『眠れる獅子』
「行けぇぇ、怯むなぁッッ!かかれぇッ!!」
「うぉぉぉ…………ッッ!」
ギャリンッ…キンッ…………カン、キンッ…………
「救護班、こっちもお願いします!!」
「もう大丈夫よ。いい?乗せるわよ、1、2…さんッ。……さぁ、行って!…………次は!?」
街のあちこちで交戦が繰り広げられる。
果敢に攻める者、
負傷し、倒れる者、
水道から回復薬を飲み再び立ち上がる者、
倒れた者を救護する者、
毒により動けぬ者、
……………そして、………動かぬ者。
ワァァァァ……………………
ドォォン………ドォォン……………
………………………………………………………………
………………………………
…………
…
街の喧騒、人々が闘っている声や砲撃音が遠くで微かに聞こえる。
ここは、宿屋『シュック・ハック』の8階。
『808号室』
ドウズはアッシュの寝室と部屋の入口の中間位の場所に椅子を置き、じっとドアの方を向いて外の気配を察しながら座っていた。
(来るならここからか……?)
(モンスター相手に耐えるかどうかは分からんが、鍵はロックした。)
(多少の時間稼ぎくらいには…………)
カチ、コチ、カチ、コチ……………………
壁掛けの時計が時を刻む音が耳に届く。
(今まで意識していなかったのに一度気になり出すと気になるな……………………)
室内は静寂ではあるが、
外の戦闘音が僅かながらドウズの鼓膜を揺らす。
ドォォン……ンン……ン………
…………パラパラ…………
この建物に何か衝突したのか、
鈍い音と共に微かに揺れて天井から埃が降ってくる。
カチ、コチ、カチ、コチ……………………
カチ、コチ、カチ…………
バリガシャァァーーーーンッッ!!
突然のガラスの割れる音が時計の音をドウズの意識の外へと追い出した。
(何だ!?)
ドウズは慌てて椅子から立ち上がり、アッシュの寝室へと駆け付ける。
そこにはガラス窓を突き破り上半身を室内へと侵入させる『ワイバーン』の姿。
「ギシァァァァッッ…………!」
上部の牙から唾液が垂れているのが見える。
側にはアッシュの眠るベッド。
〜〜 『サンド ワイバーン』 〜〜
砂漠一帯を住処とするドラゴンのような見た目のモンスター。
ドラゴンとは似て非なるもの。
後ろ脚での二足歩行。
前脚は翼と一体化している。
尻尾の先端に毒針が付いている。
ドラゴンより好戦的だがドラゴン程の知性は無い。
世間からの認識は『(ドラゴン)じゃない方』
ドウズは反射的に腰のナイフを装備した。
(そりゃそうか、モンスター相手に玄関は関係ないわな……。何で俺は入口のドアからしか来ないと思ったんだ??)と内心で自虐的に半笑いした。
ガリガリガリガリ…………
ビリビリビリ……………………
ワイバーンは外壁を後ろ脚の爪で削り、前脚の爪で絨毯を引き裂きながら全身を部屋へ入れようとしている。
(チッ、サンドビューが楽しめる良い部屋にしたせいで大きな窓が逆に災いしたな。)
(ワイバーンが入ってこれるじゃねぇかよ。)
(次に借りるなら窓の小さい部屋にするか。)
ズイッ…………
ワイバーンの半身以上が部屋へ侵入して来る。
ドウズはナイフを構えたまま策を考える。
(こんな安物ナイフで何が出来る?)
(ワンチャン目なら効くか!?)
ドウズはワイバーンがまだジタバタしている間に眼球を狙いに行く。
ガチィ…………ガチィン!!
ドウズが近づこうとするとワイバーンも噛み付きで応戦する。
(クソ!顔がデカい分、目までが遠い…………)
ドウズも右に左に噛み付きを躱しながらチャンスを伺う。
ズルッッ…………
ワイバーンは後ろ脚を滑らせ一瞬態勢を崩す。
(チャンス!!)
ドウズは壁際に設置してあった物置棚を踏み台にジャンプしてワイバーンの目を狙う。
「貰った!!」
パキィィン!
ドウズのナイフが折れる。
「クッ……そりゃそうだ。俺だって目ぇ狙われりゃ瞬きするぜ。」
(いくら『じゃない方』とは言え、瞼でも安物ナイフよりは硬ぇってか。)
(何か……玄関からしか来ねぇとか、生き物なら反射で瞬きするって発想が抜けてるとか。)
(…………自分の思い込みに追い詰められるぜ。)
ドウズは折れたナイフの柄だけ握ったままワイバーンの顔面から飛び降りる。
(……どうする、武器を失った。)
ズズイ…………
またしてもワイバーンが部屋へと這い上がって来る。
ガシャン!!!
ワイバーンが這いずった振動で壁に立て掛けてあった…(そうだぜ、それが有った!!)
ドウズはすかさず床へ倒れたアッシュのドラゴンキラーを手にする。
「…………ぐ。」
(重てぇ……何て重量してやがる。)
(アッシュ、お前はいつもこんなモンで闘ってんのかよ。)
ドウズはチラとアッシュを見た。
そこにはまだ成長過程で身体が仕上がり切っていない青年が眠っている。
ドウズは何とかドラゴンキラーを正面に構えた。
(チィッ、重くて振れやしねぇ。)
(構えるだけで精一杯とは情け無ぇ。)
ドドン……ガタガタ…………
ズリズリ…………ズズズイ…………
ワイバーンは無理矢理腕力と脚力で室内へと全身を侵入させて来た。
「ギシャアアアァァァアア…………!!」
ワイバーンの咆哮が部屋に満ちる。
よく見るとワイバーンの左後ろ脚が無い。
(それで侵入に手こずっていたのか……。)
(コイツ、この部屋狙って来た訳じゃない。)
(爆杭砲で撃ち落とされて…………)
(片脚を失いバランスを崩している!)
(押せば落ちるか!?)
ドウズはドラゴンキラーを構えたまま突進してワイバーンの顔面を突く。
ギャリッッ…………
ドラゴンキラーがワイバーンの皮膚を傷付ける。
「ゴルルル…………」
ワイバーンは身じろいて後退した。
(イケる!)
好機と見たドウズは少し後退してから再度ドラゴンキラーで突撃する。
ガギィィィ!!
突っ込んで来たドラゴンキラーをワイバーンは口で受け止めた。
「クッソ!放しやがれッ!!」
ワイバーンの口に咥えられ、『文字通り』の抜き差しならない状態に。
ギリリリリ…………
ワイバーンの牙とドラゴンキラーの接触面が軋みをあげる。
「マズイぜ…………。」
(このまま押し切られたら壁で潰される。)
(かと言って仮に俺が押し勝っても、このままじゃドラゴンキラーを持ってかれる。)
(だが、人間とワイバーンではパワー比べの結果は見えている…………。)
「ぐぅぅ…………口を!開けや……がれッ!!」
その時だった。
ドウズの握るドラゴンキラーがふと軽くなる。
手元を見る。
もう一人、横から誰かがドラゴンキラーを握っていた。
ドウズの耳元で聞き覚えのある声。
「リリア、空螺旋でいく。」
「くぅ……ら、、、せぇぇぇぇぇぇんんんッッ!!!」
バギバギバギバギ……メリメリ…………ブチブチブヂィッッ……………………
ドゥォォオオォオォオオオォォォバウゥッッ!!!
ドラゴンキラーを咥えたままのワイバーンは体内からマトモに空螺旋を喰らう。
頭蓋骨が砕け散る音、
皮膚が破れる音、
筋肉が引き千切れる音を同時に発しながらワイバーンはアッシュの寝室の半分と共に吹き飛んだ。
ドウズはそのままドラゴンキラーから手を離し、アッシュを見る。
「お、お前……いつから起きて…………」
「そりゃあんなウルセェ咆哮聞いたら起きるだろ。」
ドンッ。
アッシュはドラゴンキラーを床に突き立ててドウズに問う。
「で?どういう事か説明してくれるか?」
「あ、あぁ……、そうだな。」
「実は今、ドーサにはモンスターが襲来して来てて……来魔戦の最中だ。
「……で、」
「ちょっと待て、『来魔戦』?何の話だ。」
「俺が聞いてるのはドウズさん、アンタにハメられて妙な黒い館に連れ込まれた件だ。あの後の記憶が無い。俺に何をしたんだ。」
………………………………
…………
……
…
(こ、コイツ、俺にハメられたと思ってたのか。)
「わ、分かった。お前がどこで勘違いしたのかは分からんが、最初から説明してやろう。」
その後アッシュはマッサージの件と来魔戦の件の説明を受けた。




