入居します⑤
興奮するキイはさておき、一応全ての部屋を皆で見て回る事にした。
地上の部屋の作りに余り差はないが、エルフからしてみれば重要な部屋は地下にあるのだからそれでいいのだろう。
庭に抜けられる部屋が存在していないのも、モンスターや猛獣が侵入してくる事を警戒したエルフ建築だかららしいが、人間の文化を見て気に入ったのか無理やりつけられたのか、後で増築された方の屋敷にある広い居間の大きな窓を開放すれば、そのまま庭へと出られるようになっていた。
未だ掃除中の部屋は飛ばして、最後に浴場を見たのだが、確かに広かった。
森の中で生活する為、極力火を使わないような文化が構築されてきたエルフ達は風呂に入らない。王族は泉を含む土地に城を立てているので専用の部屋があるらしいが、川や泉で沐浴をするのが一般的で、そこに男女や貴賤貧富の差はない。
「水で十分じゃろう。温泉は特別な物なのじゃ。」
旅を始めた最初の頃はキイもそんな風に言っていたのだが、今ではすっかり風呂好きになってしまった。
「見よアレン! 今晩が楽しみじゃのう!」
子供のようにはしゃぐキイ。
「このくらいなら今までの宿屋でも結構あったじゃないか。」
「わかっておらんのうお主は。これにいつでも入れる素晴らしさ、我が家にあるということが感動的なのじゃよ。」
「そんなもんかな。でもこれだけの量を沸かすの大変なんじゃないか? いつでもってわけにはいかない気がするけど。」
俺がそう言うと、キイが縋る様な目で聞いてくる。
「な……、しかし宿屋の風呂は大抵いつでも入れたではないか……、それは今までの宿すべてがという訳ではなかったが……。何を買えばいいのじゃ? ワシが払うのじゃ。」
「そう言われてもなあ、温泉を引いていた宿もあっただろうし……。」
「それでしたら解決策がございますよ。」
ローランが見かねたのか助け船を出してくれる。
「なんじゃと、……まさか常に沸かしておく人間を雇えとかではあるまいな?」
いつまでも浴場を見ていても仕方ないので、みんなで庭の方に移動しながらローランの話を聞く。
「いえいえ、希少ゆえ貴族のお屋敷でも使っているところは滅多にございませんが、【火龍の牙】と呼ばれる常に発熱している石があるのです。物によってその温度は違いますが、その発熱は五十年以上続くと言われておりますので、首尾よく理想のそれを手に入れられたなら……。」
火龍の牙か、初めて聞いたな。石って言ってたし、想像では火山帯なんかにありそうだけど。
しかし鉱石が常に発熱している何てことがありえるのだろうか。
「タークス、お主は知っておるかの?」
「いえ、申し訳ございませんが初耳でございます。おそれながら、そのような物が存在しているとはにわかに信じがたい話でございますねえ……。」
「あら、私嘘はついておりませんよ、ただし証拠もお見せできないので証明は出来ませんけれど。」
庭が見える居間に到着した。
「よい、ローランを疑ってはおらんから大丈夫じゃ。必ず見つけ出してやるのじゃ。」
キイは希望を失いたくないのだろう、斜め下を向いたままローランにそう言った。
「何を探しているのかなー?」
「何ってそりゃ火龍の……牙……。」
あれ、この聞き覚えのある声は……。
「火龍の牙? あああれはね、龍に貰うんだよ。」
キイが目線を動かさずに俺の服を引っ張る。
「ア、アレン……、聞き覚えのある声がするんじゃが気のせいかの……?」
「いや、残念なんだけど、本当に残念なんだけど、気のせいじゃないみたい。」
「あら、聞いていたよりお早いですね。」
ローランは知っていたのか。そりゃそうか、黙ってやがったな。おずおずと声のした方に視線をやると、痛くなるほど目に飛び込んでくるピンク色の暴力。縦に巻いてある金髪、黒い口髭。
「余に会いたかっただろ君達ー! 待たせた事は謝るけど会えた喜びと感謝でチャラだから問題ないって顔してるから大丈夫だね!」
そこには現国王、トビーが居た。




