『それぞれのザウス』
〜 『酒場 バッカサ』店内 〜
「で?ここに来るまでにたまたま全員集まった…と?……一人、二人ならまだしも全員て、有るか?そんな偶然??」
ドウズが座っていたのは一番奥のボックス席。
そこは以前アッシュが隣のテーブル席からドウズ達の会話を『盗み聞き』していた席だ。
「俺は噴水広場でアッシュを見つけたから声かけたんだぜ。」
そう言いながらキロスが奥のドウズの右側の席に座る。
「ワタシは噴水広場で薬売ってたらキロス見つけたから声かけたね。」
ワンがキロスの対面に座る。
「お前は……来魔戦の後にすぐ商売かよ。……まぁ、らしいと言えば、らしいが……。」
とドウズが呆れる。
「来魔戦の後は薬がよく売れるね。コレ、基本ね。」
ワンは平然と言ってのける。
「お前、ジェムには手ぇ出してないだろうな?ジェムの件は明日だからな?」
キロスの厳しい口調。
「当たり前ね。取ってないね。触ってすら無いよ。」
「盗んだのバレたらドーサ出禁になるからな。」
ドウズもキロスに便乗してワンを責める。
「この街出禁なたら収入激減ね。バレたらオシマイね。……というかその言い方だとワタシ既にジェム取ったコトなってるね!ワタシ触ってない言ってるよ。」
「俺は噴水広場を通ってバッカサに行こうとしたらそこの我利我利亡者が目に付いたからな。そんな…………何てゆ〜か……個性的な服装、すぐ目に付くだろ。」
ボスはワンの独特な服装の表現に困りながらキロスの隣に着席する。
「ソイツのどこが『ガリガリ』なんだよ?言うなら『小太り亡者』だぜ。」
ズレたツッコミをしながらナヴィはワンの隣に座る。
「そーゆー『ガリガリ』じゃねぇよ!」
とボスはツッコミはするが、特に『我利我利亡者』の意味は説明しない。
「てか、お前だって人の事言えるのかよ。俺だって噴水広場からバッカサに行こうと思ったら、デカいムキムキのオッサンが居たらめちゃくちゃ目立つぜ?」
とナヴィもボス達と合流できた理由を話す。
「お前のコート程じゃないがな。」
ボスはナヴィの派手なボルドー色のロングコートを指差した。
その様子をアッシュは立ったまま見ていた。
「ん?どうしたアッシュ、座らねぇのか??」
ドウズが空席を指差して言う。
「え?あ、あぁ……、えっと………俺も座っても良いんですか??」
動揺しながら言う。
瞬間、全員の会話が止まり、視線がアッシュに向く。
「………何か座ったらダメな理由が有るのか??」
言ったのはドウズだったが、全員が同じ事を訴える目をしている。
アッシュは表情を緩め、ボスの隣の末席に腰を下ろした。
その姿を確認すると、また全員が喋り出す。
「んでよぉ、俺はさぁ強ぇ奴と戦りたかったのによ、今回は何故か虫型ばっか集まってくる訳よ。」
言いながらキロスは既にテーブルの上に準備された肉料理に手を伸ばす。
「それは、お前の使てる香水のせいじゃないのか?多分その香水、虫のフェロモン入てるね。」
ワンはそこまで言うと樽ジョッキの酒を一気に飲み干した。
アッシュは会話の流れに付いていけない。
(それまでモンスターの話など何もしていなかったのにいきなりキロスの「んでよぉ」から始まった会話。
その「んでよぉ」はどの会話から繋がっていたんだ???)
「それで言うと俺だってサンドワームに一撃入れてやったぜ。……全然、効きゃしなかったケドな。ハハハハ…………。」
ボスは握り飯をがぶりとやる。
(????)
(『それで言うと』……とは??香水の話と全く繋がっていない。)
(ボスは『どれで言った』んだ???)
オッサン達の会話開始早々にアッシュの知らない異次元の会話スピードに圧倒される。
「ほら、アッシュ!勝手に好きなの頼みやがれ。」
一番奥のドウズから順番に手渡しでメニューが送られて来る。
「え、…………えぇ??えっと…………。」
メニューを開いて視界には入っているが、全然頭に入ってこない。
「俺だってな、こうやって……バン、バン!って次から次に飛んで来る鳥型をちぎっては投げ、ちぎっては投げってな!!」
ナヴィはフライドポテトをタバコのように咥えて、銃を撃つ仕草を交えて自らの激闘を熱演する。
「お前の武器、銃ね。『ちぎって』は投げはオカシイね!!」
ワンは言いながらナヴィを狙ってピーナッツを一粒飛ばす。
「細けぇ事は良いんだよ!要は雰囲気だよ、雰囲気!!」
ナヴィはお返しに枝豆の皮を指で弾いてワンに飛ばす。
その間にアッシュはこっそり挙手で店員を呼ぶ。
「すいません、クリームソーダひとつ下さい。」
「かしこまりましたぁ。」
「クリームソーダァァ!!?」
さっきまで好き勝手喋ってた全員がアッシュの方に向いて総ツッコミ。
「え?何が???」
何かマズイ事でも言ったか?という表情のアッシュ。
「いや、何でも無ぇ……好きなモン頼んでくれ。」
ボスが半笑いで言う。
「出たぜ、アッシュのクリームソーダ。コイツ、前の村でクリームソーダ飲みそびれてるんだ。お前ホント、クリームソーダ好きだな。」
ドウズもニヤニヤしながらアッシュのクリームソーダ好きを説明する。
「子供ね。」
ワンがボソッと言う。
「お前だってここに来たらいつも桃饅頭 喰ってるだろうが!?」
ナヴィがアッシュの援護に入る。
「ナニ言うか、桃饅頭は至高ね!」
「あんな甘いの、アレこそ子供の食いモンだぜ。」
ナヴィのフォローも若干ズレている。
「アッシュ!お前のクリームソーダが来たらついでに俺にもクリームソーダ頼んでくれよ。」
キロスは一周回ってクリームソーダに賛同した。
「そういやアッシュよ、お前とシュックハックで別れた後に周辺を探したんだが、盾を見つけられなかったぜ。すまねぇ。」
ドウズは自分の小皿にサラダを取りながら言う。
「あ、あぁ……まぁ、アレは自分で吹き飛ばしてしまったんで気にしないで下さい。」
それからナヴィの眼帯にまつわる話をキッカケに各々(おのおの)ザウスとの思い出話に花を咲かせた。
モンスターの毒にヤラれて左目の視力は失ったがザウスの処置のお陰で命拾いしたナヴィの話。
「あん時ゃ、『妖精がどうの』とか言いながらザウスの不思議な力に助けられてよぉ…………」
「それで言うと、俺は行商中に崖崩れにあって岩に脚挟まれた時にも『妖精がどうの』とか言いながらザウスが巨大な岩を動かした時は驚いたぜ。お陰で俺も片脚の損失だけで助かったぜ。」
とキロスも命拾いエピソードを繰り出す。
アッシュも今回の『それで言うと』には付いて行ける。
そして片脚を『損失』と表現するキロスに商売人味と逞しさを感じた。
「俺が他の町で来魔戦やった時なんかはよぉ、アイツと二人で…………」
ボスのバトル自慢。
「ワタシなんかザウスと一緒に伝説の秘宝を…………」
ワンの宝自慢。
話をしながらも運ばれて来る料理はどんどん減ってゆく。
皆、ザウスが行方不明の事情を知っているハズなのに誰もザウスの無事を疑わない様子で盛り上がる。
そんな雰囲気にアッシュの心は少し軽くなった気がした。




