『人が◯ミの様だ。』
「オイ、アッシュ起きろ。着いたぞ。」
「ん?あ、あぁ…………………………ここは?」
アッシュはいつの間にか荷台で眠っていた様だ。
「ここが砂漠の街ドーサだ。」
(そう言えば外が賑やかな感じがする。吸い込む空気にも数種類の香辛料の匂いが混ざっている。)
…………………………ッ!!?
「ドウズさん、奴は!?」
「奴?あ、あぁ…………、いや知らんぜ。奴を乗せてから荷台を見たのは今が初めてだからな。」
「俺が眠っている間に飛び降りた………………か。」
「アッシュよ、俺ぁちとこの馬車を預けてくっから一度降りてくれ。」
「あぁ、分かった。」
「んで、街に入ったら俺の行き付けの『シュック・ハック』て宿が有るから探してくれ。そこいらに看板が出てるからそんなに四苦八苦しなくても十中八九見つかると思うぜ。受け付けで俺の名を言やぁ割安で部屋を用意してくれるハズだ。」
「了解。シュック・ハックだな。」
アッシュは宿の名前を再度自分に確認し、一旦ドウズと別れた。
〜〜 『砂漠の街 ドーサ』 〜〜
ウマク砂漠中心部に位置する最大のオアシスに自然と人が集まり発展し、全周を高いブロック塀に囲われた街である。
行商の要の場所である事から、様々な文化が混在し多種多様な民族が生活している。
アッシュはアーチ状に組まれた巨大なブロックの門をくぐりドーサへと足を踏み入れた。
むせかえる様な様々な香辛料の混ざった匂い。
行き交う様々な種族の人達。
至る所での行商人や露店商の賑わい。
そこに並ぶ、色とりどりの色彩や模様の商品。
初めて聞く音やリズムの音楽。
アッシュには目に映る光景、聞こえる音の全てが初めてだった。
「す…………凄ぇな。」
アッシュの口からは自然とそんな言葉が漏れた。
ほんの束の間街の光景をボーっと眺めていたアッシュがふと我に帰る。
「おっと、ドウズさんの言ってた宿、探さないとな。」
目的地を探す為街の雑踏の中へと進もうとしたアッシュは戸惑った。
(は…………入れない。)
行き交う人々に阻まれ、足を踏み入れる事が出来ない。
が、進まない事には目的地へもたどり着けない。
アッシュは無理やり人混みへと割って入った。
ドンッ!
「どこ見て歩いてんだ!」
向かいから来た屈強な男と肩がぶつかる。
「す、すいませ…………」
後ろに下がりながら反射的にアッシュの口からそんな言葉が突いて出た瞬間。
ドンッ!!
「あらら、まぁまぁ、気を付けておくれよ。」
今度はアッシュの背中に大風呂敷を背負った老婆がぶつかり転倒した。
「ご、ゴメンお婆ちゃん。」
アッシュは老人に手を差しのべる。
「まぁ、この人混みじゃ仕様がないわね。」
老人はアッシュの手に掴まり、起き上がりながら言った。
(アンタ、何やってんのよ。)
耳元でリリアが呟く。
「んな事言ってもこの人混みじゃ、身動きが………………。」
それでもアッシュは何とか人の群れをかき分けて街を散策する。
道中『シュック・ハック』の案内看板は見つけたものの、案内通りに進めているのかさえ分からなくなってきた。
足は何度も踏まれ、顔には肘鉄を喰らい、マントには何かの食べ物の汁をこぼされる始末。
アッシュはへろへろになり、宿に着く前に一休みする事にした。
ちょうど街の中央には幅の広い大階段が街の下層から上層までを一直線に繋ぐ形で設置されてる為、アッシュはその大階段の中腹辺りの端っこに座る事にした。
「この階段ならまだ何とか人が少ないから落ち着けるぜ。」
そう言ってアッシュはゆっくりと腰を下ろす。
アッシュはなんの気無しに眼下の街の様子を眺めていた。
やはり一番に人の多さが目に付く。
まるで人が海の様だ。
そして皆が活き活きしていて、街全体が活気に溢れている。
「明るい街だな。」
アッシュがポソリとそんな事を呟く。
アッシュは暫く行き交う人々を眺めている内にある事に気付いた。
行き交う人々の中には、急ぎ足の人も居る。
ゆっくり歩いている人も居る。
大きな荷物を背負った人や、本を読みながら歩いている人も居る。
走っている人だって居る。
……………………が、
誰もぶつかったり、転んだりしている人が居ない。
勿論、全く居ない訳ではない。
人とぶつかって頭を下げている人。
人の流れに乗れず、オロオロしている人。
初めてこのドーサに来たアッシュにでも分かる。
この街に住み慣れている人とそうでない人が。
(自身が渦中に居ると分からなかった事が、外から見ると見えてくるものがある。)
階段から街を見下ろしながらそんな事を思うアッシュ。
そして、そのアッシュの座っている階段の更に上の段からアッシュを見下ろす男が一人。
「そう。だから見分け易く、仕事がやり易い。」




