『アッシュ、かんきんされる。』
翌朝、ドーサを発つ為馬車の預かり場に集合だった。
アッシュは身支度して指定された場所へ向かった。
アッシュが到着した時には既にドウズの行商仲間は集合しており出立の準備を終えていた。
「お早う御座います。皆さんも出発するんですか?」
「そうだな。ドーサでの買い付けも大体終わったしな。」とキロス。
「商売と来魔戦でだいぶ稼がせてもらたしね。」
とワン。
「まぁ、ドーサも暫くは街の復旧期間に入るしな。俺達みたいな外から来た者は邪魔にならないように出て行くのさ。」
ボスが事情を説明する。
「お待たせしました。」
そこへリアカーを引いたドーサ商会の人がやって来た。
「何だ?」
ドウズが問う。
「あ、俺が呼んだんです。」
アッシュはそう言いながらリアカーに被せられた布を剥ぎ取った。
そこには例の巨大ジェム。
アッシュは受け取りにサインをして巨大ジェムをリアカーから降ろした。
「まさか皆さんも居ると思ってなかったのでドウズさんにと思ってたんですが……皆居るなら誰かコレ欲しい方、買い取って頂けませんか?」
とアッシュからまさかの提案。
「実は俺、財布に穴が開いてて持ち金を落としてしまって……だから今、ジェムより現金が欲しいんですよ。で、誰かコレを現金化してくれないかなぁ…と。」
「因みにアッシュ、お前はいくら欲しいんだ?」
ドウズが探りを入れてる。
「ん〜??そうッスねぇ……紙幣で5万、金貨で2万ゴン位有れば…………。」
(※ 1ゴン=1円程度)
(何ぃッ!計7万だと!?安過ぎる!!)
商売人全員の思考が一致する。
その瞬間、商人達の空気が瞬時にピンと張り詰めるのが分かった。
サッ!!
全員がパーにした左手の上に、親指を突き立てた形の右手の拳を乗せた構えを取る。
トン、トン……
と2度、右手でテンポをとった次の瞬間、
各自の右手拳が形を変えた。
初手。
ドウズ パー
キロス チョキ
ワン チョキ
ボス パー
ナヴィ グー
相子。
突如、無言で始まったジャンケン。
その異様な空気感。
アッシュは黙って見守るしかできない。
トン、トン……
第二撃目。
ドウズ グー
キロス パー
ワン パー
ボス グー
ナヴィ パー
ドウズ 「ぐはぁっ!」
ボス 「チィッ!!」
まずは二人敗退。
ジャンケンの輪から抜ける。
トン、トン……
第三撃目。
キロス グー
ワン グー
ナヴィ チョキ
ナヴィ 「しくじった!」
ナヴィ消える。
キロスとワンの一騎討ち!!
トン、トン……
第四撃目、第五撃目、相子!!
トン、トン……
キロス グー
対するワンは………… パー
キロス 「クソッ!!」
ワン 「頂きね。」
急に始まった勝負に決着が着き、アッシュが問う。
「な、何だったんですか今の勝負は?」
「あぁ、今のはな……まぁ、仲間内の決め事みたいなもんさ。話し合いでどうにかなりそうに無い出来事が起こった場合はジャンケンで勝負する。結果に文句は言わない。……早くて、平和的だろ?」
とドウズが解説してくれた。
「て事でアッシュのジェム、ワタシ買うよ。」
と、ワンがアッシュの希望通りの紙幣で5万、金貨で2万ゴンを手渡してジェムを自分の馬車の荷台に積み込む。
アッシュが希望する通貨を用意し、握らせてジェムを積み込むまで、僅か20数秒の出来事。
電光石火とはコレ正に。
流水の如き動き。
アッシュの手にはいつの間にか通貨が握らされ、目の前のジェムが消えた。
…………一体何が起こったのか????
アッシュは手元の通貨を見て思い出す。
「あ、あの……それともう一つ。」
(何だ?まだ何かあるのか??)
と商売人の視線が一気に集まる。
「財布が欲しくて……ですね。誰か取り扱ってないですか??あと、ジェムを入れられるような袋も。」
「財布ぅ?」
ドウズが首を振る。
ワンもボスもナヴィも同様に首を振る。
だが、キロスは
「革製品で良ければ有るぜ?」
そう言いながら、馬車の荷台から幾つかの財布を持ち出して来る。
アッシュはその中から幾つかを手に取り、見比べながら選ぶ。
「一番高い財布と小袋はどれね?」
アッシュが選んでいる最中にワンが割って入る。
「ん?財布はコレで、袋ならコッチだな。……何だ?ワンも財布と小物入れが欲しいのか?」
キロスがドラゴン革の財布とサイクロプス革の巾着袋を指差す。
「2つでいくらね?」
「そうだな、馴染み割りで55万ってとこだな。」
(高ッ!!)
アッシュはあまりの値段にギョッとする。
(お、俺はもっと安いやつを…………)
手持ちの7万で買えそうなものを物色する隣でワンが会計を済ます。
「キロスさん、俺はコレを…………」
と、アッシュは見た目に安そうな財布と小袋をキロスに渡そうとした瞬間、
ワンがそれを取り上げ、代わりに先程の55万セットをアッシュに握らせた。
「ソレ、お前にやるね。」
「え???」
アッシュは呆然とする。
「あんなジェム7万で買い取ったら寝覚めワルいね。55万でもたんまり釣りがくるね。」
「アイツ………ただの我利我利亡者じゃなかったのか。」
ボスが呟く。
「何だぁ?そのガリガリなんとかっつーのは??」
ナヴィが問うが誰からも回答は無い。
ドウズもキロスも、ワンが誰かの為に買い物をしたところなど初めて見たので唖然としている。
「え?イイんスか、こんな高いモノ??」
アッシュも驚きながらワンに再確認する。
「ワタシの気が変わらない内に貰っとくね。」
言い方はぶっきらぼうだったが棘は無かった。
「あ、有り難う御座います!」
とアッシュは丁寧に頭を下げた。
アッシュの実直な態度に当てられたワンは照れ隠しなのか、アッシュに背を向ける。
「また、ジェムの持ち運びに困ったらワタシに連絡すると良いね。」
と、いつもの調子に戻そうと強がり気味に言ったが声が上滑りしていた。
「出たよ、結局コレだぜ。」
「抜け目無ぇ。」
ドウズとキロスはいつも通りの『商売人ワン』に呆れていた。
「やはり我利我利亡者だったか。」
とボス。
「そうだぜ、この小太りガリガリ野郎。」
調子を合わせて言ってはいるがナヴィのコメントはよく分からない。
だが、アッシュにはワンの中に守銭奴とは別の優しさが見えた気がした。




