事を教えなかった事は許せないので、後でシヴのゲンコツだな。
……シヴ?
「あれ、そういやシヴは……。」
「それについては私から謝罪したい。」
トビーの後ろから身なりの良い女性が出て来た。
「私がこの地を治めるハバ=キリコだ、よろしく頼む。」
トビーの従者か何かだと思っていた女性がハバキ様だった。そしてハバ様が正式だった。
「いえこちらこそ、ハバ様にお会いできて光栄です。」
「いや、ハバキでいい、皆そう呼ぶ。それに光栄だなんて微塵も思ってはいないだろう?」
確かにどうでもいい、この人がそうか~くらいの感じだな。
「で、シヴの件で謝るっていうのはどういうことですか?」
「余が話してしんぜーる! あ、そうそう、火龍の牙の話とどっち聞きたい? どっちかしか選べないとしたらだけど! まあどっちも話してしんぜーーーる! んだけどね、余って優しいから。」
うざいったらこの上ないな……。
「余とかいう奴に知り合いは居ない、早く帰ってくれていいから。ハバキ様、お話伺えますか?」
「ちょちょちょ! 待って待って、王様になったら余って言うもんでしょう! 違うとは言わせないから!」
ハバキ様だけを入れて窓を閉めようとしたところで無理やり上半身を滑り込ませてきやがった。あと王様が余って使わなければならないなんて聞いたことない。
「取り敢えず違うとは言っておくぞトビー。わかったらもう少し静かにしてくれ。」
「はいはいわかりましたよ。それで、君達はどっちの話から聞きたいのかな? 余のオススメはそうだねえ……、ハーちゃんのところの戦闘狂と戦ってる黒剣のおじさん剣士の話かな?」
ニヤリと笑ってこちらを見るトビー、しかし下半身は窓に挟まったままである。顔だけが鹿爪らしいこの滑稽な物体は、シヴが何かと戦闘中だという。
「本当にすまない。うちで執事をしているココノエは、強者と聞くとすぐに手合わせをしたがるのだ。手合わせだけならいいのだが、熱くなると相手を再起不能にする事も……、ある。私は止めたのだが聞かなくてな。言い訳はしない、ご友人に何かあったら出来る限りの謝罪はさせてもらう。」
ハバキ様は何でトビーなんかの友達をやってるんだろう、かなりの常識人っぽいのだけど。やっぱり王には逆らえないから表向きだけ合わせてるのかな、心労溜まるだろうに。
「しかしなんでまたシヴに? オウルになれたからって言うんじゃそんな強者認定されないでしょ?」
「それは……、その……。」
「国王様が挑発されました。」
にこやかにローランが言い放ったその一言で、ハバキ様が溜息と同時に頭を抱えた。
「そうそう、ハーちゃんは隠そうとしてるみたいだけど庇ってくれなくて大丈夫だよーん。昨日、余がハーちゃんのお家で君達の事を知った時、ちょうどその場にココノエお爺ちゃんもいたんだよねえ。」
「師匠は最初全く気にしておりませんでしたが、国王様が師匠の肩を叩いて仰いました。この人さ、君より遥かに強いから今までみたいな事しちゃ駄目よ? と。」
「それで火が点いてしまったようなんだ、すまない。ローランは挑発と言うが、ビーちゃんはご友人を守ろうとしてくれただけなのに……。これは止められなかった私の責任だ。」
いや、それ挑発で間違いないよ、だって窓に挟まれたピンクの物体ニヤニヤしてるし。
「そういうわけだから今シヴ君は闇の世界で伝説になってるアサシンと戦ってるよー、死んじゃうかもしれないよー、助けに行かなくていいのかい?」
「そうだ、私とローランも手伝う! どうにかして止めねば。」
「えっ!?」
ハバキ様はかなり焦っているようだ。ローランは嘘でしょ? みたいな顔をしているが。
「じゃあ、火龍の牙の話をしてもらおうか。な、キイ?」
「そうじゃの、今はシヴの事より火龍の牙じゃな。」
「な、友人を見捨てるというのか!?」
さらに焦るハバキ様。困惑と怒気の混ざる声だ。
「いや、見捨てるというか、そもそも心配してないです。ココノエさん? でしたっけ、その人は怪我をするかもしれませんが、そっちから仕掛けて来たんなら文句無しでお願いします。」
「ほ~ら言ったでしょ~? 心配いらないんだよ。見た事無いから信じられないのも無理はないんだけどねえ、ココノエお爺ちゃんの腰の心配でもしてあげた方がいいよ? 老人は大事にしなきゃあ、ね、ハーちゃん。」
「ココノエはそんな甘い奴ではないぞ、人間を壊す事や殺す事をなんとも思わないのだ! 老いた今でも近衛騎士より遥かに強……」
「くそピンクの御守りしてるようなヒョロヒョロ剣士と一緒にすんじゃねーや。」
そう言いながらシヴが、トビーが挟まっている窓と反対の窓を思いっきり開けて入ってくる。当然トビーはもう一枚の窓にも挟まれて、変な声を出していた。
「シヴおかえり、おしっこ漏らさなかったか?」
「問題ねーよ、こいつは漏らしたがな。」
シヴが手に掴んでいた物を投げ捨てる。それはボロボロになった老人だった。




