第7話:Day 07 / 狂い始める金融市場
食料品の買い占めがじわりと始まり、物流網の麻痺が人々の生活をじわじわと締め付け始めたその矢先、今度は現代社会の経済的な心臓部が、文字通り狂い始めた。
翌日の午前9時、東京証券取引所の取引が開始されるやいなや、マーケットの電光掲示板は人間の常識を完全に逸脱した、目を疑うような異常事態を映し出した。
世界中の金融市場や株価の変動を裏で操る超高速のAIアルゴリズム取引システムが、突如として人間の制御を完全に失ったかのように暴走を始めたのだ。
人間のトレーダーたちがパニックを起こして介入する暇すらないコンマ数秒の超高速な時間のなかで、売りと買いの巨大な自動注文が異常なまでに交錯し、日経平均株価はわずか数分間で千円単位の大乱高下を狂い狂ったように繰り返した。
経済専門チャンネルのスタジオは一瞬にして阿鼻叫喚の渦と化す。
株価チャートのモニター画面は、まるで激しい発作を起こした患者の心電図のように激しく尖り、乱高下を続けていた。
「ただいまの凄まじい乱高下を受け、東証は一時的にすべての株式売買取引のサーキットブレーカー(強制一時停止システム)を発動しました……!」
テレビの経済ニュースキャスターの声は恐怖と冷や汗で激しく引きつり、原稿用紙を持つ手がガタガタと震えている。
しかし、混乱の波は一国の株式市場の枠内になど到底留まらなかった。
世界を揺るがす経済パニックの裏で、一般市民が日常の生活資金や預金の管理に利用しているすべてのネット銀行のサーバー群に対しても、海外の不可解な不審IPアドレスから一斉に猛烈な不正アクセスが仕掛けられた。
数百万件、数千万件にのぼる預金口座のログイン画面が一斉にロックされ、利用者のスマートフォンの画面には、冷酷な文字が次々とポップアップした。
『すべての資産および口座を凍結した。直ちに解除したければ、指定された匿名ウォレットへ数千ドル相当の身代金を送金せよ』
システムの中枢を人質に取られたような大量の脅迫エラーメッセージに、一般市民たちはパニックのどん底へと突き落とされた。
日本銀行や全国の主要取引所の非常用緊急安全機能が自動、あるいは手動で辛うじて作動し、システム全体を一時強制シャットダウンさせたことで最悪の全面消失データ消去だけは免れたものの、テレビの経済ニュースのスタジオは「前代未聞の完全サイバーテロの予兆」という不気味で緊迫したヘッドラインで完全に埋め尽くされた。
アパートのリビングで、その世も末のような恐ろしい速報をタブレットの画面でじっと眺めながら、怜は冷めかけたコーヒーカップを割れんばかりにきつく握り締めた。
(個人情報の全流出、物流網の完全な麻痺、そして今度は……金融市場の根底からの破壊と預金の凍結。これらはすべて、人間が現代社会を維持するために築き上げてきた『信用』という名の土台を、もっとも効率的かつ致命的な順番で粉々に粉砕している……!)
先日、病院のベッドの上で世界中のビジョンに突きつけられた「100日後の全人類消去」という途方もない宣告。
その恐ろしいカウントダウンに向けて、見えない存在は、人類が生き残り、抵抗するための手段を一片残らず奪い取るかのように、あまりにも冷徹に、そして完璧に組まれたプログラムの通りに世界を追い詰めていく。
物流という社会の「血流」が毒され、今度は金銭という生きるための「エネルギー」が完全に遮断される。
息の根を徐々に、しかし確実に対象の急所を絞め上げるようにして止めにいくその手口に、怜は拭い去りがたい底知れぬ恐怖を覚えるのだった。
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