023:社畜、現実に直面する
世界が改変できたら普通はどうします?
チートで無双? ハーレム生活? 大金無双!
ここにいるのは乗り越えた社畜
今日もまた佐藤匠海による、自身の心の絶対的平穏を勝ち取るための戦いが始まる
「……これで確認を終わりますが、少々お待ちいただけますか?」
終わった……と思わせておいてまだ何かあるのか?
「まだ何か?」
俺が聞くと峯本さんが真顔で応えた。
「これからISO監査のクロージングをやろうと思いまして。」
「それは小山課長代理が出席されているのでは。」
「あちらは時間稼ぎの仮会議です。」
「は?どういうことです?」
横井が訝しげに聞く。
「ISO監査のクロージングはこれからですよ。そろそろ先方の担当者が来られると思います。」
峯本さんがそう言うと待っていたかのように扉がノックされた。
……これは絶対仕組んでたな。タイミングが良すぎる。
「はい、どうぞ。」
横井さんが言うと、扉を開けて監査員が入ってきた。
確か曽根さんと山西さん……だったか?
「お疲れさまです。ISOのクロージング会議を始めましょう。」曽根さんが言った。
◇
「こちらからの指摘は今回ありません。提出されたエビデンスは指摘が必要な内容ではありませんでした。」
曽根さんの言葉に俺は内心胸をなでおろした。
……これで小山からは文句を言われずに済む。
あいつとは関わりがなければないほど俺の心は平穏だ。
「ただ一応確認ですが、この報告書は昨日作成されたものですよね?これは指摘事項ではなく私個人の確認です。」
「はい。昨日作ったものです。」
そんなことを隠しても仕方ないので正直に言う。
「皆さんそうなので大丈夫ですよ。むしろそういう情報が私たちとしては欲しいのです。」
そういうものかな。監査員は真実を察しても話しては貰えないものか。
「私たちとしては出来るだけ通常業務としてISOの手順を運用して欲しいのですけどね。もちろん現場はそういうのが難しいのは理解しています。」
……なかなかぶっちゃけた意見ではあるな。余裕ができたら考えてみることにしよう。
「これは私個人の意見です。今回の監査としては特に問題なしとさせていただいてますのでご安心くださいね。」
曽根さんは俺を安心させるように気を使ってくれていた。
「……今回の監査のクロージングはこれで終了です。おつかれさまでした。」
曽根さんが締めの言葉を口にした。
まだよく状況を飲み込めないが、監査は無事乗り越えられたようだ。
「あ、俺は直帰しても大丈夫ですか?今日のタスク終わってるし。」
空気の読めない横井が言う。
「はい。そちらの職場で問題がなければ直帰で問題ないですよ。……ただ、この会議のことは内密に願います。ここではISOの研修を行った。ということでお願いしますね。」
「分かりました、秘密にしとけばいいんですね。じゃあ俺は帰ります。おつかれさまでした。」
横井は席を立つと本当に帰っていった。現代っ子め。
「佐藤さんは帰られないんですか?」
「私は……本日のタスクが未着手ですので。」
喜んで直帰出来る横井と違って、俺は今日のタスクが未着手だ。帰れるわけがない。
「そうですか……。頑張ってください。こちらは調査を続けますので。」
峯本さんが頭を下げた。
俺も慌てて頭を下げてから立ち上がり、会議室を出た。
◇
タクシーはもったいないので電車で会社まで戻る。
管理者アプリから再三通知が来ていたが、そんな気分ではないので無視した。
……会社に着くと、気付いた小山が張り切った声で迎えてくれた。
「お疲れさま。佐藤くん。キミの監査の受け答えが芳しくなかったから研修だったそうだね。それはご苦労だったな!クロージングの方は私が全て問題なく終わらせておいたので安心してくれたまえ。」
……こいつは自分が泳がされているのに全く気づいていないのか……ここまで来るとおめでたいというか、哀れなやつとして同情する。
「……研修の方は、大変勉強になりました。」
俺の言葉に小山は気分を良くしたようだ。
「そうだろう、そうだろう。誰にでも初めてはある。今回失敗だったからといって気に病むことはない。本社の連中は私が上手く相手をしておいたからな。」
小山は大威張りで席に戻り、ドヤ顔をしていた。
「ありがとうございます。私はこれから本日のタスクがありますので、失礼します。」
小山は何か言いたそうだったが、そんなことに付き合ってられないので席に戻った。
高橋くらいだろう、そんな茶番に付き合うのは。
「……さてと……。」
席に着いた俺を待っているのは本日分のタスクである。この量だと週初めから徹夜だな…。
俺は思わず天を仰いだ。
……合掌。
ちょっと続いた監査編はこれで終了になります。
小山はどうなるのか。次回以降のお楽しみです。




