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天才魔術師のファンタジック銀河ハーレム無双  作者: 鮫島ギザハ
第一・五話:月面街と宇宙船
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2.月面一夜城アルザール

 地下都市からクレーターに避難民が逃げおえてから、半日ほど後。

 すっかり彼らが寝静まった頃になっても、オベウスは未だ仕事中だった。


「さて……」


 気密を維持する〈シールド〉の外側、クレーターの外淵に彼は立っている。

 そして、周囲に転がる金属の巨大な箱を次々とクレーターの中に落としていった。

 落とし終えたところで、自らも下へ降りていく。


「……まだ起きてたのか、エアナ」


 転がる箱の近くに、眠たげな目つきのエアナが立っていた。


「ああ。何をしてるのか気になってな」

「建材と採掘機材の準備だ。まずは仮設住宅を揃え、次に魔石の採掘機材を用意し、崩れた地下都市クィンドールへ向かって掘り進める。周囲で最も資材が豊富な場所は、当然だがあの都市の内部だ。再利用するかどうかは考慮の余地があるが」

「ほう。しかし、建材に何を使うつもりなのだ?」


 オベウスは近くの箱に近寄り、手を当てて〈シェイプシフト〉の魔術を行使する。

 その名の通り、対象を変形させる魔術だ。よほど柔らかい材料しか扱えず、かつ極めて精密なコントロールが要求される。

 術者以外の魔力が少しでも影響した瞬間に制御不能になるほどだ。

 そのため知名度の低いマイナーな魔術である。


 箱の表面を覆った白色の金属が液状化して波打った。

 この金属は〈オベウス一号〉の外装に使っていた人工アダマンタイトだ。魔力や魔術と親和性の高い魔術金属ゆえに、変形させるのは容易である。

 そのため、〈シェイプシフト〉でも変形させられる。


 金属箱に窓が現れて、ふたたび固体化する。

 中に入っているのは月の砂だ。


「月面の砂? 砂で建物を建てれるのか?」

「加工すればな。危険だから、あまり近づくなよ」

「……毒でもあるのか?」

「似たようなものだ。研究室でサンプルを分析したが、砂の粒が微細すぎて体内に悪影響を及ぼす可能性がある。毒ガスと同じで、呼気を浄化すれば問題はない」


 彼は箱に触れて窓を閉じると、下部に足を生やしてやや空中へ浮かせた。


「この砂が建材の一つ。もう一つがこれだ」


 彼は他の箱を開いた。細かく砕かれた岩の粉末がぎっしりと詰まっている。


「……これも砂に見えるのだが?」

「玄武岩の粉末だ。正確には”輝石”だな。月の鉱物が地上のものと同じだとは限らないが、サンプルを取った限り、地上のそれと近い。石灰を多く含む鉱物だ。まず、この岩を熱して、余分な成分を飛ばす」


 オベウスの掌から盛大に炎が吹き出し、並べた箱を炙った。

 〈フレイム〉の魔術だ。


「で、岩と砂から何を……?」

「コンクリート作りだ」

「コンクリート?」

「ああ」


 しばらく炎を放ち続け、人工アダマンタイトが赤熱するほどに熱した後、〈シェイプシフト〉を活用して箱の上部に漏斗を作り、月の砂を投入した。

 再びシェイプシフトで箱を樽の形状に変え、樽から棒を伸ばし地面を蹴らせて転がす。


「……石なりレンガなり、普通の建材と何が違うのだ?」

「高強度で自由度が高い。こっちじゃコンクリートは作らないのか?」

「聞いたこともない。それで、この後は?」

「水を入れる」


 更に〈クリエイト・ウォーター〉で水を混ぜ込み、しばらく転がした。

 同時に、人工アダマンタイトの一部を分離させ、長方形の枠を作る。


「で、注ぐ。半日も待てば完全に固まる」


 枠の中へと樽を転がす。

 その樽の進行方向側にオベウスが穴を開け、どろりと溶けた灰色の液体がこぼれる。

 それは樽の質量で圧延され、薄く延ばされて細長い枠の中を埋めた。


「……道路か?」

「そうだ。だが、他の活用法もある」


 数十メートルの道路を敷き終えたオベウスが、樽を道路の側に動かす。

 そして、人工アダマンタイトを分割し、それぞれをドーム状に変形させた。

 道路の両側へ、家のようなものが並び立つ。


「固まった段階で人工アダマンタイトを外せば完成だ」

「……もしや、家を鋳造する気か!?」

「その通り。夜のうちに千戸の仮設住宅と道路を作る。街作りの最初の一歩だ」


 オベウスは言った。


「……一夜のうちに街を作るのか? はたしてそんな……いや、愚問か」

「大したことではない。街といってもハリボテだからな」


 彼は玄武岩の粉末が入った箱を熱しはじめた。


「寝ないのか、エアナ」

「外から来たお前が徹夜で街を作るのに、私が何もしないわけにもいかないだろう。何か手伝えることはないか?」

「無い」


 即答であった。


「……そうか。なら、寝るとしよう」


 エアナは口をへの字に曲げて、イーネカイオンの足元で眠る避難民たちのほうに向かった。

 彼女に目もくれず、オベウスは黙々と作業を実行する。


『……なあ、オベウス。我、一歩も動けないのだが。なんとかならないか』


 オベウスが百戸ばかり家を建てた頃、イーネカイオンがテレパシーで話しかけてきた。

 確かに足元が避難民で埋まっていて、うっかり動けば踏み潰してしまいそうだ。


「諦めろ」

『ダークエルフたちも救われたようだし、他の星系に旅立ちたいのだが……』

「もうしばらく待ってくれ。魔石が掘れるようになるまでは、クレーターのシールドを維持するためにお前の魔力が必要だ」

『ううむ……まあ、少しぐらいなら待つがな……』



- - -



 翌日。

 朝――もちろん、地上の時間での朝――に起きてきた避難民たちは、ありえないものを目にした。

 一夜にして、全世帯を収容できるだけの街が出来上がっていたのだ。

 並んでいる家は内装もドアもない簡素な代物だが、それでも家は家である。


 最初、避難民たちはイーネカイオンが作ったものと勘違いして、竜に感謝の祈りを捧げていたが……。


『我の作品ではない。これを作り上げたのはオベウスだ』


 というテレパシーの一言を受け、一気にオベウスが尊敬を集める結果になった。

 そこに加えて、彼こそがダークエルフの解放と女王の打倒の立役者だ、おまけにこのクレーターを作り上げたのは彼だ、という情報まで完全に広まりきった。

 そうして人気が加熱した結果……。


「なんでついてくるんだ?」


 彼が歩けば、後ろに行列がついてくるほどの状況が生まれた。


「一目見たくて!」

「なにか学べるかと思いまして!」

「キャー! オベウス様ー!」


 数十人のミーハーが、街の中心へ向かう彼の周囲をつきまとう。


「……勝手にしろ」


 彼らを引き連れて、オベウスは街を歩く。

 中央に近づくにつれ量産型のドーム型住居が数を減らし、コンクリートが敷かれただけの広場が増えてくる。

 将来的に大型の建物を建築するための用地だ。


 街中に、あれこれ部品を剥がされた〈オベウス一号〉が転がっている。

 半ば資源のために解体されたような状態だが、予定通りだ。最初から、オベウスはこのロケットを解体し、月面基地のための資材に転用する予定でいた。


 〈オベウス一号〉からそう遠くない街の中央に、数百人が入れるサイズの大きなドームが建っている。

 シティホールだ。将来的には、ここが行政機構の中心になる。


「悪いがここまでだ。会議がある」


 ミーハーたちを振り切り、彼はドームの中に入った。

 隅には魔剣や武器防具の類が積まれ、近くに岩を削り出した椅子とテーブルが置かれている以外にはまだ何もない、がらんとした空間だ。


「オベウス、もう起きたのか?」


 椅子に座ったエアナが振り向き、声をかけてくる。

 会議に参加しているのは、当然だが〈イーネカイオンの牙〉の幹部級メンバー、そしてクイントほかエルフ側の反乱協力者が数人と、敵の側にいたらしきエルフが六人ほど。

 これは官僚や技術者や軍人だろう、とオベウスはあたりををつけた。


「俺はショートスリーパーでな」


 彼は開いた椅子に座り、参加者たちの顔を見回した。

 苦い顔だ。うまくいっていないらしい。


「続けてくれ」


 ……そして、会議が再開する。

 議題が多すぎるため、かなり端折った進行だ。

 食料問題、行政システムの整備、産業の復興、そしてエルフとダークエルフの対立。

 話がそこに差し掛かったとたん、議論が紛糾しはじめた。


(〈イーネカイオンの牙〉メンバーはだいぶ過激だな。それをナイーブな理想主義者のワシューと、わりかし現実主義者のエアナが抑える構図だ。反乱組織気分が抜けてない)


「だから言ってるだろ! エルフは隔離しろ、それだけの事をやってきた!」

「隔離するのは論外でしょう。エルフを奴隷にするために戦ったわけではない」


 過激派の男が叫び、ワシューが反論する。


「だがな、一緒に暮らさせるのはまだ無理があるであろうよ、違うかワシュー? 今は非日常に浮足立ってるから共存できていても、実際は違う。壁を作って隔離するのではなくて、単純に住む場所を離すだけならどうだ?」


 エアナが宥めた。


「しかし、両者の溝を埋める機会があるとすれば……」

「発言してもいいか」


 傍観者に徹していたオベウスが言った。


「ええ、どうぞ」

「最終的に、俺は巨大な宇宙船を作るつもりでいる」

「……それとこれに、何の関係が?」

「必要なのは、軍人と技術者だ。つまり、将来的に……エルフたちの大半を引き抜きたいと思っている」


 会議にいちおう参加してはいるが黙っているエルフたちへ、オベウスが言う。


「どうだ。俺についてきてくれないか」

「……状況が状況だ。お前に仕えろと言われりゃ、俺は仕える。実際に戦って強さは思い知ったしよお。あんだけ滅茶苦茶強けりゃ俺の配下もついてくるだろうよ、ハハハ!」


 軍人のエルフが、豪快に笑いながら言った。よく見れば、彼は王宮一階の広間でオベウスと直接戦い、魔力の汚染であっさりやられた部隊の指揮官だ。


「名前は?」

「俺はレンドールってんだ。よろしく頼むぜ」

「……ああ、よろしくレンドール。さて、他には?」

「あのお……魔剣といい、一夜にして現れた街といい、技術的な詳細を尋ねたいことが山程あるのですが。その、仲間になれば教えてもらえますか?」

「仲間にならなくても教えてやるが、俺のために働くほうがノウハウの吸収は早い」

「なら、その……僕はリールクです、よろしく」


 眼鏡の技術者っぽいエルフの女も、オベウスの側に付くらしい。

 どうやら、彼女は地下都市の生命維持を行っていた技術者たちのリーダーのようだ。

 完全に地味な外見で、耳さえ隠せばそのへんの人間に混ざっていてもおかしくない。


「待て! ……お前、エルフを集めてどうする気だ!? だいたい、ちょっと強い程度の人間が……」

「ちょっと程度で済めばいいけどよお」


 〈イーネカイオンの牙〉過激派が叫んで、レンドールに突っ込まれる。


「ええい! 確かにこいつはかなり強かったし、助けられたのは事実だ! だが、こんな怪しい人間にエルフの軍事力と技術力を渡すのか!? それは街に住むダークエルフのために使わせるべきだろう!」

「お前は”エルフは隔離区画に押し込めるべきだ”と言っていた。だが、本当は追い出したいんじゃないのか? お前にとっても好都合だろう?」


 オベウスが言った。


「それは……」

「今すぐ街の外へ連れて行くわけではないが、近いうち、クレーターの外に設営した月面基地に通ってもらう事になるだろう。ということはクレーターの外周部、この街からやや離れた場所にもう一つ街を作るのが合理的だ。実質的な隔離政策にもなる」

「むむむ……」


 過激派の男はオベウスにあからさまな嫌悪感を示しながらも、一方で彼の案には魅力を感じている様子だった。

 エアナは静かに頷いて、彼の政策に賛同を示している。


「待ってください、それではダークエルフとエルフの仲が修復される機会が」

「差別感情の解消には……常識の変化には世代交代が必要だ。長寿のエルフたちはそうそう変化しない。お前みたいに柔軟な者だけじゃないんだ、ワシュー。諦めろ」

「いいでしょう。ですが、エルフたちを引き抜くなら、ダークエルフの軍人と技術者を養成する必要がありますよね。でなければ自活できませんから。関係修復を諦めろというなら、この問題は解決していただきたい」


 ワシューが一瞬でこう切り返した。

 却下されるのをわかっていて発言し、それをテコにして必要なものを引き出しにかかったのだ。

 こいつはただの理想主義者じゃない、十分に政治家がやれるな、とオベウスは思った。


「当然だな。クレーター外周部に作るエルフの街と中央のダークエルフ街、この二つの中間点に学校を開設する。卒業者の進路への干渉は禁止。これでどうだ」

「ええ。それで手を打ちます」


 そして、会議は進む。

 都市のレイアウト案、シールドに変わる天井の検討、資源の採掘計画……。


「ところで。この都市の名前はどうしましょうか?」


 あらかた主要な議題が終わったところで、ワシューが言った。


「何か案のある方は……」

「アルザール。かつてのダークエルフの首都だ。これしかないんじゃないか」


 エアナが即答する。


「月面都市アルザール。悪くない響きだ」


 オベウスが呟いた。



(おまけ:”ルナークリート”の作り方)


1.月の砂を採取します。

2.月の砂に埋もれた玄武岩からカルシウム豊富なものを選んで採取します。

3.玄武岩を約1700度まで熱します。CaO、Al2O3、SiO2が約4:5:1の割合で残留します。”アルミナセメント”の完成!

4.熱処理した玄武岩の粉末と、月の砂と、水もしくは硫黄を混ぜます。

5.ルナークリートの出来上がり!


(実際に作れるらしいけど、こんなこと調べてないで面白さに注力しろって話ですね……)

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