036:社畜、新キャラに遭遇する
世界が改変できたら普通はどうします?
チートで無双? ハーレム生活? 大金無双!
ここにいるのは物理を実感する社畜
今日もまた佐藤匠海による、自身の心の絶対的平穏を勝ち取るための戦いが始まる
昨日は久々に酒を飲んだ。
いつもは徹夜か終電だから酒を飲む贅沢などなかなかできるものではない。
いつもの終電ムーブで酒飲んだら間違いなく寝坊して上司のネチネチ説教部屋送りが確定する。
寝坊の心配がないからと言って、泊まった会社で酒飲むのもな……。
そういや今日は新しい上司がやってくるとの話だった。
まともなやつが来ることを期待する、最低でも病気療養している杉本課長くらいのまともさであれ。
杉本課長は癌で倒れるまで俺と山南の面倒を見てくれた人だった。
そんなことを考えていたらスマホに通知が来た。
「それってフラグってやつじゃないのかい?」
……黙っててくれないかな、山南もどき。
◇
出社すると高橋と横井が既にいた。
……上司はまだ来ていないようだった。
「おはようございます。佐藤さん」
「佐藤さん。おはっす」
「あぁおはよう。まだ来てないのか」
「まだみたいですね」
「……こうしてても仕方ないから昨日の続きやるか」
「はい」
「へーい」
こうして俺達は備品のチェックを再開した。
「J03-088、課長の机」
「これな」
「次、J03-089、課長の椅子……もしかして、このJって什器のJだったりします?」
「かもな。台帳の記号なんてそんなもんだよ」
「適当っすねー。そういえば新しい人ってどんな人でしょうね?」
「分からんな。まぁ小山よりはマシだろう」
「佐藤さん。小山課長代理よりひどい上司はいないと思います」
「全くっすよ」
……そんなことを話しながらのんびりと作業を続けた。これもフラグだよな……。
そんな平和なひとときを破ったのはドアを開けるバーンという轟音と共に発せられた声だった。
「おはよう!諸君!今日からここを任された補佐の藤原だ!よろしく!!」
そこには白い歯をにこやかに輝かせ、パツパツのスーツを着たマッチョが立っていた。
……何でだよ。
◇
藤原課長代理……補佐?の登場により、事務所の入口が破損した。
正確に言えば、入口のドアが取れかけて、ドアノブがありえない角度に曲がったのだ。
本人は普通に開けただけだと言っていたがあれは筋肉が多すぎて加減ができないんだろう。
仕方ないので新キャラの相手は高橋と横井に任せて俺は峯本さんに電話で報告する。
「はい、社長室です。」
「開発2課の佐藤です。」
「どうしました?」
「事務所の入口ドアが壊れまして……。」
「あの、佐藤さん。そういう電話でしたら総務課の方に……」
峰山さんの言い分はもっともである。だが違うのだ。
「あの申し上げにくいのですが、新しい上司の方が入口を壊しまして……。」
「は?今なんて?」
峯本さんが珍しく間の抜けた返事をした。
そりゃ信じられないだろう。一撃だったんだぞ。
「新しい上司の方……藤原さんでしたっけ?事務所に入ってくる時に勢いよく開けすぎて扉が壊れたんです。」
俺が再度説明すると峯本さんはため息混じりに言った。
「……また壊したんですね……。藤原さん、優秀な方なんですが……力の加減がたまにできないんです」
いやいやたまに力の加減ができないってどうなのよ。
それは優秀な方のカテゴリー外だろ。
「はぁ……」
「すみません。こちらの方で今日中に交換の手配をしますので」
「……よろしくお願いします」
さすが峯本さん。優秀……いや、予測の範疇か。
電話を切ると課長席からこれ以上ない程の元気な声が響いた。
「佐藤君、峯本秘書に何か言われたかな? いやはや、こういった扉は脆くていかんな!日頃からの鍛え方が足りんのだ!」
これは頭の中まで筋肉な人だ。
この職場にまともな上司が配属されることを期待した俺が間違っていた。
……フラグ回収早すぎるって……。




