『眠れる四肢(しし)』
ドウズ達の仕事の話が始まってから暫く経つが…………
本当に行商の話ばかりでアッシュ救出の手掛かりになりそうな話が出てこないので、痺れを切らしたリリアは再度アッシュが囚われた洋館へと様子を見に行く事にした。
ただ、リリアが洋館へと戻って来たところで風の力を使おうとすれば妖力は建物に吸収され、
近付こうにも妖精避けの結界が張ってあり潜入する事も出来ない状態だ。
リリアが洋館の様子を観察していると気付いた事が有る。
何故かこの洋館には自然と普通に入っていくタイプと、周囲を気にしながらコソコソと入って行くタイプの人間がおり、自らの足で歩いて出て来るタイプと車椅子に乗せれてグッタリした感じで出て来るタイプの人間が居る事だ。
それが何を意味するのかリリアには理解が及ばなかったが……ただ一つリリアが希望を持てたのは、『アッシュもこの洋館から出て来る可能性が有る』という事だ。
リリアはただ…………アッシュが車椅子の状態で出て来ない事を願うしかなかった。
何の進展も無い時間が過ぎる。
リリアはただ空から洋館の入口の扉を祈りながら観察するしか無かった。
リリアの下では至る所にお店の明かりが灯り、人間達がガヤガヤと往来している。
リリアの上空では視界一面の闇に死神の爪の様な細く尖った三日月とウマク砂漠の砂をそのまま転写したかのような数の星が広がっていた。
洋館の扉が何度目か内側から開いた時、
リリアは頭の片隅に『アッシュが出て来ない可能性』を残しつつもアッシュである事を祈りながら注意深く観察する。
中から出て来たのはボンデージ姿の女性に押された車椅子だった。
そこにはグッタリと力なく座らされた人物。
頭部には白い布を掛けられて誰だかよく分からなかったが、車椅子の背もたれ部分から黒いマントが揺れているのが見えた。
リリアの見覚えのあるマント。
(アッシュ!!!)
リリアは直ぐ様その車椅子の元へと飛んで行き、下から覗き込むようにその人物の顔を確認する。
(…………やはりアッシュだ。)
「アッシュ、アッシュ!!」とリリアが声をかけるが反応が無い。
リリアは直ぐ様未熟ながらも治癒の妖力でアッシュを回復しようとする。
「アナタ、この坊や憑きの妖精さん?」
妙な艶っぽさの有る声で問われる。
急に話かけられてリリアはハッとする。
(この女には私の姿が見えている!)
リリアがボンデージ姿の女性に視線をやると、ハッキリと目が合った。
リリアは一瞬たじろぐ。
「アナタが心配する気持ちも良く分かるけれど、回復魔法をかけるのは待ってもらえるかしら?」
「アナタ、アッシュに何をしたの!?」
少し強めにリリアが問い掛ける。
「私はただこの坊やにマッサージを施術しただけよ。まぁ、ただ魔力を練り込んだ特殊なマッサージではあるけれど…………。」
「マッサージしただけ??じゃあ何故アッシュはこんな状態なのよ!?」
「少し強めの魔力とマッサージの気持ち良さで眠っているだけよ。今は体内細胞の復帰中だから回復魔法をかけるとオーバーヒールになって逆効果なの。だから自然と目が覚めるまで待ってあげてね。」
眠っているだけと聞いてリリアは安心した表情を見せる。
「ところでアナタ、私が見えているの?」
「そうね。私は……と言うかあのお店の人達は全員妖精が見えるわよ。純粋に妖精の存在を信じているから。」
「信じる??でも、あの建物には妖精避けの結界が張ってあったわ?妖精を拒絶しているように感じたけど??」
「あぁ、あれは単にお店のサービスの一環よ。1人のお客様に集中して施術するってゆ〜ね。だから妖精さんも立ち入り禁止になってるって訳。」
ボンデージの女性はリリアにウインクしながら言う。
「さぁ、私は今からこの坊やを依頼主に届けに行くけど…………一緒に来るかしら??」
と不思議な色気を含む視線でリリアに問い掛ける。
リリアはその視線にドキッとしながら素直に答える。
「行くわょ…………。」




