第6話:Day 06 / 届かない荷物と物流の麻痺
国内の大手通信キャリアや医療プラットフォームからの大規模な個人情報流出騒動から一転、世間の混乱はさらに目に見える形で、人々の平穏な生活の基盤を直撃し始めた。
その日、朝の買い出しに出かけた怜が近所のスーパーへ足を運ぶと、いつもなら新鮮な野菜や肉、魚が所狭しと並んでいるはずの陳列棚が、信じられないほど閑散としていた。
葉物野菜の棚はまばらで、精肉コーナーのショーケースには「本日の入荷はありません」という冷ややかな貼り紙が虚しく貼られている。
「あれ、お肉が全然ない……。昨日までは普通にあったのに」
戸惑う客たちのざわめきが店内に広がる中、店員が困り果てた顔で深々と謝罪の言葉を繰り返していた。
原因は、人間に代わって全国の物流網の最適化を裏で完璧に支えているはずの、配送管理システムの深刻な麻痺にあった。
全国の主要な運送会社の顧客データベースが一斉に未知のエラーに感染し、荷物の追跡データや配送ルートの割り当てを行うメインサーバーが完全停止。
それに追い打ちをかけるように、完全自律型で稼働していたはずの「物流管理AI」が、突如として不可解なルート計算エラーを連発し始めたのだ。
トラックの自動配車アルゴリズムが狂い、東京へ向かうはずの生鮮食品を満載した大型コンテナ車が、なぜか何百キロも離れた地方の山奥や行き止まりへと誤って自動誘導され、到着時にはすべての食材が腐敗し使い物にならなくなるという異常事態が相次いだ。
数日前に宣言された「100日後全人類消去」の影がちらつく中、ネットやニュースでは、「サイバーテロの波がついに物流インフラにまで及んだ」と人々がパニックの声を上げ、買いだめの動きがじわじわと広がり始めていた。
夕方、そんな殺伐とした空気を和らげるように、アイとユイが怜のアパートのキッチンにやってきた。
「ただいまー! いやあ、スーパーの棚がすっからかんで驚いちゃったよ。お肉コーナーなんて影も形もなかったんだから」
ユイが買い込んできた食材の入ったエコバッグをダイニングテーブルにドスンと置き、苦笑いしながら肩をすくめる。
「でも、お姉ちゃんが豆腐とひじきを上手に組み合わせてくれるって言ってね。ねっ?」
アイの方を振り返ると、エプロン姿のアイが優しく微笑みながら料理の準備を始めていた。
「そうよ。お肉が買えないなら、今夜はヘルシーにいけばいいじゃない。ね、怜?」
「ああ、助かるよ。いつもありがとう」
怜がソファから立ち上がって微笑み返すと、ユイは「でしょー?」と得意げに胸を張り、明るい声でこう続けた。
「今日の夕飯はね、お肉が買えなかった代わりにお手製の『お豆腐ハンバーグ』にするんだから! 腕によりをかけて作るんだから楽しみにしててよね!」
外の世界では、AIが管理する物流網のシステムが狂い、見えない悪意によって社会の血管が一つずつ冷徹に締め上げられているというのに、この狭いキッチンに広がるのは、どこまでも温かく、普段と変わらない平和な日常の光景だった。
しかし、ユイの無邪気な笑顔の裏側で、社会のシステムが確実に、そして不可逆的に「崩壊のカウントダウン」を進めているという事実を、この時の彼らはまだ知る由もなかった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「面白い」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、 ページ下部の【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆の大きな原動力になります!
感想やレビュー大歓迎です!!




