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天才魔術師のファンタジック銀河ハーレム無双  作者: 鮫島ギザハ
第一・五話:月面街と宇宙船
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9.あと一歩

 造船所・指令所・滑走路を備え、いよいよ宇宙港らしくなったアルザール。

 必要な建築をすべて終えたオベウスが、満を持して宇宙船の建造に取り掛かる。

 同時に、クルー候補の各員へ宇宙工学――天体の運動や万有引力、三体問題の近似計算などの宇宙航行に必要不可欠な知識――を教え始めた。

 これらの問題は、数学を専門にする魔術師たちによってそれぞれ部分的に学問として取り扱われてはいたが、宇宙工学としてまとめあげたのはオベウスであった。


 ……ちなみに、各員の学習成果はというと。

 メノーが他を突き放して圧倒的トップ、技術者のリーダー的な立場にあるリールクが優秀な理解力を示し、王族としての一般教養で数学を学んだエアナがそのわずかに後ろ。

 機関や兵装のメンテナンスを担当する予定の一般技術者たちが並の成績。

 加えて、レンドール指揮下の兵士のうち数学の素養のあった数名がギリギリ修了した。

 ……レンドール自身は、早々に匙を投げられる結果になったが。


「この結果に基づいて、各自の役割を任命する」


 すっかり定例となった会議の場で、オベウスが言った。


「メノー。お前は操縦士をやれ。航法士も兼任だ。……不安だが、どちらも才能の要る役割だからな。俺のほかに適任者が居るとすれば、お前の他にいない」

「うぃー。任せろい、ばりばりアクロバット飛行してやるぜえ」

「やめろ」


 オベウスが食い気味に言った。


「リールク。お前は技術士官とセンサー士官を兼任しろ。今の所、艦載の魔術センサーはそれほど高性能でもないから、技術者のまとめ役としての働きを期待している」

「はい。えっと……がんばります」

「エアナ。副長を頼む。リーダーシップと補佐の能力で考えれば、一番の適任だろう」

「任せろ」

「レンドール。予定通り、〈宙兵隊〉の隊長を努めろ」

「はっ。謹んで承ります……なんてな」


 砕けた口調の彼にしては珍しく、改まった調子で言った。


「……そして、俺が船長だ。万が一の際には兵装の操作も担当する」


 オベウスは長机を見回して、士官たちの姿を眺めた。


「異論はないな? よし。士官はこれで確定だ。このメンバーに技術者と宙兵隊員を含めた人員で宇宙を旅する事になるだろう。軍隊組織を模した形にはなるが、長い付き合いになることだし、あまり上下関係は意識せずにやっていこう。よろしく頼むぞ」



- - -



 クルーの教育が一区切りついたことで、オベウスは宇宙船の製造へ全精力を注いだ。

 クィンドールの瓦礫から回収されたミスリルを外装に使い、〈シェイプシフト〉で整形して外装を作り上げていく。

 ……魔力資源の豊富な月面だからこれが出来ているが、〈球地〉で同じことをやれば大国だろうが一年分の国家予算が吹き飛ぶだろう。


 加えて、メイン・サブのエンジン三基の部品として超高価な魔術金属オリハルコンをふんだんに活用する。最高の強度や高度な魔力の備蓄・転送能力を持つ素材だ。

 爆発の反動を受けて推進する〈パルス・エクスプロージョン〉式の推進は、当然だが爆風を受ける部分に大きな力が掛かるため、まともな出力を出すためにはエンジンの後部をすべてオリハルコンで構成しなければいけない。

 ミスリルの外装以上に厳しい要求だ。

 魔力資源が豊富な月面といえど、貴重なオリハルコンの鉱脈はまだ見つかっていない。

 が、地下都市の転移魔法陣ほか要所の魔力供給ケーブルに使われていた分のオリハルコンと〈オベウス一号〉のエンジン部分に使われていたオリハルコンを合わせれば、なんとかエンジン三基分の要求量を満たせた。


 そして、兵装。

 ……流石に宇宙戦闘の可能性はないだろう、と見込んでいるオベウスは、最低限の武装に留めた。

 古典的な〈エクスプロージョン〉式の魔術砲を、艦首の下側に一門。

 鉄の塊を撃ち出すだけの原始的な砲だ。特に見るべき点はない。


「うむ……」


 あらかた外装の完成した宇宙船を、オベウスは満足気に見上げた。

 造船所のぎらつく明かりに照らされた、継ぎ目ひとつない流線型の近未来的な形状。

 〈球地〉の木造空中艦とは完全に世代の違う機械だ。

 ……もっとも、完全にオベウス一人の才能に依存したワンオフ品ではある。

 彼が死ねばすぐさまこの艦を作り上げた技術力は失われ、木造艦の時代に逆戻りだ。


 続いて内装工事に取り掛かる。彼はリールクら技術者と協力し、宇宙船にワイヤーや油圧系統、そして魔力回路を張り巡らせた。

 ブリッジに各種計器の大量に配置されたコンソールを配置し、配線を繋げていく。

 加えて、船内の生命維持システムやエアロック、〈クリエイト・エアー〉を使った空気圧式の自動ドア、緊急の気圧低下時に自動で閉鎖される隔壁、居室の個人用空調……。

 最新鋭の高度なシステムが惜しげもなく投入され、船に命が吹き込まれていった。


「オベウス、シートカバーを縫ってきたぞ。これでいいか?」

「ああ。助かる」


 半円状の窓から光が差し込む大きなブリッジへ、エアナが入ってきた。

 彼女は無機質な金属の椅子に落ち着いた色のカバーを被せる。


「……この窓ガラス、大丈夫なのであろうな? 割れたりはせんのか?」

「心配するな。月面から採取した純度の高い石英ガラスだ、大気圏突入にも耐える」

「本当か?」

「ああ。強度は計算した。……加えて、低重力・無水・真空の月面上で製造したガラスは、どうやら普通より遥かに強度が高まるようだ。十分に余裕はある」

「ならいいのだが……」

「おーべーうーすー!」


 金属床にどたどた足音を響かせながら、メノーが転がり込んでくる。


「これ見て! このデータ!」


 彼女の手には、針が大きく振りきった痕跡のあるグラフが握られていた。


「なんか、最近〈夕星〉からの魔力放射が大きくなってる! たぶん、戦争だとか……そういうやつで、大規模な魔術が行使されてる証拠じゃないかな!」

「〈球地〉の魔術と比べて、規模の差はどうだ?」

「比較にならないね! 文字通り天文学的な距離が離れてるのに伝わってくるんだから、かるく数百倍とかそういうヤベー感じの魔力量だと思う!」

「……ふむ」

「どうであろうかな。私達の魔術もかなりの規模であるぞ。特に、月と球地を結ぶ転移魔法陣。あれが発動された際には、魔力の余波だけで突風が吹き荒れるほどだ」

「あー、たしかにこの距離はヤッバいよね。わたしも魔石を用意するだけで全財産使い果たしちゃったし。そっか、このクラスの魔術と比べればそこまでヤベーわけでもないか」


 メノーは納得し、ブリッジから出ていこうとした。


「待て」

「うぇっ。またなにか仕事を押し付ける気じゃーなかろうな!?」

「操縦士席の操縦系統があらかた完成したんだ。試してみるか」

「おーっ、いいじゃん!」


 ブリッジ最前方の中央、もっとも視界の広くなる位置に設けられた操縦席へ、メノーが飛び込んだ。

 操縦桿とラダーペダル、メイン・サブエンジンのスロットルや各種スラスターを操作するスティックに、ものすごい数の計器やスイッチが並んでいる。


「これスイッチってもう回路繋がってる?」

「油圧とワイヤーはな。魔力系はまだだ」

「まだ起動しないんだ。じゃ、ちょちょいっと……」


 メノーはスイッチを凄まじい速度で入れていき、操縦桿を振り回して感触を確かめた。


「何か壊さないといいのだがな」

「心配するな、エアナ。あんなんでも相当な天才だ。俺さえ居なければ時代の中心はやつだったろう」

「……普段はけなすわりに、信頼しているのだな?」

「ああ。長い付き合いだ」

「ほおう……なるほど。そうであろうなあ」

「あっ! 三角関係の芽生え!」

「黙れバカ」


 振り向いてド直球ストレートで殴り込んできたメノーを黙らせ、オベウスはエアナに向き直る。


「お前のことも信頼している」

「私も、か。そうかそうか……」

「あっ、失言!」

「……失言なのか?」

「あいかわらず鈍い男だ」

「ほんとねー。オベウスのやろーはね、酷い男だよ! わかるでしょ、エアナ?」

「ああ。きっと、誰に対してもこんな調子なのであろう?」

「これでも人の気持ちを解するようになったんだよ? オベウスが十二歳のときなんかねー」


 メノーは操縦士席で膝立ちになり、背もたれの上に腕を組んだ。

 エアナが近づいていき、二人の間で内緒の会話が交わされる。


「……でさ、”お前のことは好きだぞ。人類は好きだ。俺たちはみな巨人の肩の上に乗る小人で、先人の積み上げた文明なしには、いかなる天才もその本領を発揮できないからな。お前のことが好きかと言われれば、そういう意味で、好きだと言わざるをえない”って!」

「うわっ。いくらなんでもそれは酷いであろう!」

「だーよねー!」

「声が大きくなってるぞお前ら」

「ひどいぞ、オベウス! 人の好意を弄ぶな!」

「……俺は真摯に対応しているつもりだ」

「だからこそひどい!」

「まったくだ! お前はひどい! ……だが、まあ、それが長所でもあるのだろうな」


 二人はすっかり意気投合した様子だ。

 微妙にあった距離もすっかり縮まっている。


「俺は作業中だぞ。手伝うか出ていくか選んでくれるか?」

「エアナ、どうかな? このあと一緒にお茶でも」

「うむ。ご一緒させてもらうとしよう」

「で! その話の一週間後には、また事件があって!」

「一週間後だと! 懲りないやつめ!」


 二人はきゃーきゃー騒ぎながらブリッジを後にしていった。


「……話題はともかく。仲の良いのは、良いことだ」


 オベウスは呟き、作業に戻った。



- - -



 数日後。


「魔力・油圧系統ともにオールグリーン! 計器に異常値ないです、どうぞ船長!」

「コントロール・チェックしゅーりょー、いつでも!」

「よし。サブエンジン点火」

「あーい、サブエンジン点火、出力十パーセント!」


 両翼の半ばから伸びる細長いサブエンジンのパルス爆発を受けて、船体が振動する。

 オベウスは船長席のコンソールに並ぶ各種計器の針を睨み、遠見の術式で宇宙船の外側を眺めた。分厚いミスリルの支柱に固定された宇宙船から、噴煙が吐き出されていく。


「異常なし。エアナ、ダブルチェックを」

「こちらも異常なし」

「了解。メインエンジン点火」

「うぃー、点火! おなじく出力十パーセント!」


 更に振動が激しくなり、船体のきしむ音が鳴りはじめる。固定されているせいだ。

 オベウスはファーサイトの術式を操作して、各所をくまなく点検した。


「メノー、可変ノズルのテスト開始」

「あーいよー」


 メイン・サブエンジンのオリハルコン製可変ノズルが、メノーの操作に従って動く。

 噴射炎の向きが正常に変わるのを、オベウスがファーサイト越しに見届ける。


「異常なし。状況終了」


 そして、点火実験の終了を告げる。

 すぐさま全エンジンが停止した。

 噴煙に覆われた造船所が、換気設備の力で徐々に視界を回復していく。


「……今回はここまでだ。分解整備を行いながら点火実験を繰り返し、最終的に百パーセント稼働まで持っていくと同時に、細かい仕上げを行っていく。それが終われば」

「いよいよ月面をブッ飛ぶってわけだー!」

「その通り」


 オベウスは瞳を輝かせながら、ブリッジを見回した。

 すぐ隣の副長席にエアナ。

 正面の操縦士席にメノーがどっかり座り、その左側のセンサー士官席にリールク。

 リールクの更に左側にある席と、右側にある二席は、いまのところ空席だ。

 加えて、ブリッジ後方の出入り口付近を守るようにレンドールの席がある。

 本来ならシールド・兵装の管理担当や専業のセンサー・通信・航法士が欲しいところだが、まだブリッジクルーを任せられる人材がいない。

 将来的に人材が増えるまでは、このメンバーの兼任で回していくのが確実である。


「大型宇宙船の初飛行。歴史に名を刻む偉業まであと一歩だ。皆、気を抜かずにいこう」

『はいっ!』


 全員の声が調和した。



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