『一人旅』
空螺旋で戦場離脱したアッシュがペネルタの元へ戻って来てふたつのジェムを見る。
「やったんだな、ペネルタ。」
「そうね、アッシュ。アンタとのコンビネーション……悪くなかったわ。」
はにかんだ笑顔で答える。
リリアが2人の顔を交互に見る。
「あ、あのさ……ペネルタ。」
アッシュが慎重に声をかけた瞬間、リリアの右眉がピクと動く。
「何?」
と視線を逸らして答えるペネルタ。
ゴクリ。
「ペネルタがもし、良ければなんだけど…………」
(良ければ?)
リリアが怪訝な表情をする。
ペネルタはアッシュの話を黙って聞いている。
「俺さ、今…来魔を鎮めながら親父の行方を探す一人旅をしてて…………」
(『一人』旅??)
リリアの表情が険しくなる。
「魔法を使える仲間が居れば、心強いと言うか……、俺と一緒に…………」
(なッ!?)
アッシュの後方で小さなつむじ風。
それ以上言おうものならアッシュを吹き飛ばさんとリリアが睨む。
「ゴメンなさい。私まだ学生で………学校へ行かないと…………だから旅には出られないわ。」
フッとつむじ風が消える。
「学生!?」
「はい。私、フォース魔法学院の生徒なんです。今、期末テスト期間中で。」
そう言ってペネルタは懐から四つ折りにした一枚の紙を取り出した。
ペネルタは紙を広げて、足元のジェムにそっと触れさせる。
「30点か。」
ペネルタが呟く。
アッシュの理解が追いつかない。
「30点…………とは??」
「魔法学校では1週間のテスト期間中に各地に出向いて自分でモンスターを探して倒すの。300点中、倒したモンスターの合計点が250点以上になれば合格よ。で、これがテスト用紙。」
そう言って、ペネルタはアッシュと肩が接する程に近寄って先程の紙を見せた。
リリアの目付きが鋭くなる。
紙の上部には
『サンドウィッチマン(35点) マイナス5点 計30点 総合点252点』
と書いてある。
残りのスペースには倒してきたモンスター名と点数の履歴が並んでいた。
アッシュ、驚愕の事実。
(てか、どういう基準かは知らんが、あのモンスターが35点!?)
(俺の中では80点くらいはあったぞ…………)
アッシュがテスト用紙を指差す。
「このマイナス5点てのは?」
「それは、アッシュに手伝って貰ったから。」
「あ、そ、それは…………何か、ゴメン。」
「大丈夫。手伝って貰う事自体は違反じゃないし、それに私ひとりでは倒せなかったわ。逆に助かった位よ。」
そう言ってペネルタはアッシュに「ふふふっ」と微笑んだ。
(どちらかと言えば、マジで『命』が助かったのは俺なんだけど…………)
とアッシュは心の中で思いながら「ハハハ…」と苦笑いした。
「ふふふっ」 「ハハハ…」そんなやり取りを見ながらリリアは腕組みをして溜め息をついた。
「252点て事は、テスト…合格したんだね。」
「そうね。合格ラインは超えたけど、まだ少し時間が残ってるから300点満点を目指すわ。」
「そっか……、頑張って。」
アッシュが手を差し出す。
ペネルタも手を伸ばし、握手を交わした。
「ありがと。」
少し照れくさそうに呟いた。
「おーーーーーいッ!!」
2号門から女性の呼び声が聞こえる。
見ると、ペネルタと同じデザインのローブを着た男女数人がこちらに手を振っている。
きっとこの来魔戦に点数を稼ぎに来てドーサの各所で闘ってた生徒達だろう。
「あ!……クラスメイトが迎えに来たわ。じゃ、私行くね。」
とペネルタはペコリと頭を下げる。
ペネルタは2号門へ小走りで向かう途中、ニ度振り向いてその度にペコリ、ペコリとお辞儀をしながらクラスメイトの元へ去って行った。
アッシュは姿が見えなくなるまで手を振って見送った。
「知らなかったわ。アンタ、『一人』旅だったのね。」
手を振るアッシュの耳元でリリアが呟く。
ギクゥ!!!!!
アッシュは手を挙げたポーズのまま固まった。
ギギギ…………
と首の骨が錆びた鉄が擦れるような音を立てながら震える顔を声のした方向へ向けるアッシュ。
眼前に腕組みをしながら仁王『飛び』で空中静止している風の妖精。
(か……完全に不機嫌だ。)
いくら鈍感気味なアッシュでも分かる。
「あ…あれはその……妖精は含んで無いってゆ〜か、『人間』としての一人旅ってゆ〜か…………」
「へぇ……。で?魔法を使える仲間が居れば『心強い』……と。私の妖力ではご不満……と?」
「あの!ほら!!その…………妖力と魔法はまた別ってゆ〜か、妖力には妖力の良いところ、魔法には魔法の…………」
アッシュは身振り手振りを交えながら必死で誤解を解こうとする。
「どうせ私からは氷も火も出ませんよ〜だ。」
頬を膨らませてそっぽ向く。
「違うよ、そーゆー事じゃなくて。…………ほら、リリア以外はさ、その…『仲間』ってゆ〜か…………」
「私以外は仲間ぁ?じゃあ、私は何だって言うのよッ!!」
語気を強める。
「パートナー。リリアは俺の一部………みたいな。」
真顔で言ってのける。
「パッッ!パートッ!!?」
リリアはそっぽ向いたまま頬が赤らむのが自分でも分かった。
膨らませた頬がしぼんだ。
「俺の言い方が良くなかったよな?……だから、ゴメンな?…………ほら、だってさ、ペネルタにはリリアが見えてないから。一人しか居ないのに、『二人』旅してて……とか言うとややこしくなるだろ??」
アッシュは素直に謝って、弁明しながらリリアの反応を窺う。
「しっ、知らないわよもうッ!!」
怒ったような雰囲気ではあるが、語気は柔らかくなっている。
(付け足しの『ややこしく』どうのみたいな説明さえ無ければ…………)
(コイツ………あと一歩、惜しいのよねぇ。)
そんな事を思いながら、リリアはアッシュの肩に座った。
アッシュはそれを和解と受け止め、安心して表情を緩めた。




