025:社畜、先を越される
世界が改変できたら普通はどうします?
チートで無双? ハーレム生活? 大金無双!
ここにいるのはデイリーのタスクを片付ける社畜
今日もまた佐藤匠海による、自身の心の絶対的平穏を勝ち取るための戦いが始まる
積み上げられた報告書にざっと目を通す。
……今日のタスクはいつもより少な目と言える。
上司が気を使ったか、相変わらず工数無視で誰かにヤバいやつを振ったかだな。
横井はタスク終わったと言ってたから、犠牲者は高橋か。
そう思って振り向くと高橋が死んだ目をしてキーボードを叩いているのが見えた。
……やっぱりか。まぁ後で手伝ってやるから頑張れ。
俺は自分のタスクに集中することにした。
◇
「山南:やぁ。そちらはどうかな?」
どうかなじゃないんだよ。まだ今日のタスクが完了していないんだから邪魔するな。
「山南:つれないなぁ。そういえばデイリータスクも忘れないでね。」
デイリータスク?あぁ管理者アプリかよ。
あれは暇な時にやるもんだ。今は忙しいからな。
「山南:そう言わずに見てみるといいことあるかもしれないよ。じゃあ、僕は帰るから。」
あ、逃げやがった。調子の良い奴め。
管理者アプリのデイリータスクだと?一応見てやるか……。
俺は管理者アプリを開いた。
【デイリー】他者に集中力上昇のパッチ当て/報酬:10EXP
【通常】コンビニの看板に対するカラスの当たり判定修正/報酬:10EXP
【継続】増えすぎた鳩を雀に変える/報酬:5EXP
鳩は当分いいだろ。やりすぎたら生態系がおかしなことになる。
そのうち増えすぎた雀を鳩に変えるとか出そうだし。
どうせやるならデイリーだよな。ちょうどいい実験台もいることだし。
俺は高橋を横目で見たが、高橋は気付きもしない。
……ありゃ重症だ。いつもならこういう視線に敏感なはずだしな。
「高橋、そろそろ飯にしないか?大変そうだから俺が買ってくるぞ。」
俺が声をかけると高橋はゾンビのように顔を上げた。
「いいんすか。ちょっと俺今日は終電ヤバそうなんで、いつものサンドイッチで。」
「そういう時はちょっと気分を変えて違うもの食べるといいぞ。」
「あ、そうっすかね?じゃあ佐藤さんチョイスでお願いするっす。」
「はいよ。」
俺は事務所を出るとコンビニに向かった。
◇
コンビニの前にカラスがいるのに気づいたが無視した。
タスクがあったのは分かっているが面倒だし。
そもそもここでそれをやったせいで、デイリーやった瞬間に高橋に歌われたら俺は間違いなく会社辞めるね。
早くレベルアップまでの残り経験値を実装しろと言いたい。
……そこにパッチ当てられるものならどんな工数でも作るんだが。
そんなことを考えつつ、高橋の分と俺の夕飯を買った。
俺はいつも通りのおむすび、高橋にはカルビ弁当である。この間肉肉うるさかったからな。
後はエナドリ。これがあれば多少集中力が上がっても怪しまれないだろう。
◇
「佐藤さん、あざっす。おごりっすか?」
俺がコンビニ弁当を渡すと高橋は嬉しそうに受け取った。
「……おごりでいいぞ。今日は俺とかのシワ寄せで大変そうだからな。」
「ホントっすよ。横井のヤツは帰ってこないし。」
「あいつ直帰したぞ。タスク終わったとか言ってたし。」
「え?マジっすか。あいつズルいな〜。」と文句を言いながら、高橋はカルビ弁当のフタを開けた。
「いただきます! 肉美味そう!」
「あ、そうだ。エナドリ、なんか新しいの出てたから買ってきたぞ。」
「あざっす。」
高橋が夢中になって弁当を食べてるのを見て、席に戻った。
管理者アプリで高橋を選択する。
Object.Human.Takahashi_tomohiro
集中力だから……Concentrationか……25/100
だいぶ低いな。書き換えしてやろう。
command画面から高橋のConcentrationを100まで上げるように指示する。
【デイリー達成:10EXP獲得!】
「佐藤さん、なんかこのエナドリ違いますね。頭がスッとするっす。さすが新商品。」
「そうか、そりゃよかった。」
……スッとしたのは俺がステータスをいじったからだ。おかしなことになったら再度調整しよう……。
そんな心配をよそに弁当をたいらげ、エナドリを飲み干した高橋が、一度伸びをしたかと思うと勢いよく椅子に座り直した。
さっきまでのゾンビはどこへやら、猛烈な勢いでキーボードを叩き始めた。
よく分からないが、何か白いオーラみたいなの出てないか?高橋。
……やりすぎたかもしれん。
まぁいい。しばらくそっとしとこう。
俺は自分のディスプレイに向き直り、おむすびを食べながらタスクを片付けていく。
時折後ろから「ここがおかしい。」だの「こいつかー!」などと独り言が聞こえてきたが、聞こえなかったことにする。
◇
3時間程して自分のタスクが半分になった頃、急に猛烈なタイピング音が途絶え、同時にガタンという何かが倒れた音がした。
ギョっとして振り返る。……もしや力尽きた?
そこには両手を挙げて立ち上がった高橋がいた。
「終わったーーっ!佐藤さん! 終わったっすよ!」
「お、おぅ……。」
「俺お先に失礼するっす! カルビ弁当とエナドリ、ごちそうさまでした!」
「……え? あ、おう……お疲れ……」
「お疲れっしたー!」
高橋は颯爽と事務所を出ていった。
◇
急に静かになった事務所で俺は静かに天を仰いだ。
……集中力アップ、俺も使おうかな……。




