入居します④
屋敷の門扉の前で、タークスさんから鍵を受け取る。エルフの屋敷は特殊な鍵が使われるらしいが、空き家になった時に一般的な鍵に交換したとの事だ。
「庭の刈込も終わったようですね、庭師はもう帰ったようなのでご挨拶させられませんでしたが、うちに連絡くれればいつでも来させますんで、気に入ったら今後も使ってやってください。気性の荒い女ですけど腕は確かで仕事は真面目、料金はどこよりもお安くさせてもらってますよ。」
髭のおじ様が軽い営業を挟んでくる。
でも確かに庭は見違えた。最初に見に来た時は草も木も伸び放題で陽を遮り、折れた木の枝なんかも散らかってたけど、今はテーブルでも並べて優雅に紅茶でも飲んでいる姿が似合いそうな気がする。子供と大きな犬が走り回ってそうな、そんな感じだ。
「そうですね、月一くらいは頼むかもしれません、その時はよろしくお願いします。」
「ありがとうございます、是非是非。それじゃあ私は残りの部屋の確認があるので一旦失礼します。終わりましたら報告に行きますんで。」
会釈して屋敷の裏手に消えて行くひげおじ。
「さて、では我々も中を確認しに参りましょうか。」
タークスさんを先頭に正面玄関から屋敷へと入る。玄関を抜けてすぐに広がる、各部屋が見渡せる空間。その中央には巨大な柱があり、その柱を挟むように手前には右へと昇る階段、奥には左へと昇る階段が設置されている。
階段から続く廊下は奥に向かって伸びていて、ドアを四枚過ぎたところで枝分かれし、逆側の廊下から伸びる同じ物と空中で交差していた。
「店に残っていた資料を見る限りでは、二階左に八部屋、右に八部屋ございます。化粧室は各階二ヵ所ずつ、一階左は食堂、厨房、右は使用人の部屋がございます。」
「あら? 地下じゃないのですね。」
ローランが反応した。普通は地下なのだろうか、その辺はよくわからないんだけど。
「エルフからすれば地下は屋敷でも大事な場所じゃからな、土と根に護られておるからの。大事な儀式や会議は地下で行われるし、客人や主人の部屋はこの屋敷でも地下にあるはずじゃよ。」
「え、俺地下に住まなくちゃならないの?」
「あくまでエルフにとってはという話じゃから、別に好きな部屋に住めば良いのじゃ。エルフの慣習を押し付ける程狭量ではないから安心してよいのじゃ。」
「そういう事でございましたか、これは勉強になりました。」
タークスさんも屋敷の作りに得心が行ったようだ、説明を続けてくれる。
「今キイ様が仰られたように、地下にはその柱を中心にした広いお部屋がございます。多目的に使われていたようでございますね。こちらに住んでおられたエルフの貴族様のお部屋や執務室等を含めまして、全部で六部屋となっております。」
地下にそんなに部屋作ってるのか、キイはわからないが俺達ではあまり使う事は無さそうだな。
「一階に戻りまして、奥の扉から出る廊下は、浴場に繋がっておりますね。地下への階段もその廊下の先に。そして人間の建築士が建てたと書かれている別館にも繋がっております。こちらで暮らすのに必要になったのか、その別館に図書室や大広間が設置されておりますね、それに付随した衣装室や控室もございます。」
「ほう、タークスよ、間取り図を見せて貰ってよいかの?」
「ええ、ええ、こちらでございます。これはアレン様の所有物となりますので、そのまま保管されてください。」
タークスさんから渡された間取り図を楽しそうに眺めているキイ。エルフの建築に人間の建築が混ざった、不思議なこの建物の背景に思いを馳せているんだろうか。
と、突然バッ! とこっちを見るキイ。目は見開かれ、鼻息は荒く、ひどく興奮しているのが伝わる。
「アレン! 風呂が予想より大きいのじゃっ! これなら十人くらいは一緒に入れるのじゃっ!」
歴史を紐解く考察でもしてたのかと思ってたのに、実際は全く以てそうでもなかった。




