深夜の交信①♦
(さて、今の内に確かめに行くとするかの。)
自室に戻ったキイは、暗い町へ窓からそっと抜け出す。人目に付かないよう細心の注意を払いながら、音も立てずにある場所へ向かった。
程なくしてキイは、明日から住むことになるエルフ建築の屋敷の前に着く。
(問題は人間の町でもあれを作ってあるかじゃが……。)
庭を通り屋敷の裏手に回るキイ。屋敷の裏にも、表程大きくて立派なものではないが、出入口がある。
キイはその扉の前ではなく、扉からまっすぐ正面に生えている大木の前に立つ。
その大木は何本もの木がうねり、絡みあったような形をしており、キイの倍程の高さで一本にまとまっている。何本もの木に見えるものは、この木の根であり、さながら小さな世界樹の様相だ。
キイはその根の一本一本に、順番に耳を押し当ててゆく。七本目に耳を当てた時、キイの口から笑みが漏れた。
(うむ、これに間違いないのじゃ。しっかり作ってあったようじゃの。)
キイはその大木の根を伝って登り、根から幹へと変わる辺りにナイフを突き立て始める。
(流石に長い年月が経っているだけあるのじゃ、継ぎ目が木に飲まれて硬くなっておるわい。)
数分後、ナイフで四角く削られた木の幹をテコの原理で引き出す事に成功したキイは、削った木くずを息で飛ばしながら中を見る。そこには複雑な形にへこんだ、金属の回転盤があった。
(さて、ワシの指輪にこれがあればよいのじゃが。何分古い建物じゃからのう。)
腰に下げた道具袋からいくつかの指輪が革紐でまとめられたものを取り出し、一つ一つ確認していく。
(これが近いようじゃな、どれ。)
金属の窪みに指輪を押し当て、ゆっくりと右へ回す。何度もカチリカチリと音を立てながら、回転盤は一周した。
(よし、遠いか近いかはわからぬが、少なくとも王族の所縁の者が住んでいたのは間違いないようじゃな。)
引き出した四角い木片を幹に嵌め込み大木から飛び降りたキイは、木を半周して、回転盤のあった根の反対側へ回りこむ。回転盤を操作したことによって、その場所の根は人が一人通れる程度に開いていた。
本来、身分の高いエルフが、有事の際に逃走する為の抜け道として作られたものであり、王族と一部の高貴なエルフしか存在を知らないそれは、すべての種族が手を取り合って暮らす今の世では不必要な物となり、次第に作られなくなっていった。
木の中には階段があり、地下へと繋がっている。松明に火を点け階段を降り、館へと続く地下通路に出たところで、壁に埋め込まれた先程の物と同じ窪みの回転盤を見付けたキイは、それを今度は逆回転させる。
回転に合わせて開いていた根はゆっくりと閉じ、やがて間から見えていた夜空は見えなくなった。
(順調じゃな、あとはあれがまだ生きておるかどうかじゃが。)
館へ続く短い地下通路を進むと、すぐに突き当たった。突き当りの壁には小さな通風孔のような穴があり、キイはそこへ躊躇なく潜り込む。
匍匐前進で数メートル、辿り着いたのはまたも突き当りだった。そこには例の回転盤があり、作動させると目の前の壁が下にずれていき、通風孔と地下室が繋がった。
(こちら側はもう閉める必要もないじゃろ、どこに対の回転盤があるか探すのも骨じゃしな。それより……。)
キイの視線の先には、地下室の中心に据えられた巨大な柱がある。世界樹のマナが込められたこの柱は、微かではあるが光を放っていた。
(ふむ、何故かわからんがマナは眠っておらぬようじゃな。手間が省けるのじゃ。)
キイは柱へと近付き、小瓶から取り出した粉をパラパラと柱にかける。
「よし、聞こえるか我が妹よ! 聞こえたなら返事をせよ!」




