『あの日の車椅子』
アッシュは車椅子のまま『ウワバ〜ミヤン』で待つドウズの元へと届けられる。
「有り難う、後は私が預かる。車椅子は後で店まで届けるよ。」
と、ドウズは受け渡し完了の書類にサインをしながら言う。
「良く眠っておられますので自然にお目覚めになるまでは安静にお願い致します。」
とボンデージ姿の女性は軽く術後アドバイスをする。
「分かった。」
「では、私はこれで失礼致します。」
と軽く頭を下げる。
「良ければそちらの殿方達も当店のサービス、如何でしょうか?全身マッサージは勿論…………(小声で)特殊な趣味をお持ちの方も大歓迎ですわよ♡」
とウインクしながらの営業トークも忘れない。
「行ってはみたいんだけどな……ちと値段が……ハハ、俺は暫くは行き付けの財布に優しい店にしとくわ。」
と義足の男。
「何時でもお待ちしておりますわ。では、ご利用有り難う御座いました。」
ボンデージ姿の女性はドウズ達一同に投げキスをしてから再度リリアにチラリと視線を送って軽く微笑んでから店へと戻って行った。
「さぁ、俺はアッシュをホテルの部屋まで送り届けるからここで抜けるが……お前達はまだ飲んでくんだろ?」
とドウズは自分が飲み食いした分よりも多めにお金を置いて、アッシュの車椅子を押しながら店を出る。
リリアもドウズの頭上後方を付いて飛ぶ。
そのすぐ後を追って眼帯の男も
「アイツ見てたら俺も何だかマッサージに行きたくなったから俺もここで抜けるゼ。」
とドウズと同じ金額を置いて店を出て布の面積が少ない衣装を着ている女性や、筋骨隆々ボディの男性が店頭で客引きをしている方面のエリアに消えて行った。
ドウズは車椅子を押しながら昔の事を思い出していた。
(そういや親父が死ぬ少し前にもこうやって体の弱った親父を乗せた車椅子を押して散歩した事があったっけな………………)
(親父は自分の人型ロボットの研究の話ばかりしていたな…………)
(動力がどうとか、エネルギー効率がどうとか、回路がどうとか…………)
(人の代わりに働くやら、作業の効率性が何やら…………)
(結局俺には何の事だか分からずに適当に返事してしまってたな…………まぁ、人の役に立つ研究って事位は理解出来てはいたが………)
(もしかしたら俺に研究を継いで欲しかったのかも知れないな……………)
(俺は部屋で研究より世界を見て周りたかったから行商人になっちまったが…………)
(親の後を継ぐってのはよ、どんな気持ちなんだ?)
「なぁ、アッシュ……………………」
ドウズはアッシュにでは無く自分に問うたかのように独り言を呟いて空を見上げ、
リリアもそれにつられる様に空を見る。
そこには圧倒的な光の密度の星空と、星々を優しく抱くように湾曲した光の器のような三日月が静寂の闇に佇んでいた。




