031:社畜、状況を見守る
世界が改変できたら普通はどうします?
チートで無双? ハーレム生活? 大金無双!
ここにいるのは指示を受ける社畜
今日もまた佐藤匠海による、自身の心の絶対的平穏を勝ち取るための戦いが始まる
「小山課長代理、もう一度聞きます。高橋さんから預かった記録媒体が無かったんですね?」
ビリビリするような空気が伝わってくるようだ。
小山は真っ青な顔で箱の中をかき回し続け、カチャカチャという乾いた音が鳴り続けている。
「いや、そんなはずは……。」
「では、その中にある記録媒体は何ですか?」
「これは、その……あの……。」
もごもご言い続ける小山にしびれを切らして、峯本さんが指示する。
「横井さん。確認をお願いします。」
「はい……。」
横井は無造作に近づくとひょいっと箱を奪い取った。
「横井くん、何を!」
小山は抗議の声を上げたが峯本さんに睨まれて動きを止めた。
「これ全部本社の管理IDシール貼ってますね。多分返却してないものだと思いますよ。」
「分かりました。ありがとうございます、横井さん。その箱はこちらで預かりますね。」
峯本さんは微笑んで言った。
その微笑みは正直怖いと思うんだが。狙ってるのか?
ちらっと横を見ると高橋がちょっとニヤニヤしている。こいつ本当に女性に弱いな。
「とりあえずの状況調査はここまででいいと思います。ご協力ありがとうございました。」
……これ本来なら刑事事件だと思うんだが、一応確認しておくか。
「警察を呼びますか?」
俺の問いに峯本さんは首を振る。
「盗難かどうかはわかりません。証拠もないですし。ですのでセキュリティ・インシデント疑義として一旦持ち帰ります。」
「はぁ。承知しました。」
我ながら気の抜けた返事ではある。
それもこれも本社の考えが読めなすぎるからだ……。
「佐藤さんたちにはこの部屋で他に紛失しているものがないかどうかを徹底的に確認していただきます。しばらく業務は停止になるでしょう。」
まぁ、それは想定内なんだがな。
「あと、小山課長代理にはこれから本社に来ていただきますよ。」
「……はい。……わかり……ました。」
小山は分かりやすくしおれていた。顔色は真っ青を通り越して土気色だ。
普段の態度を知っている派遣の人が見たら驚くであろう豹変ぶり。
今まで散々好き勝手やって来た奴とはいえ、ここまで大きくて深い墓穴を掘って自ら落ちるとは逆に尊敬する。
……こういうのを墓穴を掘るって言うんだろうな。むしろ見えてる落とし穴に自分から落ちに行ってるまである。天才だ。
「では失礼します。皆さん。」
峯本さんはお菓子の箱を抱えて颯爽と歩いていった。
後ろからはトボトボと付いていく小山。
あいつ、素直に付いていくのか……てっきり逃げ出すかと思った。
まぁ騒いだら確実に警察沙汰だろうしな。こうなるのも当然か。
事務所の入口で峯本さんは振り返り、言った。
「あ、佐藤さん。防犯カメラの確認だけお願いしますね。」
「分かりました。」
峯本さんはそれだけ言うと去っていった。
その姿を見て高橋が「峯本さん、カッコいいっすね。惚れそうです……。」と呑気につぶやいてる。……ブレないやつ。
後に残されたのは業務を停止させられた事務所と、社員3人のみ。
……今気付いたけど、上司いなくなってるし。責任者もしかして俺か?
そんな事を考えてると横井が棚に向かって歩き出した。
「備品台帳出しますね。僕は早く帰りたいので。」
……こいつもブレないな。見習うべきなのかね。




