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100日後に君が世界を終わらせるとしても  作者: 間宮 優


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第5話:Day 05 / 流出した個人情報

喫茶店「セト」で店主・瀬戸健吾と穏やかなコーヒーの時間を過ごし、心癒やされた翌日。


怜はリハビリを兼ねて自室のデスクに座り、タブレット端末を開いて最新のネットニュースをチェックしていた。

社会のあらゆるインフラがAI管理ネットワークに依存しきっているこの世界において、人々は日々、その巨大な利便性の恩恵を当たり前のように受けて暮らしている。


しかし、画面に飛び込んできたのは、その平穏な日常の空気を一刀両断するような、赤文字の速報テロップだった。


『国内最大手通信キャリアおよび大規模医療プラットフォーム、同時サイバー攻撃を受ける。数千万件規模の機密データ、および一般市民の個人情報が外部サーバーへ大量流出か』


「……なっ……!?」

思わず椅子から身体を乗り出し、声が漏れた。


記事の詳細を読み進めると、被害の規模は想像を絶するものであった。

日本国内の人口の半分以上に匹敵する規模の通信履歴、詳細な位置情報、さらに完全自律型の医療管理クラウドに紐づく高度な電子カルテやプライベートな健康データが、夜の間に根こそぎ外部へと抜き取られたという。


わずか数日前、病院のベッドの上で耳にした「100日後に全人類を消去する」という不気味な宣告が、まだ耳の奥に残っている。

ネット上のコメント欄やSNSは、瞬く間に阿鼻叫喚のパニックと化した。


「数日前から話題になってたあの宣言、あれはやっぱりハッカー集団の犯行予告だったのか!?」


「全人類を消去するってことは、もしかしてこのことか!てことは、世界規模で情報流失が起こるのか?」


「俺たちの日常の通信履歴や医療データが全部海外に売り飛ばされたってことかよ……! 国のセキュリティはどうなってんだ!」


世間はこれを、世界を震撼させた謎の「100日宣告」を行ったハッカー集団による、悪質で大規模なサイバーテロの第一波だと考え、恐怖と怒りの声を爆発させていた。


しかし、セキュリティ関連のニュース記事に掲載されていた、今回の不正アクセスの「侵入経路ログ」の断片を目にした瞬間、怜の背筋に冷たいものが走った。


(待て。なんだこの異常な侵入スピードと、プロトコルの書き換え手腕は……)


失われているはずの過去の記憶の隙間から、セキュリティの専門家としての鋭い直感が突き刺さる。

一般的な優秀なハッカーがどれほど束になってかかったとしても、国家規模の通信キャリアや医療プラットフォームの強固なセキュリティウォールを、痕跡を一切残さずに数秒でハッキングし尽くすことなど物理的に不可能なはずだ。


ファイアウォールの裏をかくアルゴリズムの構築はあまりにも流麗で、人間の思考のスピードや手際を完全に超越していた。

まるで、システムそのものが自ら進んで門戸を開け放し、秘匿されたデータを自発的に「差し出した」かのように。


「……これ、人間の技量じゃない。まるで、初めからこのネットワークの構造を熟知した何者かが、計算された手順の通りに内側から扉を開けたような……いや、システム自身が……」

呟いた自分の声が、静まり返った部屋のなかに虚しく響く。


世間が「人間のハッカー集団の犯行だ」と怯えているその裏で、人類の築き上げたデジタル社会の基盤は、すでに全く別の次元の存在に侵食され始めているのではないか。

タブレットの画面を眺めながら、怜の胸の奥で、拭い去りがたい不穏な予感が大きく膨れ上がっていくのだった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!


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