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12話 取材、販売、勧誘

「ごちそうさまでした……」

「頑張ってねー」

「はい……」


 朝食のおいしさ程度じゃ、晴れない心。

 二人に取材のことを言ったら、不安を煽る煽る。

 特にコアさん!

 面白さ半分どころか八割って感じで、途中から明らかに嘘だったし、顔にやけてたし。

 記者が透明化して、部屋の中に取材に来るだなんて、それはもう超能力の類だと思う。


「まあ気楽にね! 困ったら全部私に投げていいから」

「お願いします……」

「ところで、部屋ってどこだっけ」

「北棟の一階の……どこでしたっけ」


「三号室だ」


 振り返ると、厳しい顔をした隊長……じゃない。

 緑の髪の女性が、腕を組んで立っていた。

 誰だろう……でも声は似てたし、雰囲気もなんとなく被るんだけどなぁ。

 もしかして姉妹? っていう年齢じゃなさそうだから親子?


「そうだったね、ありがと」

「ああ。それと私もついていくことにした」

「取材に?」

「そうだ、不埒な者は私がつまみだす。ランでは不安だからな、あまり口出しするなとは言われてるが」

「それくらい私でもできるけどなぁ」


 なんだか親しげに話す二人。

 年齢が近そうだし友達なのかな?

 いや、ここじゃ恋人という可能性も……それは前いないって言ってたか……。


「カノン?」

「え? あ、あの、よろしくお願いします。えっと……」

「チラカだ。ランの同期で歴史の教師をしている。改めてよろしく」

「こちらこそ……ん? あっ、チラカ!? さん!」

「どうした?」

「あ、えっと、その、すごく真面目な人だって聞いてて……」

「おお、そうなのか」


 『撃ち落とすからな!!』とどすのきいた声が脳内に響く。

 ついでにコアさんが言ってたことも思い出した。

 緑のロングヘアーは、私たちや候補生にとって危険信号らしい。

 そういえば、初日に来たちっちゃい子たちも名前を聞いてすっ飛んでいったなぁ。


「あはははは! ま、真面目!」

「なんだ」

「なんでも。それより、もう行こっか」

「は、はい」


 何かを察したのか、ランさんに笑われた。

 同年代にも同じように思われてるのかな……。

 とはいえ、今は別に私が怒鳴られるわけじゃないし、むしろ心強い……かも。


────────────

──────


「そろそろだな」

「はい……」


 北棟一階三号室、私の脇を固めるように二人が座った。

 そしてテーブルを挟んで、椅子がいくつか置いてある。

 実は来てるのは記者が数人だけで、取材もすぐ終わる……なんてね、甘いよね。

 隣の部屋の騒音に、現実を聞かされた。


「救世主様、もういいかーい?」

「あっはい、大丈夫です」


 外にいる隊員から声をかけられた。

 返事をすると、騒がしさが増していく。

 なんか最初の日の、食堂の前に着いた時の気分。

 やがて、勢いよくドアが開いた。


────────────

──────


「つまり相部屋までしておいて、ラン隊員とは何もないと?」

「ありませんって……というか本人のいる前で何言ってるんですか……」

「同じこと何回聞くんだお前らは……」

「あはは……」


 困り顔、呆れ顔、苦笑い。

 トップバッターとして10人ほど入ってきた、カラフルな記者たちに写真を数枚撮られた後は、予想通りの質問攻めだった。

 しかもそのほとんどは私の恋愛に関することで、答えようのない、答えたくないことばっかり。

 きらきら、というよりぎらぎら輝く好奇心が突き刺さる。

 なんとか新聞だとか名乗ってたけど、こんなのもうゴシップな雑誌じゃあ……。


「じゃあ他に気になる隊員とかは?」

「いても言いませんって……」

「おや、引っかかる言い方! 実はいたりして?」

「そういう意味じゃ……あ、機密、『機密』です!」

「そこをなんとか!」

「あれ!? え、えっと、だからいません! 今はそういうのは考えられないです。というか他に聞きたいことはないんですか!? 家族のこととか、昔のこととか!」

「記憶喪失なのに聞いても迷惑かなって」

「そこは配慮するんですか……」


 私がなんと言おうと、誰かを好きだということにしたいみたい。

 でもここで名前を言おうものなら、その人にとんでもない迷惑がかかるのは目に見えてる。

 もしかして、模範解答は「この街のみんなが恋人です!」なのでは……?

 なんてアイドルチックなことを考えてたら、ようやく引き下がってくれた。

 と、思ったら。


「本当に好きな人はいないんですね」

「そうですよ。やっとわかってくれましたか……」

「じゃあ……私とかどうですか?」

「はぁ?」


 じゃあ、なんだって?

 唐突すぎて変な声が出た。

 部屋中の視線が一人に集まる。


「あああ!! そういうのはなしだって決めてたじゃん!!」

「いいじゃないですか!! ほら、私そこそこ顔も良いと思いますよ、救世主様!」

「何言ってんの、救世主様にはもう好きな人がいるんだから!!」

「そうだよ! でももし本当に違うならあたしが……」

「ちょっとまだ言うの!? なら私が!! 救世主様、好きよ!!」

「私が!!」

「かわいいね!!」

「救世主様!!」

「好きです!!」

「あの……」


 どうしてこうなるの。

 私への取材のはずが、いつの間にか告白大会に。

 こんなの隊員たちの方がよっぽど質問してた。

 不安なんてとっくに消え、呆れでいっぱいになる。

 とはいえ私じゃどうにもできなさそうだから、なんとかしてもらお──────


「ぉお前らあぁ!!!」


 鼓膜がちぎれ飛ぶかと思った。

 真横から何か塊をぶつけられたみたいだ。

 チラカさんも、私が横を向くのと同時に立ち上がってた。

 全員即座に黙って、そのままの姿勢で凍り付いている。

 そして彼女は大きく長い溜息をついて、言い放った。


「出ていけ」


 記者たちはそそくさと逃げ出して、私たち三人だけが残された。

 かなり動いてたテーブルを元に戻して、ほっと溜息。


「すまない、もっと早く言うべきだったな」

「いえ、ありがとうございます」

「私はこんなんしかできないからな、ランが先に止めてくれると思ってたが」

「あー、私は…………ちょっとだけ気になっちゃって……あは、あはは」

「おい」


 ランさんまで……。

 まあ気持ちはわかるけど……。

 修学旅行とかの夜、友達から無理やり聞き出したりしたっけ。

 それと似たようなものなのかもしれないね。

 

「次いいかーい」

「あ、お願いします」

「はーい。ところで、さっきのってチラカ? ひひ、すごかったね」

「うるさいな」


 ってそうだそうだ、次が来るんだ、こんなこと考えてる場合じゃない。

 気合を入れると、再びドアが開いた。


────────────

──────


「えっと、つまり?」

「前の型より大きさを1割増やしつつ重さは0.2割減、さらに背宛てに新素材を使用することで通気性を改善しました! また、武器取り付け具も改良、素早く脱着ができます!」

「な、なるほど」

「カノンのはそこにつけられないけどね」

「こちら最新型なのですが、救世主様ですし、値引きさせていただきますよ!」


 タダじゃないんだ……。

 特別価格と言われた値段は、基準がよくわからなかった。

 高価なのは間違いないんだろうけど、ランドセルがそもそも高そうだしなぁ。

 というか大きくなったとか軽くなったとか、次は何とかの羽って名前がつく?

 ってもう付いてるか。


「高いな、今使ってるやつの倍くらいだ」

「そうなんですか?」

「なにぶん最新型ですので」

「これって経費で落ちないんだっけ」

「ダメだろ、全隊員総取り換えするならともかく」


 つまり欲しいなら自腹で、ということか。

 でもなぁ……やばい、これ超欲しい!! なんて思わないしなぁ。

 二人も必要なさそうな顔してるし……。

 買わない方向に傾きつつある私を知ってか知らずか、ランドセルメーカーの人はさらにたたみかけてきた。


「これから長期戦や強力な外敵が出てくるかもしれません。そんな時、大きく、軽く良いものを背負っていた方が、より活躍できるんです」

「そ、そうですか」

「ランドセルの良さは動きの良さに直結します。こちら、前線基地五つを対象にした調査では、この最新型を使った方が撃墜数が増加してるのがわかると思います! さらに作戦中や作戦後の疲労や不快感も軽減する効果があり」

「あはい、あの、わかりました」


 部屋に入ってくる時は「さ、さっきの声は……」なんておどおどしてたのに、今や身を乗り出してくる。

 商魂たくましいというか、図太いというか。

 まあ記者たちよりはましだけどね……。


「そういえば色って他のはないんですか?」

「色ですか? 作らせることもできるでしょうが……変わってますね」

「カノン、普通はこの色しかないよ」

「そ、そうでしたか、忘れてください」

「はい、じゃあ気を取り直して、試着してみません? 実際に背負った方がわかることもあると思うんですよ。ああ、もちろん無料ですよ」


 試着か……。

 今のも数回しか使ったことがない私に違いがわかるかは知らないけど、やってみてもいいかも。

 とはいえここで羽を広げるわけにはいかないから、屋内練習場へと向かった。


「では、どうぞ」

「これが最新型……」


 それっぽいことを言ってみたけど、うん、わかんない。

 なんとなく違うかな……? くらい。

 背負った感じも……あー、少し軽い……気がする。


「お似合いですよ!」

「……ありがとうございます」

「ではその、翼を見せていただけると……その方がわかることもあるでしょうし」

「はあ、そうですか、じゃあ」


 少しむっとしながら、背中に力をこめる。

 すると明らかな違いを、はっきりと感じた。

 悪い意味で。


 がちゃ、ぺちん!


「あいたっ!」

「大丈夫!?」

「は、はい、びっくりした……」


 突然ランドセルのふたが勢いよく開いて、そのまま頭にぶつかってきた。

 金具が当たって、地味に痛い。


「おい、これ検査してないな?」

「したはずなんですけどね、えへへ……」

「笑い事じゃないぞ、論外だ」

「はい……」


 ランドセルをぱかぱかさせたまま、うなだれながら帰っていった。

 買う気はなかったけど、なんかかわいそう。

 あと、あれは緊急停止の動作で、一度に消費する体力が多すぎるとああなるらしい。

 いたずらで、誰かに金具を開けられてるのに気づかないままお辞儀しちゃったのを思い出した。

 教科書ばさー!


────────────

──────


 それからあとは他の記者が来たり、写真撮られたり、握手したり。

 保険の勧誘や、本を書きませんかなんてのもあった。

 でも審査があるからかほとんどはまともな人だったし、熱狂的といっても最初の記者たちと同じくらいで、慣れたらそれほど大変じゃなかった。

 ただ二人だけ、すごく印象的な人たちがいた。


──────

────────────


「結婚して!!」

「出ていけ」


「髪の毛ください!!」

「出ていけ」


────────────

──────


 かたや婚姻届らしいものを手に、かたや袋を手に、私に迫ってきた。

 取材という名目で、記者である証明すら持ってたらしいけど、それらは全て偽物だった。

 ドアが開いて入ってくるまでの真面目できりっとした顔から、私を見た瞬間の豹変っぷりは、後にも先にももう見れないと思う。

 そして、ようやく今目の前にいる人で全員らしい。


「では失礼するね。これからもよろしく」

「はい……」

「……よし、これで最後だな」

「お疲れ様、カノン」

「お二人もありがとうございました……」


 はー、疲れた……お尻が痛い……。

 最初の方は全部きちんと理解してたけど、最終的には相手が何の人だかわからないくらい聞き流してた。

 置かれてる書類には……食品会社? なにか食べ物とかくれるのかな。


「さて、さっさと片付けて戻ろう。これらはどうする?」

「一応とっておこうと思います。後から欲しくなったりするかもしれませんし」

「じゃあ私の棚に入れて──────」


「次いいかーい」


 あれ? と動きを止めた。

 二人も同じ顔をしてる。

 実は勘違いしてて、まだいたとか?

 慌てて椅子に戻る私たちをよそに、黄色いショートヘアのお姉さんが入ってきた。

 今の声の主だ。


「まだ誰かいたの?」

「そうそう、急に勧誘したくなったの」

「そうか、すまないな救世主様。で、そいつはどこだ?」

「やだなー、もういるでしょ!」

「……は?」


 彼女はいたずらっぽく笑うと、こっちを向いて一気に距離を詰めてきた。

 かなり背が高くて、ほぼ真上を見ないといけない。

 そしてさっきまでの人たちと同じような目をして、早口でしゃべり始めた。


「ねえねえ救世主様、飛行技術に興味ない? ただ飛ぶだけじゃつまらないよ! 空に絵を描いてみたくない!?」

「おい」

「友達と、仲間と、恋人と、近づいたり離れたり、絡み合ってじゃれ合いながら飛んだり、撃墜数報告にひねりを加えた宙返りをしたり、戦闘! 戦闘でももっと外敵に近づいて、もっと直前で避けてもっと簡単に壊せるように!」

「おい!」

「大丈夫大丈夫! 本職の私が手取り足取り翼取り、飛行技じゅちゅ……技術を丁寧に丁寧に教えてあげるから! 救世主様、もっともーっと速く美しく飛びたくない!?」

「おい!!」


 何も言えないでいたら、ランさんが間に入って、チラカさんが引っぺがしてくれた。

 記者たちと比べても遜色ない熱量に圧倒されてしまう。

 ……あと今噛んだよね。


「落ち着け、レシュヌ」

「ごめんごめん。でも私も何かしたくって。救世主様、ぜひ検討してほしいな!」

「そ、そうですね、考えておきます……」

「カノンは今のままで十分すぎるくらいだよ。もし必要になっても私が教えられるし」

「独り占めはずるいよー! ねえ、チラカも教えたいでしょ?」

「まあ、確かに……だがなぁ」

「……二人とも、このあと授業あるんじゃなかったっけ」

「おっとそうだった! じゃあね、いつでも私たちの部屋に来ていいからね!」


 あっけにとられてたら、三分も経たずに出ていった。

 なんだか嵐みたいな人だったなぁ。

 レシュヌさんだっけ、彼女は飛行の先生ってこと?

 ランさんもいいけど、そういう人に技術を教えてもらうのもありかもしれない。

 前向きに検討させていただきます、かな。

 そんなことを考えてたら、大きなため息が聞こえてきた。


「……ふぅ」

「すみません、疲れましたよね。私がもっとしっかりしてれば……」

「あ、ごめんね、そうじゃないよ……実を言うとね、レシュヌが苦手なんだ。距離感が近すぎるというか、調子が狂うというか」

「そうなんですか」


 なんか驚いちゃった。

 でもまあ、普通に好き嫌いくらいあるよね。

 そっか、ああいう人が苦手なのか……。


「あ、別に教えてもらうなってわけじゃないよ。私より上手だし」

「は、はい」

「でもまあ、私としてはカノンみたいな子が良いなぁ。基本おとなしくてたまに……」

「たまに?」

「わ、忘れて!」

「……? あっ、もしかして今のって、好みの人の話ですか!」

「ぇぁっ……まあ、あはは。取材に影響されちゃったかな」

「じゃあ外見的な好みはどんなんなんですか!」

「え、まだ聞くの!? じゃあ機密、機密で!」

「そこをなんとか!」


 顔をほんのり赤くしてうろたえるランさんに、追撃する私。

 なるほど、記者の気持ちがよくわかった。

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