メイド雇いました②
「アレン様ですよ、今は。」
「はぐらかすでない、メイドの方へは質問しておらん。」
「ちょっとしたお茶目です。」
アサシンとして仕事をするのなら、当然依頼する奴がいる訳で、おそらく何処かの組織に属しているか、誰かと専属契約しているかだろう。
アサシン組織に連絡が出来る人間に知り合いは居ないので、噂でしか聞いた事はないし、それが本当にあるかすらわからないのだが。
「お答えできません、と言いたいところですが、別に答えても構わないでしょう。私はいつもハバキ様の命令で動いております。」
「ハバキ様とは?」
「あら、ご存じないのですね、この地方を治める領主様ですよ。いつも民を第一に考えているお方です。」
この地方を治めているという事は、当然この町が平和なのは領主の力によるものか。そうなると確かに民の事を考えているのは間違いなさそうだし、それを実行する手腕もあるみたいだな。
「そんな人間が殺し屋を雇っておるのか?」
「殺せと命令された事は一度もございませんね、私も命令で殺した事はありません。」
「ではわざわざメイドに化けてまで何をしておるのじゃ?」
「簡単な事です、ハバキ様がどれだけ理想に向けて進んでも、必ずそれを邪魔する者は現れます。」
「それを消している、と?」
「嘘をつくなと言ったのはキイ様の方ですよ。私は殺せと言われたことはありません。私に渡される仕事は調査と証拠集めが主です。」
つまりアサシンではなくスパイ活動がメインということか。
「では、今契約している者も領主の命令であるというわけなんじゃな?」
「そうです、対象のお屋敷で不満を抱えた使用人を数名トールさんに引き抜いていただいて、別のお屋敷へと紹介いたします。そうして人手不足を作り出しておいて、トールさんに私を紹介していただいておりました。」
それでトールさんが「ローランを見るとみんなすぐ雇ってくれる」みたいな事を言っていたのか。まあローランは綺麗だし、人手不足だけじゃなくて、単にローランに対して邪な事を考えている奴もいそうだが。
「つまりワシらもその対象だというわけか?」
「そうですよ。」
ローランはあっさり答える。
「ですがもう終わりました。役所にシヴ様のオウル試験の話が届いた時点で、ハバキ様へと報告が入っております。私の役目はあなた達の素性と目的を調べる事……。でしたが、この店に入る前に、もうその必要はないと連絡を受けております。それどころか、他の仕事が終わり次第こちらの専属メイドとなるように言われておりますね。」
「どういう事じゃ? 確かにワシ達は疑われる様な事はしていないつもりじゃが、疑いが晴れる様な事もしておらんぞ。」
「領主館に、ハバキ様の古くからの止ん事無きご友人様が遊びに来ておりましてね。その御方があなた方に疑いをかけるなんてとんでもないとおっしゃったそうですよ、ニヤニヤと髭を触りながら。」
領主館に遊びに行けるような立場で、髭で、名前だけでわかる程俺達を知っている人間か。うん、嫌な予感しかしない。それはキイもそのようで、名前が出る前に質問を変えた。
「殺しはしないと言ったが、今朝会った時には完全武装じゃったじゃろお主、あれはどういう訳じゃ。」
「あれは偶然です。トールさんが言っていたように私、2日ずつ別のお屋敷に行っておりまして、今日は本来ならお休みの予定でした。ですから持ち込んでいる仕事道具を回収して、丁度領主館に戻るところだったのです。殺される事もあるかもしれないお仕事ですから、仕事道具だけは必ず持ち込んでおりまして、勿論アレン様のお屋敷にも明日は持ち込む予定ですよ。一応隠してお持ちしますが。」
あの馬車は領主館の馬車だったのか。
「ではシヴに気取られたのは何故じゃ。」
「それは、どう見てもシヴ様がまともな人間に見えなかったからです。私とした事が油断しました、つい。」
シヴが驚いたようにローランを見る。
「あら、そんな驚くような事を言っていますか私?」
「いや、納得じゃ。」
「納得だな。」
言い返す気はないようで、黙って肉料理に手を伸ばすシヴ。しかしその手が届く直前で肉は姿を消した。
「シヴ様お行儀が悪いですよ、これは私が注文した料理です。」
にこやかに笑いながら、ローランはその肉を一瞬で消す。
「まるで魔法だな……。」
「物体を一瞬で消す魔法なんて聞いたこともないのじゃ……。」
「もう聞きたい事は終わりですか?料理に集中してもいいでしょうか?」
「敵ではなさそうじゃし、ワシからはもうない。二人は良いかの?」
敵じゃなさそうなのは俺も同意だ、嘘だったらシヴがお仕置きするみたいだしな。
「俺はねーよ、領主の友達とやらが多少気になるがよ。」
「なんじゃシヴ、わからんのか?」
「ちげーよ、そいつがこっちに来るんじゃねーかって言ってんだよ。」
「「あ……」」
キイと俺の声が揃った。




