入居します②
「おはようございます皆様、本日からよろしくお願いいたします。」
ローランはピーニャを撫でまわしながら、宿から出た俺達にお辞儀をする。手を止める気は無いらしい。
「おはようローラン、待たせて悪かったね。」
「とんでもございません、今からでもお戻りになっておかわりされても私は一向に構いませんよ?」
「まーだ撫でたりねーのかよ、ほっといたらそいつの毛が全部無くなっちまわあ。」
呆れたようにシヴが言った。
苦笑いしていると、突然俺の横でキイが手をパンッ! と合わせて、ピーニャに向かって質問を始める。
「思い出したのじゃ! ピーニャ、お主の父上の名はドルフというのではないのか?」
ドルフ? ドルフって誰だ。そういえばキイはピーニャの名前に聞き覚えがあるとか言ってたっけ。
「パパの名前はドルフにゃよ、パパを知ってるにゃ?」
「知っておる、何度か会った事もあるのじゃ。」
「獣人に知り合いでもいんのか?」
シヴも俺と同じ事を考えてたみたいだ、そりゃ獣人とエルフは生活圏が近いので知り合いくらいは居るのかも知れないが。
「ドルフというのは略称で、本来はドゥルフヴァンシュタインと言うのじゃ。」
「あ? それって獣人の王様じゃねーか。」
シヴが片眉を上げて顎に手を当てる。
「左様、王族同士の付き合いで会食をする機会があっての。その時にワシはピーニャにも会うておる、まだ赤子じゃったが。」
「それって王女様って事じゃないのか?」
思わず口に出てしまった。
「ざっくり言うとそうじゃよ。」
聞けば聞くほど疑問が増える。ざっくりって何だよ、そもそも他種族とはいえ、王族が王族の名前を忘れるって失礼過ぎるんじゃないのか、ていうか王女様がこんな所に独りで居るか?
頭の上に疑問符を浮かべていると、ローランが教えてくれた。
「アレン様もシヴ様もご存じないのですか? 獣人族は最も優れた者が王となるのですが、それは知っていますね?」
それは知ってる、性別年齢問わず、我こそはと思う者が王に挑戦して、心・技・体の全てが勝れば王を交代するんだっけ。
「わかった、今は王様が変わっちゃって一般人だとか?」
「惜しいけれど違います、今も獣人の王はドゥルフヴァンシュタイン様ですよ。申しましたように、獣人族は優れた者が王になるという世界です。王の娘が王女であるという見方をすればこの子は王女ですが、その血族が王位を代々受け継ぐような仕組みではありませんから、そう見ればこの子は元々一般人です。」
「や、それは理解できたけど、王の娘なんだし護衛くらいは付けないのか?」
「一般人ですから。ドゥルフヴァンシュタイン様も肩書、というか仕事が王というだけで、贅沢な暮らしをしている訳でもございませんよ。もちろん最も優れた者ですから、他の獣人からは敬われておりますが。」
獣人族は謎が多いな、町で見かけたり集落に何度か立ち寄った事はあるけど……。
「すまんなローラン、説明感謝するのじゃ。そういう訳でざっと紹介された事があるくらいでの、あまり印象に残らなかったから今まで思い出せずにいたのじゃ。」
キイがローランに感謝を述べて、そのままピーニャへの質問を続ける。
「ドルフの娘というのはわかったのじゃ、ドルフは何をしにこの町へ来ておるのじゃ?」
ピーニャは一寸考えて答える。
「わかんにゃい、誰かを探してるとかいってたにゃ。」
「ほう、人探しか。お主は一緒に探さぬのか?」
「ピーニャは危ないからこの町で待っててって言われたんだにゃ。」
「む? 危ないとな? ドルフはこの町におる訳ではないのか?」
「う~ん、わかんにゃい。もう一週間くらい会ってないから居ないかもにゃ~。」
一週間? 一週間も子供を放っておくなんてどうかしてるだろ。
「なんだそりゃ! 自分の子共だろ? おかしくないか、その間ご飯とか寝る所はどうしてるんだ!?」
思わず怒気の混ざった声が出てしまう。
「アレン様、狩りを主体とする獣人族では普通です。獣人族はピーニャちゃんくらいの歳になれば自力で生き抜けますので、心配する必要はありません。そのような声を出しては怯えてします。」
ローランに窘められる。
「ご、ごはんは派手な服の黒いおじさんがいつもくれるにゃ……。」
本当に怯えさせてしまったようで、ローランをギュッと掴みながらおずおずと喋るピーニャ。
「ごめんピーニャ、怒ってなんかいないから怯えないでくれ。」
「……本当にゃ?」
「本当だよ、大丈夫。」
反省して出来る限り笑顔を作ってみた。
「危ないから、という部分が引っ掛かるが、王になるくらいじゃからの。実際に闘う姿を見た事はないがドルフもその辺の者に後れを取るような事はないじゃろう。心配せずとも探し人が見付かればすぐに迎えに来る筈じゃ。」
「パパは強いからにゃ~、ママも一緒だから誰にも負けないにゃ。」
「ピーニャ、パパとママが来るまで俺達と一緒に居ないか? ローランも喜ぶと思うし、キイも知り合いなんだろ?」
父親と母親に絶大な信頼を寄せるピーニャを見て、人間の俺の価値観を押し付けていたことを反省しつつ、やっぱり心配な部分は抜けないので誘ってみた。
「ピーニャはのんびり待つから行かないにゃ。ご飯くれるおじさんもすっごい面白くて今日も楽しみなんだにゃ。」
しかしあっさり振られてしまった。まあ同じ町にいるんだし、何かあれば助けてあげられる事もあるかもしれない。気には留めておこう。
ところで派手な服の黒いおじさんってのは誰なんだろうか、間違いなくいい人なんだろうな。




