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天才魔術師のファンタジック銀河ハーレム無双  作者: 鮫島ギザハ
第一・五話:月面街と宇宙船
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5.オベウス先生の魔術講座

政治の話しようと思ったけど需要なさそうなのでやめました。

というわけでちょっとした解説回です。読み飛ばし可。

 アルザールの発展につれ、段々と忙しさが緩和されてきたオベウス。

 そんな彼にひとつの依頼が舞い込んだ。


「定期的に特別講義をやっていただけませんか」


 という、学校の教師たちからの依頼だった。

 彼らの大半は元家庭教師で、エルフの子弟へ魔術を教えていた者たちだ。もちろん常識的な基礎は学んでいるはずだが、さすがにオベウスとは知識の深さが違う。

 ダークエルフやエルフの子供だけではなくて、彼らを含めた大人の魔術師にもタメになるような教育をやってもらえれば、子供を含めて街全体の学習意欲が上がるのではないか、という発想だ。


 オベウスは二つ返事でこれを承諾した。

 ……そして、広く講義の告知が出されたのだが……受講希望者が多すぎて、学校にはとてもじゃないが収まらない、という話になり。

 結果として、街の中央に簡易の屋外講義場を作り、そこで講義を行う事になった。


「……多いな」


 超満員の簡易講義場を見回して、オベウスがつぶやく。

 真ん中あたりの席に、エアナやらワシューやら街の重役が固まっていた。

 ほとんど街の住人が全員集合だ。


 準備を整えて、オベウスが脇から壇上へ登る。

 自然と拍手が巻き起こった。静まるのを待ち、オベウスは喋りはじめる。


「魔力というものは」


 彼は一瞬、間を置いた。


(エネルギー)であり、物質ではない」


 それを聞いた瞬間に、教師たちが顔を見合わせた。

 やはりな、とオベウスは思う。

 彼が最初にこの理論を発表した時にも、似たような反応が起こったものだ。


「つい数年前まで、魔力というものは空間中に満ちるエーテルと同一視され、それ自体が物質だと思われていた。だが、これは簡単な実験で反証できる」


 彼は透明な小瓶を取り出した。

 中に青色の粒子が煌めいている。


「この中には、魔力に反応して光る粉が入っている。ライカー・パウダーと呼ばれる実験用の粉末だ。魔術師なら、初歩的な魔力の訓練で使ったことのある者もいるだろう」


 そして、その小瓶がまるごと入るサイズの瓶を取り出す。


「粉の入った小瓶を、大きな瓶の中に吊るし、密封する」


 彼は魔術金属を〈シェイプシフト〉で操り、蓋を作り出した。


「そして……大きな瓶の中の空気を、魔術で抜いていく」


 オベウスが魔術金属に触れると、魔法陣が自然に描かれた。


「すると。空気が抜けるにつれ、中の粉末が輝きを失っていく」


 青色の輝きがだんだんと弱くなっていき、ついには光を目視できなくなった。

 本格的な実験にはもっと大掛かりな装置が必要だが、起きている現象は同じである。


「いくら魔力を放っても、中の小瓶は光らない。空間中に魔力が満ちているなら、真空を渡って魔力が届くはずだ。だが、そうはならない」


 彼は大きな瓶を傾けて、中に吊った小瓶を壁と接触させた。

 その途端に、青い輝きが戻る。


「魔力は物体に宿る。これが、”魔力の第一法則”だ。魔力は物質的な形を持たない。さて、質問は?」


 場がざわつく。魔力に対する常識が覆されるというのは、魔術のすべてが覆されたも同然の大事件である。魔術師が衝撃を受けるのも無理はない。

 教師たちが真っ先に手を上げた。


「では、魔石はどうなのですか? 魔力の結晶化したものではないのですか?」

「いい質問だ。自然の魔石というものは、高濃度の魔力を受け続けた物質が、魔力の通り抜ける抵抗を最小化する形で結晶化した結果、周囲の魔力に対する抵抗の高い物質と比べて多くの魔力を蓄えた結果ではないか、という仮説が有力だ」

「……では、魔物から採れる魔石は?」

「魔力で動く魔物にとって、魔石は心臓に等しい。生物が心臓を作り上げるのと同じじゃないのか。最初から、自発的に魔力が結晶化したわけではない。無関係な問題だ」

「……筋は通っているが、しかし……」


 教師や魔術師たちが、近くの者と意見を交わしはじめ、ざわつきが激しくなる。


「さて。とりあえず、魔力の話はここで止め、魔術の話をするとしよう」


 オベウスが口を開いた瞬間に、皆が黙ってメモを取り始めた。


「魔力を特定のパターンで配列することで、特定の現象を起こす。これが魔術だ。……お前らは何かの革新を期待してるのかもしれないが、あいにく、魔術に関しては伝統的な説明が正しい。今のところは、だが」


 彼は言って、それからしばらく、魔術に関するオーソドックスな説明をした。

 魔術の発動するパターン、つまり”術式”の具体的な部品を、魔法陣を分解して一つ一つ解説していったり。

 人間が魔術を発動するには、最も神経の集中している敏感な場所……つまり指先へと、何回も成功した術式の感覚を覚え込ませ、自然と術式を作れるようになるまで訓練する必要がある、といった常識を説明したり。

 一定以上の複雑な術式を使うには、その術式を使うためだけの専用回路を指などに刻み込み、他の魔術を捨てて特化するのが一般的だ、といったノウハウを説明したり。


「ちなみに。この世に存在している中で最も複雑な術式が、これだ」


 彼は魔術金属の塊を取り出し、〈シェイプシフト〉で空中に巨大な魔法陣を描いた。

 異常なほど繊細かつ複雑なパターンの組み込まれた、完璧に左右対称な術式だ。


「この術式を完璧に編めれば、〈対消滅魔力砲〉が発動できる。魔力に関する実験中に生まれた偶然の産物で、理論的な裏付けは俺にもまだ出来ていないが……威力は莫大だ。具体的には、アルザールのクレーターは俺がこの術式で作った」


 聴衆に衝撃が走った。

 ……今この瞬間まで、クレーターを作ったのはイーネカイオンだと思われていたのだ。

 加えて、多少なり魔術師を齧った人々は、この巨大な魔方陣を発動させる難易度を想像し、震えた。例えるならば、ボールの上にボールを何個も積みあげ、それを崩さずに全力疾走するような人外の制御精度がなければ、術式が途中で霧散してしまう。

 サイズを考えれば、魔法陣に刻み込むのも不可能なほどだ。

 素材のムラや魔力の偏り、そういった不可避の揺らぎで術式が崩れてしまう。


「……そうだな、魔力と魔術の基礎はこんなところか。後はもう一つ、俺の専門分野の話をさせてくれ。鉱山に導入されたような魔術機械についてだ」


 ほとんど放心状態の聴衆を相手に、彼は話を続けた。


「最大限に単純化してしまえば、魔術機械というのは、魔力を機械的な運動に変換するものだ。そのために使われる一般的な魔術が、いくつかある」


 オベウスの手から、炎が放たれる。


「最も一般的な魔術が、この〈ファイア〉だ。魔力に対する魔術への変換効率は二十パーセント……低いように感じるかもしれないが、最も変換効率のいい術式の一つだ。ファイアを使った蒸気機関は、大型の艦船や攻城機械、〈レビテート〉式飛行船の機関などに使われている。……だが、鉱業など民生用途には使われていない。燃費が悪すぎるせいだ」


 蒸気機関は、数百年も昔から地上の国々に使われてきた伝統的な工芸品だ。

 国で最高の魔術師がようやくワンオフ品を作れるほどの貴重品である。

 魔力を割とバカ食いする上に、蒸気機関を石炭や木炭で動かすと製鉄用の資源が一瞬で無くなってしまうため、戦争以外で機関に火が入ることはない。


「俺が使っているのは、この〈ライトニング〉だ」


 彼の両手の間に雷が現れる。


「魔力に対する魔術への変換効率は約七パーセントで、やや悪い。加えて、性質が不安定で使い手も少ない。では、なぜ俺はこの術式を魔術機械に使っているのか。推測できるものは?」


 オベウスは屋外講義場を見回したが、誰も手を上げない。

 ……ここ数年でめざましいほど発展した魔術の諸々は、地上と交流の絶たれていたエルフたちにとって、やや刺激的すぎたようだ。完全に圧倒されている。


「……答えは、魔術現象から機械的運動への変換効率に差があるためだ。現在実用化されている蒸気機関は炎のエネルギーのうち十パーセント程度しか運動へ変換できないが、”モーター”ならば電気のエネルギーを半分ほど運動に変換できる」


 オベウスは鉄心の周囲に複雑な形状で銅線の巻かれたモーターを取り出して、壇上に置いた。彼が作り上げた諸々の発明品のうちでも、最も重要な品である。


「魔力から運動への高効率な変換は、社会を変える。魔石の魔力を使って機械を動かし、魔石を掘る行為の収支が黒字になるためだ。つまり、産業に革命が起きる。数年もすれば、この月面都市アルザールは地上の国すべてを足しても敵わないほど豊かになるぞ」


 オベウスは、にやり、と笑った。


「……第一回の特別講義はこんな所か。どうだ、少しは勉強する気になったか?」


 あっけに取られていた聴衆が、ちらほらと正気に戻り、拍手で彼に答える。

 少しやりすぎたか、と彼は思った。



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