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天才魔術師のファンタジック銀河ハーレム無双  作者: 鮫島ギザハ
第一・五話:月面街と宇宙船
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7.天の光と地上のタカリ

 魔術師の正装、つまりローブに杖といういつも通りの服装を身にまとったオベウスが、アルザールの天井へ向かいクレーター淵の階段を登っていく。

 その先にある金属扉を開き、中へ入る。むらひとつ無い白色に塗装されたミスリル壁の内装を、点線のように天井を伸びる魔術式ライトの白い光が照らしている。


「オベウス。遅いであろうが。何十分待たせる気だ」

「……俺はきっかり時間どおりだ。焦りすぎだろう」


 エアロックのすぐそばで、エアナがそわそわと立っていた。


「どうだ?」


 彼女は服装を見せびらかすように背筋を伸ばす。

 だが、同時に少し恥ずかしそうに頬を染めて、内股気味になっていた。

 それもそのはず、奴隷の服とさして変わらないほどの露出度だ。


「そうだな……」


 複雑な装飾の施された布が、ぴんと張られて胸をぐるりと巻いている。

 その装飾は、エアナの体に刻まれた赤い刺繍と完璧に合わさるような作りだ。

 下半身を覆っているいささか頼りない布面積のスカートや、膝上まで伸びているニーソックスも、また刺繍と一体となるようなデザインである。


「素晴らしい作りだ。刺繍と合わせ、魔力の増強効果を更に伸ばしている」

「……他に感想はないのか?」

「ん? ああ……魅力的だ」

「であろう。大昔の伝統衣装を参考にして、自分で作ったのだ」


 ほう、とオベウスが感嘆した。


「裁縫が趣味なのか?」

「ああ。部屋から出なくても出来たからな。色々な服を作って、演劇……というほどのものでもないが、いろんな役を演じてみたりとか……」

「ああ、裁縫というよりはコスプレが趣味なのか……あの奴隷服もお前の手作りか?」

「こ、こすぷれ? どういう意味だ? いや、確かに手作りだが」

「鉱山の奴隷たちが着ている服に比べても、やたら露出度が高かったな」

「……ま、まあ、な」


 エアナは目を逸らした。


「ほ、ほら。エスコートしてくれよ、オベウス。〈シールド〉を自在に操れるのはお前だけなんだから」

「高い露出度に偏見はない。地上には、全裸が正装の服を着ない獣人部族も居た。性的アピールばかりが肌を見せる意味ではないし、刺繍を生かしたデザインをすれば、必然的に露出度は上がる。それに、露出度が高ければ正体がバレる可能性も低い」

「そう改まって言われると、かえって恥ずかしくなってくるのだが!?」

「恥ずかしがる必要はない。お前は綺麗だぞ。誇っていい」

「んっ!?」


 奇襲がクリーンヒットして、エアナの紅潮はさらに深くなった。


「たとえ綺麗ではなかったとしても、恥ずかしがる必要はないが。誰も他人の体を馬鹿にする権利はない」

「……どういう意味だ」

「ん? 当然のことだ。肌を露出する適切な時と場所なら、美醜に関わらず誰もが肌を露出していいはずだろう。つまり、美しいから露出度の高い服装が許される、とか……」

「時と場所の話をするなら、今はそういう話をする時じゃないだろ、ばか! まったくもう、本当にお前はズレた男だな! 行くぞオベウス!」


 エアナはエアロックの金属ハッチを開き、中へ飛び込んだ。



- - -



 足元も見えないほどに暗い、月面の夜。

 煌めく天の川の下を、二人は並んで歩いた。


「思うに」


 オベウスが頭上の青い惑星を見上げる。


「いつまでたっても”地上”じゃ分かりにくい。月の地上とも混同しかねない。もうそろそろ固有名詞を決めるべきなんじゃないか」

「そこは……星が綺麗だとか……そういう会話をする場面であろうよ」

「なぜだ」

「デートだぞ。ロマンチックな会話を交わすものであろうが」

「ふむ」


 オベウスは手を顎に当てた。


「天の川が明るいのはなぜだと思う?」

「いや、分からぬ」

「仮説はいくつかある。一番有名なものは、魔力が豊富な空間が円状に広がっていて、それが光っているという説だ。だが、俺は違うと思う」


 彼は天の川に手を伸ばした。


「あの光の一つ一つが、太陽と同じように光を放ってるんじゃないか。宗教家は”世界の果て”の先には天国や地獄が広がっていると言うが……俺たちの太陽を後にした先にも、きっとここと似た、しかし違う星々が無数に広がっていて……天にかかる銀色の河は、すべて星なんだ」

「途方もない話であるな。じゃあ、あの光の一つ一つに人間が暮らしているのか?」

「見てみないことには分からない」


 二人は近くの岩に腰掛け、天の川を見上げる。


「エアナ。世界は広い。この月と、頭上の青い惑星だけでも十二分に広い。太陽の回りを回っている星々や、それこそ天に光る星を考慮に入れれば、途方も無いほどに広い」

「ああ、そうらしいな……」

「これほど世界は広いというのに、人間やエルフの大半が生まれた場所から一歩も出ずに死んでいく。人間関係や身分や貧困、あるいは生まれ持った責任に囚われたまま一生を終えるんだ。そう考えると、無性に寂しい気持ちにならないか」

「仕方のないことであろう。世界というのはそういうもの。誰もが好き勝手に暮らしていては、すぐに全滅してしまう」


 エアナは口元を引き結んで言った。


「本当にそうなのか? 民衆が好き勝手やった程度で危機が起こるとするなら、国の土台が緩いせいなんじゃないのか。アルザールの発展を見たろ、エアナ」

「あれはお前の技術力が飛び抜けているせいであろう」

「技術というのは他人に教えられるから技術なんだ。学校教育を整備して、広く教育を授ければ……天才の俺と並ぶ者は出なくとも、分野に特化した専門家は生み出せる。そうなれば、世界の姿は変わる。一人の手で収めるには手に余るほどの速度で」


 オベウスは立ち上がった。


「それに、平均的な教育レベルが上がれば、何もかも”王族”が決めてやる必要はなくなる。……あとは実際、ワシューは上手いこと市議会をコントロールしてるだろ?」

「何が言いたいのだ?」

「いいや、何か言いたいのはお前なんじゃないのか」

「……ああ。確かにその通りだ」


 エアナも立ち上がり、オベウスと向かい合う。


「もし本当に、私が居なくてもアルザールが回るなら……お前が旅立つ時には、私も一緒に連れて行ってくれ」

「ああ。一緒に行こう」


 オベウスはぎこちない笑みを作った。笑い慣れていないのだ。


「プッ、クク……ひどい笑顔だな、オベウス」

「悪かったな」

「いや、いいんだ。お前はそういう男なのだろう。流麗に女を口説く伊達男とは、また違う魅力があるよ……ロマンチックな話のはずが、一瞬で真面目な話に脱線したりな」

「む。確かに脱線したか。俺にロマンチックな話題を期待するな」

「期待していないとも。それにな……その……話ばかりが、雰囲気を作るものでもない」


 エアナは頬を染めながら、顔を近づけた。

 数度、動揺しているようなまばたきの後、オベウスも応じようとする。


 ……唇と唇が近づいた瞬間、遠くに赤い炎を噴く物体が現れた。

 それは地面へ向かって落ちていき、着弾と共にわずかに地面が揺れる。

 何か魔術でも着弾したような砂塵が、遠くで巻き上がっている。


「む。なんだ」


 注意の逸れたオベウスの顔を強引に掴んで、エアナが口づけを続行した。


「んんっ!?」


 わずかに柔らかな粘液同士が触れ合い、すぐに離れる。

 オベウスは甘い痺れを感じながら、手で口元を押さえた。


「逃さないからな。……私からどんどん誘っていくぞ」

「あ、ああ……」



- - -



 二人は微妙に初々しい距離感を保ちながら、粉塵の巻き上がった地点へ向かった。

 月の砂に埋まっていたのは、数メートル程度の翼を持った赤色の飛行機械だ。

 オベウスの見覚えがある代物だった。


「これは……俺が試作した飛行機械じゃないか」


 彼は飛行機械を掘り起こし、眺める。

 空洞になった胴体と、その胴体から後退しながら滑らかに伸びる翼、先端についた垂直尾翼。胴体の先端から空洞に吹き込んだ風を魔術で加速することで加速し、翼の揚力で空中を飛ぶ、おそらく世界で初めての飛行機械だ。


 しかし、本来の姿からは大きく改造されていた。

 空洞だった胴体は先端がオリハルコンで塞がれ、円形だった胴体は八角形になっている。後ろのノズルから中を覗くと、微細な魔法陣が無数に並んでいた。


「パルス・エクスプロージョン式推進……このサイズだと推力は低いが、この軽量な機体なら、確かに少ない魔力量で月まで送り込めるか……考えたな」

「どういうものなのだ、それは?」

「威力の極めて低いエクスプロージョンを、ミリ秒の単位で放ち続けるんだ。一つの魔法陣で賄うとすぐに焼き切れるから、無数に細かい魔法陣を並べて、高度な制御で発火タイミングを調整する必要がある。……おそらく、作者は俺の知っている魔術師だ」

「ほう? 何故、そいつは月にこの機械を送り込んだ?」


 オベウスは飛行機械を持ち上げて、裏返す。

 腹に大きな円盤を抱えていた。そこに刻まれた魔法陣が、輝きを放ちはじめた。


「転移魔法陣か。かなりビーコンに近い性質だな」

「転移!? もしや……エルフ本国からの増援か!?」

「いや。エルフはもっと格式張った効率の悪い術式を使う」


 飛行機械を地面に戻し、二人は少し距離を取った。転移魔法陣の付近にシールドを展開し、現れた瞬間に真空へ放り出されないように準備する。

 魔法陣の輝きが増し……そして、虚空から一人の魔術師が現れた。

 金刺繍の入った臙脂色のケープ付きローブを纏った、童顔の女魔術師。


「げっ」


 相手が誰か認識した瞬間に、オベウスは思わずそう呟いた。


「……おべうすー! 会いたかったぞー!」


 〈現代の驚異〉メノー・ラーストチカが、彼へめがけて走り出す。

 慣れない低重力で転び、そのままオベウスの胸元に飛び込んだ。

 やむなく受け止めたオベウスを、エアナが冷めた目で見つめている。


「誰だ?」

「あ、どうも。おべうすの許嫁です」


 わざとらしい笑顔を浮かべて、メノーがぺこりと一礼した。


「いきなり嘘を付くな! お前なっ……!」

「許嫁だと!?」

「違う! こいつは……言わば、俺のパトロンというか……ケツ持ちみたいな奴だ!」

「ケツ揉み!? こいつにケツを揉ませる仲だったのかオベウス!?」

「何を聞いてた!?」

「もみっ」

「お前! お前なメノー! 怒るぞ!」


 月面に来てからほとんど動いていなかったオベウスの表情筋が、メノーの現れた途端に酷使され始めた。


「魔術協会はどうした!?」

「辞めてきた」

「……おい、魔術協会……こいつだけは野に解き放つなよ……!」

「オベウス、ポテチある?」

「無い!」

「だと思って持ってきたよ。食べる?」

「食べもしない! ジャンクフードばかり摂取してるお前と違って、俺は健康に気を使ってるんだ。お前ももう少し食生活を改めろ」

「頭カッタいなあ。ねー、そこのダークエルフさん……え、ダークエルフ!?」


 メノーがエアナを二度見した。


「うそっ! 実在してたの!?」


 オベウスの胸元から飛び出して、エアナに飛びかかる。


「すごい! 化粧じゃなくて本物だ!」


 ペタペタ無神経に腹を触り、目を輝かせた。


「オベウス、何なんだこいつは!?」

「そいつは〈現代の脅威〉メノー・ラーストチカ。この上ない厄介者だ」

「字がちがうー!」

「違わない。ついでに言えば、前に言った”俺に寄りかかりすぎてダメになった魔術師”の一人だ! ニートのくせに月まで追ってくるなよ、何故こういう所だけアクティブなんだお前ってやつは!」

「へっへー。本気出したら凄いもんねー」

「俺にタカるためだけに本気出して月まで来たのか!?」

「まあねー」


 メノーは誇らしげに言った。

 頭痛を覚えたオベウスがこめかみを押さえ、天を見上げる。


「……会って一分なのに、どうしようもない感が伝わってくるぞ、この女……」

「まったくだ、エアナ。コレはどうしようもない」

「そう、わたしは歩く嵐……人の手にあまる災害だ……ふふふ……」

「こいつは月面に置いていこう」

「えっ、ちょ」


 オベウスは〈シールド〉の範囲外にメノーを出した。


「あばばば!」


 彼女はすぐさま結界を張り、ものすごい勢いで〈クリエイト・エアー〉を使い始めた。

 気密を保っていないから、生み出したそばから風が飛んでいき、長い赤髪がもみくちゃになってひどい有様だ。


「ああばばばばばば! おーべーうーすー! シールド! シールド入れてー!」

「お前、真空対策考えてこなかったのか!? 俺が居なかったらどうするつもりだ!?」

「絶対居るってわかってたからー! 信じてたからー!」

「……くそっ! 覚えとけよお前!」


 やむなく、オベウスがシールドを拡張する。


「ふぃー。やったー、これで楽できるー」

「……いや待て、お前、そういや劣化版のシールド使えたよな……?」

「つ、つかえませんしー」

「知るか」


 オベウスはシールドから彼女を蹴り出した。

 ……すぐに、やや薄くて不安定だが、空気ぐらいは捕まえておけるシールドが現れる。


「はあ……疲れた」

「うむ……あれと付き合ってきたのか? 大変だな、オベウス……」

「分かってくれるか……しかもな、ああいう何でも俺を頼ろうとする魔術師、あいつ一人じゃなかったんだ……しかし、宇宙にまで逃げてもついてくるとはな……」


 肩を落としたオベウスを、エアナがぽんぽんと元気づけるように叩いた。



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