『フォースが有らん事を。』
「ところでアッシュ、この後はどうするつもりだ?」
ドウズが問う。
「??? どうする……とは?」
「いやな、ドーサでの買い付けも終わったからな。もっかいお前の村へ行こうと思ってな。」
(そうだった。ドウズさんは元々俺の村へ行商に向かう途中でモンスターに襲われて荷台の商品をダメにしてしまいドーサまで商品の補充に戻って来るのに便乗させて貰ったんだった。)
アッシュはドウズの元々の目的とドーサまでの道のりを思い出していた。
キリ山で崖を荷馬車ごとドリフト走行して死にかけた事、岩石猿との戦闘で折れてしまった愛剣とドラゴンキラーとの出会い。巨大蟹との水中バトルからの人生初の砂漠とそこで見た妙なロボットの夢。耳赤マウス出現での暗黒騎士との共闘と共逃。砂漠の街ドーサでのスリ被害と初めての来魔戦。
「あの……俺は村へは戻らず、違う場所に行ってみようと思います。」
アッシュはドウズとは別の道を選んだ。
「そうか。じゃあ俺達はここで別々(べつべつ)だな。」
旅慣れたドウズの言葉はあっさりだったが、冷たくは無かった。
「ドウズさん、ここまで色々と有り難う御座いました。……ところで、ドウズさん。ついでといっては何ですが。」
「何だ?」
「俺の村に着いたら、母にこれを渡して貰えませんか?」
アッシュは布の包みを渡す。
「アルメリアに?」
ドウズが中身を覗いてみると、中身はアッシュが来魔戦の報奨として貰ったジェムだった。
「親父が居なくなった今、それをお金に替えれば生活費になるかな?……と。貰った分全部ではないですが、それだけ有れば暫くの生活費にはなると思うんですが…………。」
「分かった。じゃあ、俺がこのジェム分を換金して渡しといてやるよ。」
「そうして貰えると助かります。」
「んで、お前らはこれからどこ向かうんだ?」
ドウズが行商仲間に探りを入れる。
「ワタシ、獣人の国行くネ。」
ワンは既に目的がハッキリ決まっているようだ。
「俺は……ツツイ城だな。」
ボスもハッキリとではないが次の目的地はほぼ決めているようだ。
「俺はフォース方面にでも行くか。」
『方面』……キロスはまだザックリとしか決めていない様子。
「俺は砂は見飽きたから海沿いでも行ってみるか。」
とナヴィ。
・
・
・
会話に妙な間が空く。
(ん?)
と思い、アッシュが行商人達を見回すと全員アッシュの方を見ている。
次にドウズを見ると、クイッと小さく顎先で合図した。
とうに出発の準備を終えた商人達が荷台の幌を閉め切らずに何かを待っている。
そこでようやくアッシュはドウズが何故わざわざ全員に行き先を聞いたのかを理解した。
「あ!」
『行きたい場所が有るなら乗せて行ってやるぜ。』
と、アッシュには無言のセリフが聞こえてきた。
全員の行き先を聞いていたアッシュにはひとつ引っ掛かる場所が有った。
キロスが言った『フォース方面』である。
(フォース……『フォース魔法学院』)
アッシュの頭の中でペネルタの言った魔法学校の名前がよぎる。
「あの……キロスさん。そのフォースには魔法学校は有りますか??」
「魔法学校??さぁな…………と言うか、そこは何も無い窪地だ。」
「何も無い??」
「あぁ……だが、その昔その平原には魔法で栄えた『魔導都市フォース』が有ったと言われているが……ある日突然、一夜にして忽然と街ごと消えた…………という、言わば伝説都市の都市伝説だ。」
(『魔法』という特性と『フォース』の名前の一致。そして俺は『フォース魔法学院』から来た少女を確かに見た。)
(何も無い訳が無い。)
(それとも『魔導都市フォース』と『フォース魔法学院』は似ているだけで無関係なのか??)
(いや、そんな偶然…………)
アッシュの中で何かがザワつく。
(魔導都市フォースは本当に存在しないのか?)
(存在するにしろ、しないにしろ確かめたい。)
「キロスさん、俺もフォースに連れて行って下さい!」
「確かに『フォース方面』に行くとは言ったが、『フォースの街』に行くとは言ってないぜ。何も無い場所で商売はできんからな。」
「それでも俺はこの目でフォースの地を見てみたいんです。」
「まぁ、別に構わんが。」
「決まりだな。」
とドウズが場を締める。
その言葉を合図に他の連中は幌を閉めて馬に乗り込む。
アッシュはキロスの荷台に乗せて貰う。
カーン、カーン、カーン………………
それぞれの荷馬車から違う音色の別れと発車の鐘が鳴る。
バギュウッ!!
ナヴィだけは空に向けた銃声だった。




