049:社畜、頼み込まれる
世界が改変できたら普通はどうします?
チートで無双? ハーレム生活? 大金無双!
ここにいるのは逃げ場のない社畜
今日もまた佐藤匠海による、自身の心の絶対的平穏を勝ち取るための戦いが始まる
あまり長い付き合いではないから確証はないが、峯本さんの性格上こういう時は単刀直入に聞くのが一番早い……と思う。
「どんなタスクですか?」
「話が早くて助かります。佐藤さんに依頼したいのは、今各部でバラバラなチャットアプリを内部的に統合して、ログを本社で把握できるようにしてほしいのです」
なるほど。言いたいことは分かる。
その作業が非常に難しいことも含めてな。
「今のアプリを一新するのはダメなんですか?」
俺が聞くと、峯本さんは険しい顔をした。
「それができるのが一番なんですが、どうしても反対される方が多くて……」
あ、なるほど。この分野にも小山のクローン的なのがいるんだな。
きっと『チャットアプリはこの形が正義、それ以外は責任感がない』なんて事を言ってるんだろう。
「峯本さんも大変ですね」
いかん、思わず言ってしまった。
「本当ですよ。全社的にまとめようとすれば反対されますし。色々お膳立てしたら無遠慮に壊す方がいますしね」
峯本さんはこちらをまっすぐ見ながら言った。
……えーと、前者は小山クローンの話で、後者はもしかして俺のことだろうか。
確かに邪魔な奴をハメようとしてたのに、無実だという報告書出して邪魔する奴がいたら俺も怒るかな。
ここは適当に誤魔化しておこう……。
「い、いやぁ社長室って大変なお仕事なんですね。私のような末端社員には想像もできない世界ですよ」
「いえ、佐藤さんは末端ではなく、開発2課の中核社員ですよ。ですからお願いしているのです」
……話が元に戻せたか、ギリギリセーフ……かな?
ここは機嫌を取っておくとするか。
「期限はいつまでですか?あと、各拠点のチャットアプリに関する資料をいただきたいのですけど……」
「それは受けていただけるということでよろしいですか?」
峯本さんは微笑んで言った。
どうやら最悪の状態は逃れたらしい。
「資料と期限さえいただければ。どこまでが可能かは内容を見てから決めさせてください」
「そうしていただけると助かります」
そう言うと峯本さんは足元に置いた紙袋から何やら分厚いファイルを取り出した。
……おっとまさかすでに資料を持ってきているとは。
……っていうか、この資料さっき入ってきたときには持っていなかった気が……。
生えた……わけはないよな。まさか、昨日から置いてあった?
昨日時差出勤ということで俺が早く帰ったから、入れ違いに来て話を全て通してあるとか?
これは『逃さないぞリスト』に入れられていたのは間違いないな。
無駄だとは思うが、一応予防線を張ってみる。
「通常業務の兼ね合いもありますので、藤原補佐と調整させてもらっていいですか?」
「藤原さんには話を通してありますので、大丈夫ですよ」
……ほら、やっぱり無理だった。しかも食い気味に即答したし。
仕方ない。諦めて腹を決めるか。
「では、本社の望む仕様だけ確認させてください」
俺の言葉に峯本さんはにっこりと微笑んで言った。
「はい。では、仕様決めから始めましょう!」
……峯本さんの機嫌は直ったようだが、これは超特大の厄介事だぞ……。
やっぱり近づいてはいけなかったんだ……。




