030:社畜、驚愕する
世界が改変できたら普通はどうします?
チートで無双? ハーレム生活? 大金無双!
ここにいるのは目眩がする社畜
今日もまた佐藤匠海による、自身の心の絶対的平穏を勝ち取るための戦いが始まる
俺達がオフィスに着くと、静寂の中でただ暇そうに椅子に座っている3人がいた。
まぁ、当然だな。峯本さんから手を触れるなという指示が出ているからPCを立ち上げることすらできない。
できるとすれば各自のスマホで情報収集くらいか。
そんな関係者一同に峯本さんからの指示が飛ぶ。
「まず、各自の机から無くなっているものがないか調査をお願いできますか?」
峯本さんの指示に従って一斉に各自の机を中心に確認作業が始まった。
◇
作業が始まって10分した頃……。
「あーっ!」
高橋が急に大きな声を出した。
「どうした?」
「USBメモリー。」
「USBメモリー?それがどうした?」
「入院する前に受けてたタスクのUSBメモリーってどうしましたっけ?」
確かに。あの時は完成したテンションでそのまま帰ってたから、USBメモリーとかそのままだよな。
「そのメモリーなら高橋くんが倒れた日に私が回収したよ。感謝したまえ。」
いや、感謝とか言われても。
「それで、そのUSBメモリーは今どちらに?」
峯本さんが冷静に聞く。
「それは私が保管しているよ。当然だろう。」
小山はさも当然というように話しているが……それはまずいだろう。まさか気づいてないのか?こいつ……。
「……えっと、タスクが終わったということは成果物が完成しているんですよね?何故資料がそのまま小山課長代理のところにあるのです?社内規定では成果物が完成した段階で資料を即日返却となっているはずですが。」
峯本さんの口調が少し乱れている。峯本さんにとっても相当な衝撃だったようだ。
「……一応確認しますが、USBメモリーは今どこに保管しているのですか?」
峯本さんの目がスッと細くなる。
あーこの人は怒るとこうなるのか。さっきも怒ってたんだな。
「もちろんここに大切に保管しているとも。無くさないようにな。」
小山が示したのはモニターの下に置かれた小さな箱。
……俺、こいつに興味なかったから普段は見てなかったんだが、こんなとこにUSBメモリーしまってるの?こいつ。お菓子の箱だろ、それ。
「いつも私が引き出しにしまってくださいと言ってるんですが、小山課長代理は聞いてくれないんですよ。」
横井が相変わらずの空気の読めなさで言う……いや、これ以上ないくらい読んでるのか、これは。
「なるほど、いつもその箱に入れていると。」
峯本さんはゆっくりと小山の方へ歩きながら言った。
「その通りだ、この箱に重要なものが入っているとは誰も思わないだろう。高度なトリックだよ。分からないかね。」
……俺は目眩がして思わず天を仰いだ。目の前にいるのは本社の社長室付秘書の方だぞ。お前本気で分かってないだろ。
「なるほど。小山課長代理の言い分はわかりました。確かにその箱に機密情報が入った重要な記録媒体が入っているとは私も思いませんでしたし……。」
「そうだろうそうだろう。」
小山は褒められたと勘違いしたのかニヤニヤとしている。
「その管理手法は社に持ち帰らせていただきます。……要は記録媒体が紛失していなければいいのですから。」
「もちろんだとも、私は毎日所在を確認していたんだ。」
……嘘だな。もしそうなら派遣の人に渡すはずだ。それで全部やってくれる。俺もそうだし。その箱開けて目的の物が入って無かったらヤバいことになるんだからな。頼むぞホントに。
俺の願いを知ってか知らずか、小山はお菓子の箱を無造作にパカっと開けた。
……そこにはUSBメモリーが何個か入っていた。
本当に保管庫にしてるのかよ、こいつ。
中身を見た小山の顔色が見る間に悪くなってゆく。
その顔色を見た峯本さんは断言した。
「無いんですね?高橋さんから預かった記録媒体。」
……死刑宣告にも近い言葉。こうして鍵の掛け忘れだったかもしれない平凡な案件が盗難・情報漏洩インシデントへとクラスアップした。
フラグ回収終わってなかったのかよ……。




