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13話 三人の候補生 前編

「ですから、あの、門に集まらないでください!!」


 眼下でうごめく、色とりどりな人の絨毯。

 私たちの起床時間よりも前から立ってる人もいるって聞いたけど、いったいいつ寝てるのか。

 昨日に比べたらだいぶ減ってはいるけど……。

 やけになりながら手を振ると、満足してくれたのか帰ってくれる人もいる。

 それでもまだ……千人くらい?


「応援はありがたいですし、きちんと届いてます!! でもそこにいられると、他の隊員に迷惑がかかるんです!!」


 去る人がいるわりに、群衆の大きさはそれほど変わらない。

 どうして……あー、同じくらい来る人もいるからか。

 まさか「もう応援しなくていいから!!」なんて考える日が来るとは思ってもみなかった。

 そういうのに憧れたことはあったけど、今はただ辟易している。

 これなら外敵と戦っていた方がましかも。


「はぁ……今ってどれくらい経ってますか?」

「三十分くらいかな」

「まだそれだけですか!?」


 とりあえず一時間くらいはここ、塔の上にいようと思ってたけど、もう無理。

 迷惑だって言ってるのに、なんでわからないかな。

 ……というか、なんで私がこんなに言葉を選んで、遠慮しなきゃいけないんだ。

 私、救世主様でしょ?

 なんだか腹が立ってきた。


 そして、午前の疲れと、早く遊びに行きたいのと、これ以上なく時間を無駄にしてる実感が合わさって、つい、かっとなってしまった。


「もう!! そこどいてって言ってるでしょ!! 邪魔!! 私がいる時はともかく! それ以外、は……ぁの……門の周辺には集まらないでくださぃ……」


 ……やってしまった。


 勢いよく口から飛んでった暴言に、止まらない冷や汗。

 さび付いたような首を回すと、驚くランさんと目が合った。


────────────

──────


「……うぁー」

「あはは、まだ気にしてるの? 可愛いなあ。大丈夫、なんともないって! あたしたちにとってはありがたいし」

「でも……あんなとんでもないこと、みんなどう思うか……あ、それだと負けになりますよ」

「え? おっとほんとだ、じゃあこっちで。まあ、ランも別に何も言ってなかったんだよね?」

「そうですけど……あ、どちらにせよ私の勝ちでした」

「ぐわー、やっぱりやるんじゃなかったぁー」


 大げさに倒れこんで、ごろごろと転がるコアさん。

 いくらなんでも弱すぎるなあ……ババ抜きに似た単純なカードゲームですら負けてた。

 いったい何なら勝てるんだろう……。


 それはさておいて、ほんとに大丈夫かな……。

 数十分前怒鳴ってからは、みんなどんどん帰り始めた。

 どんな顔だったかは見てない、というか見ないようにしてた。

 最後に残った、おそらく一番熱狂的な十数人も静かになってしまって、お昼までの喧騒が嘘のようだった。

 隊員たちからはお礼と称賛ばかりだったけど……。

 取材もあったし、二重に明日の朝刊が怖い。


「ん、またさっきのこと考えてる?」

「す、すみません……」

「よし、じゃあ一つ昔話をしよう。ある基地に、緑の髪のそれはそれはこわーい守護者がいたんだ」

「……チラカさんですか?」

「ある時その人は、取材に来てた記者に『うるさい!! それ以上喋ると灰にして森にぶちまけるぞ!!』と言ってしまってね。それでも新聞で少し記事になったくらいで、特に何もなかったよ」

「そんなこと言ったんですか……」

「つまり、こんなに言っても大丈夫なんだから、『邪魔!』くらいなんてことないよ!」

「そう、ですかね」

「そうそう。ところでヴァーユ遅いなあ」

「確かに」


 私がここに来た時にはもういなかったけど、妹に呼ばれたんだっけ?

 名前はミーユといって、候補生らしい。

 つまりいずれは守護者になる子ってことだよね?

 なら近いうちに私の後輩に……!

 と、噂をすれば。


「ただいま……カノン、もういたのね。ちょうどいいわ」

「おかえりー」

「おかえりなさい、ってその子は……あ、妹さんですか?」


 部屋の外からこちらを伺う少女が一人。

 燃えるようななポニーテールが鮮やかで、見た目は小学生くらい。

 比べてみると、確かに目元とかが似てる気がする。

 でも髪の色は全く違うんだ……ってこの子、見覚えがある!


「きゅ、救世主様……」

「もしかして、前に医務室に来た? 姉妹だったんだね」

「そ、そうです。その時はごめんなさい……」

「ああうん、別にいいよ」


 思い出した、あの女の子たちのうちの一人だ。

 あの時は面食らったけど、今ならあんなの可愛いものだなあ。

 そういえば、結局チラカさんにはばれたんだろうか。

 今なら、できる限り早く戻らせると思う。


「それで、頼み事って言うのは?」

「えっと、このあと外に行くんですよね? もしよかったらついていきたいなって……あっ、無理にとは……」

「私はいいけど……いいですよね?」

「うん、いいよ。あの二人も?」


 気が付くと、「あの二人」が同じようにこっちを覗き込んでいる。

 茶髪と銀髪で、こっちもやっぱりこの前の子たちだ。

 これでもかと眼を輝かせて、きらきらと聞こえてきそうなくらい。


「私たちもいきたーい」

「お願い!」


 もちろん断る理由なんてない。

 そんなわけで、久しぶりのお出かけは六人という大所帯になった。


────────────

──────


「じゃあ準備してくるねー」

「あたしも!」

「わ、私も」


 弾んだ声で三人は駆けていった。

 可愛らしい後ろ姿に、疲れが少し癒される。

 それはさておき、私たちも出かける用意しないと。

 と言っても私はもう万端だけどね。

 服はランさんに選んでもらったし、バッジも付けてきた。

 お金は前借りさせてもらったし、髪も整えたし、いつでも外に行ける!


「いきなりごめんなさいね……」

「え? ああ、いえいえ、むしろ楽しみですよ」

「それよりカノン、ちょっとこれつけて」

「はい、ってそれなんですか? かつら?」


 たんすを漁っていたコアさんが持ってきたのが、謎の髪の毛とかじゃなくてよかったけど、なんでかつら?

 緑で、チラカさんによく似た色合い。

 されるがまま、外れないようにしっかりとつけた。

 鏡で見ると、色が変わっただけなのに自分じゃないみたい。


「なんでそんなの持ってるのよ」

「まあちょっとね。あとついでにそれも外して、必要な時だけ見せるようにしよう。変装しないと、基地の前からいなくなったからって街で囲まれないとも限らないし」

「そっか、そうですよね。ありがとうございます」

「あれ、救世主様……だよね?」


 いつの間にか、三人が軽く息を切らして戻ってきてた。

 みんな可愛い服を着て、髪と同じ色のポーチをさげてる。

 その今にも外へ飛び出したいといった顔を見てると、小学校の遠足の日を思い出した。


「カノンはそのままじゃ外になんて行けないからね」

「そうなんだ。そういえば、自己紹介がまだだったね! あたしはマリ、候補生最終段階なんだ!」

「私はセナだよー。同じく最終段階なの」

「わ、私もです。あ、ミーユです」

「よろしく!」「よろしくー」「よろしくお願いします……」


 えっと、茶髪がマリちゃん、銀髪がセナちゃん、赤髪がミーユちゃん、か。

 名前を覚えるのはあまり得意じゃないけど、髪の色が違うのはわかりやすくていいね。


「よろしくね、私はカノンって呼んでいいからね」

「おっと。みんな、わかってるだろうけど外ではそう呼ばないように。カノン、変装はもう一個あるんだ」

「もう一個?」

「うん。これからお出かけに行くのは、守護者二人と候補生四人、ってこと」

「……それってつまり、私も候補生ってことじゃ……?」

「そうそう。守護者ってことにすると名前聞かれたらばれちゃうかもしれない」


 まあそうかもしれないけど、なんで候補生……と言いかけてやめた。

 なぜかって、全く違和感がないから。

 三人の横に立つと目線は同じ高さ、いやむしろ……。

 今現在、全隊員の中で一番小さいけど、それはこの子たちが守護者になっても変わらないんだなあ……。


「なんかごめんね、でも隊長の方がその方がいいって」

「謝らないでください……」

「友達じゃだめなの?」

「いろいろあるんだって。と、いうわけで最後は偽名を決めよう! カノンは何がいい?」

「偽名ですか? うーん……じゃあハンナで」

「ハンナ!」

「ハンナさん!」


 昔読んだ本か漫画のキャラクターの名前だったと思う。

 特にお気に入りってわけじゃなかったけど、ふと思い出したからそれにした。

 これから私は街にいる間、緑髪のハンナだ……候補生なのは気に入らないけど。

 とにかく、救世主という単語にうかつに反応しないようにしないと。


「よし、じゃあ出発!」


────────────

──────


「あ、コア隊員だ!」

「ヴァーユ隊員もいます!」

「はーい、こんにちは」

「君たちは候補生? 段階は?」

「最終だよー」

「頑張ってくださいね!」


 道を歩くと、前と同じようにたまに話しかけられる。

 そのたびに誰かが応えてくれるから、私はひたすら黙っていた。

 それより、髪を変えても顔を見られたらバレるんじゃないかって思ったけど、ここまでで怪しまれることすらない。

 ここの世界の人たちは、実は髪の色で個人を判別してる疑惑が浮上してきた。


「人気なんですね」

「まあね、救世主様ほどじゃないけどね!」

「あはは……」

「私は別に人気なんかなくていいわよ」

「えー、声かけられたりすると嬉しいけどなぁ」


 私はヴァーユさんに賛成。

 幼少期からずっととかならともかく、ある日突然大人気だなんてなかなか頭がおいつかない。

 これを利用して良い思いしてやるぜ、なんて性格だったらもっと楽なのかなぁ。

 利用するとしたら……なんだろう、お菓子でも要求する?

 そんなことしたら家にできるほど届きそうだなぁ。


 ちょうどお菓子屋さんの隣を通ったところで、はたとコアさんが立ち止る。

 変なこと考えてたから、軽くぶつかってしまった。


「ねえ、みんなでカノ……ハンナにおすすめしたいところに行くことにしない?」

「おすすめ?」

「その方がいろんな店に行けていいかなって。どう?」

「良いですね」


 私たちくらいの年代や、小さい子がどういうところに行ってるのか気になる。

 甘いものを学校帰りに、は無理だから、戦闘帰りに、とか?

 それと、この世界特有のお店とかないのかな。

 変なもの売ってたり……って早速あったし。

 「貸しランドセル」だって、なんとまあわかりやすい。


「さて、じゃあ最初はあたしが面白い店に連れて行ってあげるよ」

「面白い?」

「そうそう。マリたちは行ったことあるかもね」

「変なところじゃないでしょうね」

「変じゃないって」


 その面白いお店は、少し路地裏に入ったところにあった。

 日陰だけど照明がやけに多いからすごく目立つ。

 そして、大きなポスターが貼ってある店頭へと着いた。


「写真札・壁紙屋?」

「うん、その名の通りの店だよ」

「あたし一回だけ来たことある!」

「わ、私は来るの初めてです……」

「私が行かせなかったからよ。コア、ここなんてまさしく変なところじゃないの……」

「まあまあ。さて、えーっとハンナ、あのでかいの、誰だと思う? この基地にいる人だよ」

「これですか?」


 ポスターには、青空を背景に羽ばたく女性が描かれている。

 黒髪で長身、スタイルも良くて美人で不敵に笑う守護者……こんな人いたかな。

 あ、右下に名前が……って──────


「救世主カノン!?」

「あっはっはっは!! そう、これはかの有名な、光線のように突如現れし、世界最強最速の救世主様、カノンなんだよ!!」

「なっ、いやー、ええ……」


 予約済、次回入荷未定と貼られた「私」と目を合わせる。

 ……同じところなんて髪くらいでしょこれ。

 さっきの色疑惑がますます深まってきた。

 というかこれ買う人いるんだ……その人に「カノンは私ですが」とか言ってやりたい。


「まあ今日写真撮ってたみたいだし、修正されるよきっと」

「そうですね、幻滅されないうちに早くしてほしいですね……」

「さて、ここで見ててもしょうがないし入ろっか!」


 音漏れしていた店内はやっぱり騒がしくて、そこかしこに私の絵、救世主様という文字がある。

 なんか撃墜記録表とかあるし。

 写真札明日入荷とか書いてあるし。

 引き返すなら今しかないとか考えていると、近くの二人組の会話が飛び込んできた。


『聞いた!? さっきの声!』

『聞いた聞いた! もうくらくらしちゃった!』

『素敵よねー!』


 うん、確かにあの暴言はなんてことなかったみたい。

 でもクラクラはないでしょ。

 というか本人ここにいるんですけど!

 そんなに候補生として違和感ないですか!!

 むず痒いやらもどかしいやらで、言葉にならないうめき声。

 あと必死に笑いを押し殺してるコアさん、どうしてくれよう。


「あー可笑し……あ、見て見て、あれが歴代の救世主様だよ」

「あれですか」


 涙まで出てきてる彼女の指の先には、ところどころ絵が混じってる写真の列があった。

 どれもこれも凛々しい顔つきで、いかにも世界を救ったっていう雰囲気。

 一番端の生没年は約百年前、ということはあの横に私も加わるのか……場違いでは?

 午前撮ったのがカードになるってことだよね……変な顔だったら消して絵にしてもらえないかな。


「「「……」」」


 ふと気が付くと、遠巻きにこっちを見てる候補生たち。

 どうやら医務室の件はヴァーユさんには知られたみたいで、結構怒られたとか。

 だから今日はかなりおとなしいんだね。

 とはいえせっかく一緒なんだから何か話したい。

 確かミーユちゃん以外は来た事あるって言ってたし、どんなのを買ったりしてるのか気になる。


「マリちゃん」

「わっ! なに?」

「えっと、写真札? を集めたりしてる……んだよね?」

「そうだよー。お部屋に飾ったり、こんな部隊があったらいいな、なんて考えながら並べたりしてるの」

「私は今は持ってないんですけど、あの、救世主様のが出たら必ず買うつもりです!」

「そんな必ずだなんて……おー、コアさんだ」


 つまり写真札とはブロマイドのことで、好きな守護者のを集めたりしてるのかもしれない。

 あと基地名で棚が分かれてるのを見るに、世界中の人のがあるんだろう。

 その中のメールナーの棚の一番上、「コア」という名前を見つけたけど……。


「高っ! これ一枚でこの値段!?」

「たぶん救世主様はもっと高いと思うよ」

「ええ……」

「これは内緒だけど、活躍しそうな人のを買って、人気が出てきてから売って大儲けしてる人がいるらしいよー」

「ひええ……」


 思ってたよりなかなかダーティーなものなのかもしれない。

 とりあえずミーユちゃんたちには、いつでも私を見に来ていいから写真札は買わないでと言っておこう。

 …………でもそっか、私のが出たとして、それを買ってサインでも書いて売れば……って邪な考えに染まっちゃだめでしょ!

 とりあえず別の話題を……。


「お気に入りの人とかっているの?」

「きゅ、救世主様……!」

「それ以外で」

「今だと最前線のシーファかな。外敵の武器をむしりながら戦うってすごすぎる!」

「私はフラーシャさん派かなー。実戦でまだ一度も外したことがないんだって。それに、銀面赤眼っていうあだ名もかっこいい」

「そしてなにより……」

「「二人の息がぴったり!」」

「お互いのことがわかるどころか、自分の体のように動くらしいよー」

「そんな関係憧れるなあ!」

「もしかして、そうなりたい人がいるのー?」

「えっ、いや、そっちこそどうなの!」


 ぽかんと呆気にとられながら熱い語りを聞く私とミーユちゃん。

 そのすごいと言う二人の写真札を見せてもらったけど、目にクマがあって愁いを帯びた表情だった。

 最前線か……やっぱり過酷なんだろうか。

 きっと私が相手するのよりも大きい外敵がうようよいるに違いない。

 私は救世主なのに、そこに行かなくていいのかな……?


「ちょっと! ちょっとこっち来て!」


 まだ見ぬ地獄に思いをはせていたら、小声でコアさんに呼ばれた。

 手招きされるままついていくと、何かにくぎ付けになってるヴァーユさんがいる。

 しーっ、とジェスチャーをされたからなるべくこっそり後ろへ回る。

 ……あー、なるほど、確かにこれは見てしまうかもね。


「ヴァーユ!!」

「ひゃあああああああ!??」


 後ずさりしてそのまま壁に激突、うずくまってしまった。

 耳まで真っ赤で、にやにやしながら顔をあげさせようとする手をひたすら振り払ってる。

 このポスターの爽やかな笑顔の守護者は、今、恋人をいじる小悪魔となった。


「何見てたのかな?」

「なんでもいいでしょ!」

「これ? えーっと名前は……コア! ああ、あたしだぁ!」

「何言ってるのよ! もう!」

「で? これに見惚れてたの?」

「そ、そんなわけないでしょ!」

「ひどいなあ、本物のコアがいるっていうのに……しかも相部屋!!」

「…………なによ、いいでしょ。綺麗なんだから……」

「なっ、綺麗だなんて、じゃあ今のあたしはそうでもないってこと?」

「そうじゃないわよ。でもこういう、素敵な笑顔も見たいの……」

「ヴァーユ、これはよそいき、取材用の笑顔だから。君に見せるのは君だけの笑顔で」


 何を見せられているんだろう。

 なんかもう視覚と聴覚がシャットアウトされ始めた。

 いつの間にかあの三人はどこか行ってるし……。

 2人とも人気の守護者なんでしょ? そんな人たちがこんな甘い空間つくってるからもう人だかりできてるよ?

 とりあえず明日の朝刊の一面は『守護者、人目もはばからず店で熱い抱擁』とかにした方が良いと思う。


 口直し、いや目直しにまた写真札の棚に戻って眺めてみる。

 どこかの基地の知らない誰かがずらっと並んでいるのは壮観だけど少し怖くもある。

 あれ、これ安い……ああ、少し前の守護者なんだね。


 大体十年くらい前の……十年前!!


 滑るようにここの基地の棚に行って、下の方から探していく。

 これは違う。

 この人も違う。

 これじゃなくて……あ……あった。


『ラン』


 おお、これが……って若っ!

 顔は間違いなくランさんだけど、幼さでいっぱいだ。

 笑顔でポーズをとる彼女はとっても可愛くて、心を掴まれてしまう。

 ……これは買うべきだ。

 これを買わずして何を買うのか。

 ショーケースには入ってなくて、簡単に手の中に収めることができた。

 さて、あとはこれを会計するだけだけど……。


「コア……」

「ヴァーユ……」


 よし、今のうちだ。

 万が一見つかったら、それはもう盛大にいじられるだろう。

 そうなったらもう部屋に戻れなくなっちゃう、急がないと。

 空を飛ぶよりも速く、レジへと向かった。


「袋は?」

「お願いします」


 やたら無口な店員にお金を渡して、写真札が入った小さな紙袋を受け取る。

 こ、これでランさんの昔の姿が私の物に……!

 帰ったらどうしよう、飾るなんてできないしとりあえず机の中に──────


「な、何を買ったんですか?」

「わあああああああ」


 今度は私がふっとぶ番だった。

 しまった、完全に忘れていた。

 追及するような六つの目。

 慌てた私は手品師もびっくりの手際で、写真札を内ポケットへしまう。


「写真札ですよね? 誰なんですか?」

「いやー、誰だろうね」

「あたしも気になる! 教えてよ!」

「私が思うに、きっとラン先生のかなー」

「え゛っ、いやー、どうだろうね」

「教えてください!」

「教えて!」

「教えてー!」


 三人で逃げ場を無くして、ぐいぐい迫ってくる。

 こんな時、本当に自分の小ささを恨むね。

 というかまずい、このままだとコアさんがこっちに……!


「そ、そういう話はあとで! 外で! ね!!」


 ひたすらはぐらかしてはぐらかして、逃げるように退店した。

 どうかこの子達が落ち着いて、そのまま忘れてくれますように!

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