053:社畜、ほぐされる
世界が改変できたら普通はどうします?
チートで無双? ハーレム生活? 大金無双!
ここにいるのは理解した社畜
今日もまた佐藤匠海による、自身の心の絶対的平穏を勝ち取るための戦いが始まる
相変わらず峯本さんは風のように颯爽と去った。
一人会議室に残された俺は、しばらく呆けていたのだろう。
ふと我に返ったのは、藤原補佐が会議室の扉を開けたからだった。
「はっはっはっ!佐藤くん。筋肉が固まっているぞっ!その状態ではいい筋トレが出来ないからなっ!さぁ一緒にストレッチをしようっ!」
いきなり入ってきてそれか!……とは思うが、確かに身体が固まっていたのは事実。
素直に藤原補佐に倣ってストレッチを行う。
ある程度身体がほぐれてきたところで、俺は藤原補佐に聞いてみた。
「あの……藤原さん。峯本さんから何か聞かされてますか?」
「うむ、話したいのは山々だが。ストレッチは呼吸が大切だ。話しながらでは効果が半減するっ!あと1か所伸ばしたら話し合おうではないかっ!」
そうか、呼吸なのか……。
正直仕事の話とは全く関係ないが、一応従っておく。
確かに身体はほぐれたし、変な緊張感も消えたので、悪い気はしない。
……違う、俺は筋肉王国に踏み入れたわけじゃない。踏み入れてないよな?
ストレッチが終わり、改めて藤原補佐に話を振る。
「先程の件ですが、峯本さんから何か聞いてますか?」
「もちろんだとも。佐藤くんが優秀だから本社案件を任せたいという話は以前から聞かされているっ!私もそれに反対するつもりはないぞっ!」
藤原補佐はとても良い笑顔でサムズアップした。
……以前から聞かされている?
藤原補佐が来たのはつい先日だし、以前から聞かされているということだと結構前からということだよな。
そうか、こいつもあちら側なのか……気をつけよう。
……気をつけて避けたところでこいつら間合い無視して突っ込んでくるからな……。
「それなら話は早いですね。先程峯本さんからいくつか頼ま……」
言いかけた俺の言葉を藤原補佐が遮るように言う。
「わかっているともっ!佐藤くんは存分に取り組んでくれたまえっ!全ての業務を他に回すことは出来ないが、そちらの案件を優先でいいっ!」
……あ、聞かれてはいけない案件だということも知っているのか。やっぱあっち側じゃん。
俺が藤原補佐をうまくあしらって自席に戻ると、高橋がニヤニヤしながら寄ってきた。
「佐藤さん、さっき峯本さんが休憩室で佐藤さんのことめちゃめちゃ褒めてましたよ。頼られる男はツラいっすね!」
妙なことを言ってるんじゃない。あれは特級の呪物みたいなもんだぞ。
……そうか、あの微笑みに魅了されたクチだったっけ?こいつ。
「そういうのは社交辞令っていうんだ。覚えとけよ」
そう言って近寄ってきた高橋の腹を軽く叩いておく。
「うっす。気をつけるっす」
相変わらず軽い……こいつは絶対理解してないな。
まぁ、自分でトラップ踏んで痛い目見れば分かるだろ。
峯本さんを食事にでも誘って撃沈すればいいさ。
「これから会議室に籠もって峯本さんの依頼っすか?」
「……あぁ、そうなるな。そこに全振りというわけにはいかないから、通常タスクもするけど」
俺の言葉に高橋は自分の胸を拳で軽く叩いて言った。
「雑用は俺達がやるから大丈夫っす。佐藤さんはそっちを優先してください」
経験上こういうことを言うときは信用してはいけない。たとえ同僚であってもだ。
「あぁ、悪いな」
一応礼は返しておく。
藤原補佐が俺達のタスク管理はやってくれるだろうが、自分のタスク管理は自分でやらないとな。
……そもそもこいつらに言える内容でもないから、協力させるわけにもいかないし。
内容を語れない俺を許せ。あとで自販機のコーヒーくらいは奢ってやるからな。




