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天才魔術師のファンタジック銀河ハーレム無双  作者: 鮫島ギザハ
第一・五話:月面街と宇宙船
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10.Oveus-Ⅱ

 細かいテストや修正を繰り返すこと二週間。

 残る仕事は、最大出力での最終テストのみとなっていた。

 いつでも宇宙へ飛び出せる状態だ。


 既に、宇宙船に乗り込む人員も確定している。

 宙兵隊長レンドールによって警備担当の宙兵隊、二班十二人が正式に選出されたのだ。

 ブリッジクルーの四人とメンテナンス・緊急部品交換係の技術者二人に加えて、レンドールと配下の十二人。

 合計して十九人。これが最初のクルーだ。


「みんな、これ買いました?」

「……記念絵画?」


 リールクがその十九人の集まった絵をブリッジに持ち込み、見せびらかす。


「えっと、そうですね。全員集合で撮影した宝珠の映像を、画家が写したやつです」

「いや……」

「ええっ。オベウスさんって、記念品とか持たないタイプなんですか?」

「そうだよー、オベウスは結構ポイポイ物を捨てるやつだねー」

「……自分たちの記念絵画を買う必要、あるか?」

「ありますよ! こう、年を取った後に部屋へ飾ったりとか……したいじゃないですか」

「いや、わからんな。老後のことなど考えたこともない」


 空気圧式のドアが開く音がした。

 ブリッジにエアナが入ってきた。彼女の背後で、自動的にドアが両側から閉まる。


「皆! 見ろ、”最初の十九人”グッズを諸々買ってきたぞ! いやあ大変な大行列であったぞ、私たちは民衆に大層人気があるようでな。人形まで作られていたぐらいだ!」


 黒いローブを纏った微妙に目つきの悪い人形が、エアナのコンソールに置かれた。


「あ、いいなそれ! わたしも欲しい!」

「ふふふ。お前の分を用意しない訳が無いだろう、メノー?」


 彼女は同じ人形をもう一つ取り出して、前方に投げ渡した。


「さっすが、話がわかるうー! ズッ友だぜえー!」

「あと、オベウス。私の人形だ。コンソールにでも飾ってくれ」

「あー抜け駆けしやがったなー! くそっ、やっぱエアナは敵だー!」


 デフォルメされた刺繍の入った褐色肌の人形が、オベウスの手元に押し付けられる。


「かわいい人形だが、これを置いても離昇や大気圏突入時の振動で吹き飛ぶぞ?」

「固定すればいいであろうが」

「ふむ。まあ、飾っておくか……」


 オベウスはコンソール脇の空きスペースへ人形を置いた。


「む? リールク、その全員集合絵画を買ったのか?」

「ええ。飾るのにいいかと思いまして」


 彼女のコンソールには、絵画の他にもいくつか無駄なグッズが飾られている。

 それらは整理整頓され、キッチリと飾られていた。

 ……適当に散らかしているメノーとは大違いである。


「映像をコピーした宝珠があるであろう」

「宝珠って覗き込む必要があって、飾れないじゃないですか。それに、こういうグッズって集めたくなりません?」

「分からんでもないが」

「……ところで、その人形ってどこで売ってました? 僕のがあるなら、ちょっと欲しいんですが……」

「オベウスと私とメノーの人形しかなかったぞ。残念だったな」

「ええっ!?」

「やーい不人気ー」

「ひどいなあっ!?」


 ブリッジの空気は和やかだ。

 宇宙船の開発や会議でずっと顔を突き合わせているうちに、四人の距離はだいぶ縮まってきている。

 全員がどことなく浮ついていて、修学旅行を控えた学生のような雰囲気だ。


「おう、集まってるな! 宙兵隊長レンドール以下十二名、乗船完了だ。希望者にブリッジから最終テストを見せたいんだが、構わんか、船長?」

「ああ。なんなら全員集めてもいいぞ。席がなくても振動に耐えられるならな」


 オベウスはにやりと笑った。


「挑戦と受け取っても?」

「構わない」

「おう、なら賭けだ! 俺たちが誰も転ばなかったら、全員に酒をおごってもらうぜ!」

「全員が転んだら積み込む酒の量を減らす」

「んなっ……ガハハ、上等だ! やってやるぜ!」


 ……その後しばらくして、全エンジンを最大出力で吹かす最終テストが行われた。

 結果、船に積み込まれる酒の量が減らされ、予備魔石の量が増やされる事になる。



- - -



「さて。今日集まってもらったのは、他でもない……最後に残された重要議題について議論するためだ」


 宇宙船内に作られた会議室を、十九人のクルー全員が囲んでいる。


「そう、船名を決める。俺は〈オベウス二号〉で問題ないと思うのだが」

「それは無いであろう」

「だめだよー」

「うーん、ちょっと……」

「俺は好きだぜ、その安直な名前っ! 結構イカしてるわ、ガハハ!」

「ありがとう、レンドール。……とまあ、お前らは名前に文句があるようだから、それぞれ案を出した上で投票を行って決めることにする。案のあるものは?」


 兵士たちが手を上げて、口々に好き勝手なことを言い始める。


「ドーントレス!」

「ミラノ!」

「セレニティー!」

「ワスプ!」

「……どれも娯楽に出てくる戦艦の名前だな。却下だ」


 エアナが手を上げた。


「カイオン。こう、大きくて宇宙を飛ぶというと、やはりイーネカイオンの印象が強いから……」

「うーむ、響きはいいが……」


 オベウスは会議室に据え付けられた黒板へ”カイオン”と記した。

 続いてメノーが手を上げる。


「ファイアフライ!」

「蛍か。命名理由は?」

「ケツが光って飛ぶから!」

「却下」


 品のない発想だが、兵士たちにはウケた。


「うーん。でも、既に〈オベウス一号〉があるわけですから、命名規則的には〈オベウス二号〉が妥当な感じになっちゃいますねえ」

「分かってくれるか、リールク」

「オベウスの作った二号機、っていうニュアンスでカッコつけられませんか? 文字を古い感じにしてみたりとか……外国語を使ったりとか」

「ハッハッハ。それを聞いて良い名前を思いついたぞ。チョーク貸してくれ」


 レンドールが会議室の黒板へ複雑な文字を記しはじめた。


「悪兵憂酢煮誤憂! これでどうだ!」


 ……オベウスは何も言わず、黒板消しで彼の案を消す。

 そして、新たな名前の案を書いた。


「Oveus-Ⅱ。意味はそのままで、パッと見たとき格好いい感じもある」

「……うーん、ちょっとはマシだけどなあー」

「他に案がないかぎり、カイオンとOveus-Ⅱの決選投票だが」

「なら、私の案は取り下げる。さして良い案でもないからな」

「む。そうか。誰か、他に案を出したい者は?」

「悪兵憂……」

「誰も居ないようだな」

「悪兵……」

「では、船名〈Oveus-Ⅱ〉で決定とする」



- - -



 そして。アルザールの街に〈Oveus-Ⅱ〉初飛行の予定が大々的に告知された。

 奇しくも、その日は地下都市の崩壊からちょうど半年後である。

 飛行計画はというと、月軌道に投入後、〈夕星〉へ向かうルートであった。

 メノーが報告していた魔力放射の増大を気にしたオベウスが、〈大青星〉よりもこちらの探索を優先したのだ。

 まずは〈球地〉に降りてみる計画もあったが、本国のエルフにバレた際に何が起こるか分からないため後回しとなった。

 ……何が起こるか分からない、とはいっても、全員がだいたい察している。

 彼らは再び月面に触手を伸ばそうとするだろうし、まず戦争に発展するだろう。


 目的地の〈夕星〉に関して情報収集が行われたが、明らかになった事実は少ない。

 太陽に近いため温度が高く、火山活動が活発で、魔力を扱える種族がいる。

 これぐらいだ。

 あとは、現地に降り立ったオベウスたちが調べるほかない。


 この計画が告知された直後から、アルザール市街はこの話題で持ちきりになった。

 ファーサイトの術式による生配信がアルザール中央の広場で行われることになったのだが、それでも実際に見に行こうとする人々が後を絶たない。

 本気で真空に飛び出す熱狂的ファンが現れることを危惧したワシューに頼み込まれて、アルザール宇宙港に残る兵士やスタッフが市民向けの見学ツアーを企画したぐらいだ。

 長い間、狭い地下都市に閉ざされ代わり映えしない日常を送らされてきた彼らにとって、外の世界に飛び出していくオベウスたちは憧れの存在であった。

 一種のアイドル的な人気が出始めているぐらいだ。


 そして――ついに初飛行の当日がやってきた。


『オベウス。ものすごい熱狂ぶりですよ。広場があなたがたの勇姿を一目見んとする市民で埋まっています』


 船外に設置されたアンテナを通し、ワシューが魔力通信機で様子を報告してくる。

 古くから存在する通信用宝珠をオベウスが改良した発明品だ。

 魔力の波で通信する通信機である。


「ああ。悪いがファンサービスは出来ない。準備に集中してるんでな」

『ええ、集中してください。全てのオリハルコンや希少資源をその〈Oveus-Ⅱ〉に融通したのですから、万が一にも事故でも起こされようものなら大損害ですよ』

「心配するな。万に一つの可能性もないように準備してきた」

『ええ、とにかく貿易ルートの開拓を! よろしくおねがいしますよ!』

「話が通じる相手だといいがな。切るぞ」


 四角い箱型の魔力通信機を手から離し、オベウスが周囲の監視へ戻った。

 石英ガラスの窓から見える造船所のドアがゆっくりと開く。

 トーイング用の牽引車が寄ってきて、〈Oveus-Ⅱ〉の前輪にフックを掛けた。

 巨体が曳航され、ゆっくりと滑走路へと運ばれていく。


「エンジン全系統、魔力回路オン。センサーはどうしますか?」

「まだ切っておけ」


 左前のセンサー士席に座るリールクが、無数についたスイッチを細かくオンオフする。

 魔力回路には”オンにしているだけで魔力を消費する”という特性があるため、必要な回路にだけ魔力を通し、不要な部分は切っておく必要があるのだ。

 なので、消費を抑えようとするとけっこう操作量が増えてくる。


『指令基地より〈Oveus-Ⅱ〉へ。正常にトラッキング開始しました』

「〈Oveus-Ⅱ〉了解。適宜、情報を送ってくれ」


 滑走路そばの大型アンテナを備えた指令基地から来た通信へ、エアナが答える。

 〈夕星〉の大気圏に入るまでは指令基地からの魔力通信が届く計算だ。

 地上から追跡情報を受け取れば、機上の小型センサーより高精度な情報を使える。


『了解しました。幸運を』

「幸運を、われらにイーネカイオン神の加護があらんことを」

「……その祈り、要るか?」

「要るとも。伝統を軽く見すぎるのは、お前の短所であるぞ」


 エアナがコンソールに固定されたオベウス人形をつついた。


「長所でもあるから、タチが悪いのだが」

「惚れてりゃあばたもえくぼってねー」

「うるさいぞ」


 滑走路上で牽引車がフックを外す。〈Oveus-2〉が静止した。

 鋭い三角形の翼後部や、サブエンジン上の垂直尾翼についた動翼がぱたぱた動く。

 エンジンの可変ノズルも同じようにきゅいきゅい稼働した。


「コントロールチェック終わりー」

「全系統オールグリーン、計器に異常値なし」

「同じく計器異常なし」

「異常なし。エアナ」

「うむ。〈Oveus-Ⅱ〉より指令基地へ。これより離陸する」

『了解しました、滑走路の魔力供給レーンを起動します』


 輝く青色の帯が滑走路上に伸びていく。

 垂直に離陸せず水平方向で飛び立つのは何故かというと、こうして初期加速中に滑走路から魔力を供給することで、なるべく魔力を節約するためだ。


「メノー、全エンジン点火」

「待ちくたびれたぜー! うっしゃー!」


 ドン、と爆発的な加速で、クルーたちがシートへ力強く押し付けられる。

 速度計の針がものすごい速度で回っていった。

 一秒のうちに時速二百キロメートルを突破し、まだまだ加速していく。

 メノーが細かい修正舵を繰り返し、滑走路から外れようとする機体を抑えている。


 白銀の景色が残像を残して流れていく。

 滑走路の先端が見えたかと思えた次の瞬間、船は宙に浮き上がっていた。

 メノーがすぐさまメインエンジンを止める。

 燃費重視のサブエンジンだけになったことで、だいぶ加速度が緩和された。


「ふぃー! すごかったあー!」

「ああ、素晴らしい出力だ! 改良を繰り返した甲斐はあった!」

「ふう。凄いというよりは、怖い体験であったな……」

「ちょ、ちょっと気分が悪くなってきたかも」


 四者四様の反応である。


『現在、速度三千、高度二百!』


 魔力通信機を通して指令基地から報告が来る。

 その背景に、うるさいほどに大盛り上がりの大歓声が混ざった。

 〈ファーサイト〉で中継が行われているアルザール市街も、同じように盛り上がっていることだろう。


「さーマニューバ開始だー、軌道投入するよー!」


 メノーが操縦桿を握りしめ、船を動かしはじめる。


「異世界〈夕星〉めざして出発じゃー!」

「おい。そういうのは俺のセリフだ」

「速いもの勝ちだもんねー、いぇーい!」



というわけで、他惑星を舞台に冒険を繰り広げるための準備が整いました。

ここで第一・五話は終わりです。ここまでお読みくださりありがとうございました。

二話の連載時期は未定です。しばらくかかるかも。

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