入居します③
タークスさんの店を訪ねると、誰かと話しているタークスさんが窓越しに確認できた。タークスさんもこちらに気付いて、ニコニコとドアを開けてくれる。
「これはこれはアレン様、屋敷の清掃の進捗の報告をたった今受けていたところでございます。」
という事は横に居る髭のごついおじ様は清掃業者の人か。
「もう清掃は終わったんですか?」
「いえ、それはまだでございます。ですが昼までには終わるとの事ですので、作業中ではありますがこれからご一緒に参りませんか?」
「邪魔になりませんか?」
それを聞いて髭のおじ様が説明してくれる。
「とんでもない、片付け撤収まで含めて昼までなんで。あと残ってるのは二部屋と……、庭くらいですから、作業完了してる部屋はもう使い始めてもらってもいいですよ。」
中の構造がどうなってるのかわからないまま買ったからな。早く見てみたいのもあるし、そもそも今から他にやる事もないので、タークスさんの申し出を受ける事にしよう。
「わかりました、じゃあみんなで行きましょう。」
「左様ですか、では準備を致します。」
店の前でタークスさんを待っている間、シヴが少し緊張しているように見えたので、少しほぐしてやるかと思い話しかけてやる。
「シヴ、自分の部屋が手に入る喜びは理解できるけど、我慢しないでおしっこならおしっこって言えよ?」
ゴツッ! と重い音が響く。
無言でゲンコツを落とされてしまった。照れ隠しにしたって痛すぎるだろ、それとも図星で悔しかったのか……。
「お待たせいたしました、参りましょう。ああアレン様、例の血判状は問題無く受理されましたよ。少し血が薄いと文句を言われましたが。」
「え、薄いとか濃いとか関係あったんですか?」
そんな事初めて聞いた。そりゃかさぶた剥がしただけだからな、べったりとはいかなかったけども。
「ええ、私もあれは使う事がほぼ無いですし、使った時も皆様ナイフで指先を切っておられたので知らなかったのですが……。薄い、というか少ないと特定するのに魔力を多く使うそうでして。」
「そりゃ失礼しました。魔法が使える人の気持ちなんか俺達にはわからないですからね。」
「ごく一部の人間と魔族の方だけでございますからねえ、エルフの方々は精霊とお話できると聞いたことがございますが。」
「またその話か。エルフ全てがそうではない、魔法が使える人間と同じように、それが出来るのはごく一部の者だけじゃよ。」
エルフが精霊と意思疎通ができるというのは、実際は人間の間で広まった都市伝説みたいなもので、旅の途中幾度となく振られた話題だ。
キイも最初の頃はタークスさんにしたように説明してたし、その後に続く様々な質問にも間違いを正そうと真摯に答えていたが、どの町でも言われるので途中から面倒になったのか「それは精霊の怒りを買うから詳しくは話せんのじゃ。」しか返さなくなった。
そんな感じで談笑しながら屋敷までの道のりを半分程来たところで、シヴが俺の肩を叩く。
「アレン、さっきはすまなかったな、実はもうしょんべん我慢できそうにねーんだわ。」
「は? 何だよやっぱり緊張してたのか、ここからならギルドに行った方が近いし、トイレ借りたらいいじゃないか。まああっちには川も流れてたから好きな方で。」
「わりーな、なるべく早く戻るからよ、心配しねーでくれ。」
「おっさんのおしっこの心配なんかするか!」
「そう言うなよ、荷物だけ頼むな、な。」
シヴはそう言うと荷物を俺に無理やり持たせ、静かに皆から離れて行った。
「シヴ様、どうかお気を付けて。」
ローランがぽつりと漏らしたのが聞こえた。
「おしっこの心配してる人いたよ……。いいんだよ本当に心配してやらなくて。」
「うふふ、そうですね。シヴ様ならおそらく何の心配もございませんね。むしろ……。」
ローランはいつもの微笑みに戻っているが、この笑顔はやはり目が笑っていなくて怖い。
「むしろ?」
「いえ、なんでもありません。シヴ様、お漏らしにならないといいですね。」




