029:社畜、雄弁になる
世界が改変できたら普通はどうします?
チートで無双? ハーレム生活? 大金無双!
ここにいるのは知識を披露する社畜
今日もまた佐藤匠海による、自身の心の絶対的平穏を勝ち取るための戦いが始まる
「そんなバカな。」
思わず口から出てしまった。
「実際無いんです。そんなはずはないんですが……。」
警備員の困惑した顔ったらないな。これは本当にデータ欠損かもしれない。
「ちょっと見せてもらってもよろしいですか?私こういうのは人よりも詳しいので。」
一応システム屋だからな。
警備員に許可をもらって端末を操作してみた。
確かにデータが存在しない……だけじゃなくて、これカメラが接続されてないような……。
「確かにデータが出てこないですね。それに防犯カメラが接続されてない感じですね。」
「えっ?」
「ほら、ここの表示が赤くなってるでしょう?これはカメラが接続されていない表示のはずです。」
「はぁ……そうなんですね。」
俺が説明すると、警備員がよく分からないというような返答をした。
まぁ、一般の警備員はそんなこと教わってないよな。
「ちょっと試してみますね。」
俺は端末を操作する。
「カメラからIPアドレスの応答(Ping)が返ってこないですね。LANケーブルが抜けてるか、HUBの電源が落ちてるか……あとはカメラが物理的に壊されたか……ですかね。」
「匠海さん詳しいですね。」
峯本さんが感心したように言う。
「以前ちょっとシステム組んだことあるので。」
「そうなんですね。」
「はい。結構前の話なので、最新のはちょっと分かりませんけど。」
「それでも分かる方がいるのは心強いです。」
峯本さんが微笑んだ。
この人の微笑みは人を誑し込むやつだな、俺には効かんけど。
「ちょっと変なのはサーバーにあるはずのデータもないことですね。手動で消さないとこういう感じにはならないはずです。」
俺の言葉に峯本さんがスッと目を細めた。
……ちょっと怖いんだが。ターゲット俺じゃないよな?
「そうなると人為的な事件になりそうですね。」
「そこはまだ断定できません。」
「……といいますと?」
「あくまでも一つの可能性ですが、カメラ側の故障で無効データが送り込まれた場合、負荷上昇を嫌ってその機体を切り離してデータを初期化するというルーチンが組み込まれている……ということですかね。こればかりは中を見てみないと分かりません。」
おっといかん。喋りすぎた。
技術系の話を振られると余計なことまで喋ってしまう……。
「なるほど……。いずれにしても、監視カメラのデータが消えている以上、小山課長代理の話を鵜呑みにはできなくなりましたね。」
峯本さんは何やら記入していたメモ帳を閉じ、ポケットにしまった。
「ご協力ありがとうございました。」
警備員に深々と一礼すると、警備室を出た。
俺も慌てて一礼し、続く。
「佐藤さん、一度戻りましょう。」
「はい。」
正直これは刑事と鑑識のノリである。俺はただの平穏を愛する平社員なんだが?
管理アプリで峯本さんのステータスを穏便な感じに書き換えてしまおうか……。
いや、それやるならもっと先にやる必要のあるやつがいるな。
俺はそんな不毛なことを考えながら峯本さんの後を追った。




