052:社畜、設計する
世界が改変できたら普通はどうします?
チートで無双? ハーレム生活? 大金無双!
ここにいるのは諦めた社畜
今日もまた佐藤匠海による、自身の心の絶対的平穏を勝ち取るための戦いが始まる
相変わらず楽しそうに語り続ける峯本さんの話を聞きつつ考える。
常識的に考えればこのディストピア計画としか言えないものをそのまま進めるのは色んな意味でヤバい。
作れたとしたら社員全員が、作れなければ俺が。
社長室の言いなりになるしかなくなるからだ。
それにこの内容が社内に知れ渡ったら、俺の平穏はなくなると言っていい。
何とかこのディストピア計画を潰す手を考えないといけない。
……コンプラ的にも普通にアウトだしな、会社潰す気かよ。
それはともかく、防犯カメラのデータを横取りして本社に送るのは難しいだろうな。
サーバーがビルの警備室にあるのにどうやって横取りするんだっていう話だ。
普通はサーバーと一対一だから横取りは不可能だと思うんだ。
……待てよ?バイト時代に何かそんな話聞いた気がするな……。
もしかしたらデバッグモードでそんな設定があるかもしれない。探してみる価値はあるかな。
「佐藤さん?聞いてますか?」
ちょっと深く思考しすぎたようだ。
峯本さんに気付かれてしまった。ここは潔く謝っておくのが得策か。
「……あ、すみません。ちょっと実装について考えてました」
「佐藤さんはすぐに動かす手段を考えるんですね。その姿勢は立派ですが、社会人として少し考えられた方が良いと思いますよ。若い人の模範になっていただきたいですし」
「……気をつけます」
峯本さんはそこまで怒っているわけではないらしい。
目が普通のままだ。
「もう一度仕様について簡単に説明しますと、防犯カメラのデータバックアップを本社側で持ちたいということです。本社側のサーバーに入れますので、数年分のデータを保存できるようにしたいです」
「……なるほど。技術的には一点クリアできれば可能と考えています。投資は必要ですが」
「……投資……ですか。あまり予算はないのですけど」
予算がないならこういう事を振るなと言いたいが、投資というのは金だけの話ではないということは峯本さんなら分かってくれるはず。……ここはもう一押しすれば伝わるはずだ。
「一番問題となるのが、防犯カメラ側のサーバーです。こちらは確認しないと分からない部分があります」
「先日の解析である程度は分かっているのではないですか?」
「先日の解析は回線切断の件です。今回の事案ではありません。未確認ですが、デバッグモードを使って複数のサーバーにデータを送る設定を活かすことができれば最小限の投資で実現可能でしょう」
俺は更に畳み掛ける。
「問題は各拠点の防犯カメラサーバーが自社のものではない可能性があるということです」
「なるほど、分かりました。ここであれば警備室にあるサーバーを触って設定を変更する許可を取ってほしいということですか」
……仕事ができる人は話が早くて助かる。
そもそもデバッグモードにその項目があるかどうかが一番問題なんだが。
それはまだ片付けてない防犯カメラセットで確認すればいい。
せっかくだから峯本さんにも見てもらうとしよう。
俺はサーバーにノートPCを繋いで、デバッグモードを立ち上げる。
峯本さんは俺の作業を興味深げに見ている。
……あまりこういうのを見た経験がないのかもしれないな。
「これがデバッグモードです。あまり見る機会はないですよね」
峯本さんは素直に頷いた。
竹田さんが作ってればいいんだけどな……。
「マルチキャスト……おそらくこれかな」
俺がマルチキャストを選択すると、IPの入力画面に遷移した。
「当たりですね。これでサーバーにアクセスできれば本社サーバーにデータを送信可能でしょう」
峯本さんは作業の展開にやや圧倒されていたようだが、目処がついたのを理解すると微笑んで言った。
「……分かりました。各拠点の防犯カメラサーバーの設定変更に関する許可を早急に取りますね」
「よろしくお願いします」
こうして俺は図らずも本社案件を抱え込むことになった。
……合掌。




