022:社畜、研修を受ける
世界が改変できたら普通はどうします?
チートで無双? ハーレム生活? 大金無双!
ここにいるのは報告する社畜
今日もまた佐藤匠海による、自身の心の絶対的平穏を勝ち取るための戦いが始まる
目的地の202号会議室に着くと、既に小山と横井は着いており、峯本さんと何やら話をしていた。
近づくと横井が俺が来たことに気付き、振り返って言った。
「あ、佐藤さん、俺と佐藤さんは別室だそうです。」
「佐藤さんは監査の際の対応で研修を受けて頂くことになりました。横井さんと一緒に304号会議室に移動お願いします。」
峯本さんも俺を見つけ、そう言って微笑んだ。
「佐藤くん、せいぜい真面目に研修を受けてきてくれたまえ。監査のリコメンドは私が対応するからな。」
小山は勝ち誇ったように言い残し、会議室に意気揚々と入っていった。
峯本さんがそっと会議室の扉を閉め、軽くため息をついた。
「では、行きましょうか。」
気を取り直したのか明るい表情に戻り、峯本さんは歩き出した。
◇
304号会議室に入ると、峯本さんは俺達を座らせ、向かいに座り、こう切り出した。
「お疲れさまでした、佐藤さん。」
「はぁ。先程研修と聞きましたが、何か受け答えで問題ありましたか?」
「それは嘘です。小山課長代理をあなたたちから離すためです。」
俺の言葉を峯本さんは微笑みながら否定する。
……さすがにこの展開は想定外だな。
「私は社長室付きの秘書です。あなた達の所属する開発2課の離職率と精神的な罹患率がずば抜けて高い事が問題になりまして、調査を行なっております。」
……それは知ってる……がここでそれを言うわけにはいかない。
いくら社長室の共有フォルダに入っていたとはいえ、そういうのを探し回るのはルール違反だからだ。
俺は平静を装って聞いた。
「そうなんですか?初耳ですが。」
「あら、佐藤さんならご存知かと思ってましたけど。」
……まさか、俺が見てるなんて知るわけないよな。
俺の焦りを知ってか知らずか、峯本さんはにこやかに返してくる。
「……あの、そういう話だったら俺あんまり関係ないと思うんですが。」
横井が突然話しだす。
こいつは空気読めないとこあるからな。まぁ仕方ない。
「関係ないわけではないですよ。私が確認したいのは、あなたの勤務実態です。普段の仕事の振り分け状況を教えていただきたいのです。」
「あ、普段の仕事ですか?小山課長代理から毎日振られますよ。数は毎日ほとんど同じです。」
横井が当然のように言う。
「佐藤さんはどうですか?」
「私の方も横井とあまり変わりません。見てる限り数はほぼ均等だと思います。工数はあまり考えられてないようですが。」
俺の回答に峯本さんは目を見開いた。
「数だけ均等にしてるわけですか。工数は無視と。」
「そうですよ。この間は工数掛かるのがたくさん割り当てられて徹夜しました。俺は早く帰りたいのに。」
「あ、佐藤さんはいつも工数掛かるのをわざと多めに振られてるから遅くまで残ってますよ。」
「あ、そうなんですね。その辺りの話をぜひ詳しく聞きたいです。」
横井の答えに峯本さんが興味を持ったようだ。
「この間倒れた山南さんっていたんですけど、佐藤さんと同じくらいタスク振られてて、しかもなんか色々責任者とかやらされてたらしいですよ。」
珍しく横井が饒舌だ。俺が口を挟む必要がないくらい語っている。
「……なるほど。意図的な業務集中ですね。」
峯本さんもどこか楽しそうだ。
「テスターの派遣社員とかバイトはいますけど、結局コードを打ったり修正するのは俺達社員なので、全部やらされてるんですよ。振った本人は定時退社してますけど。」
峯本さんにのせられて横井は本当のことを口にする。
「佐藤さんは山南さんと親しかったそうですね。」
急に峯本さんが俺に話を振ってきた。
「はい。山南はとても優秀でした。だから大量のタスクを振られて徹夜してました。私も歳がいってますから工数のかかるものばかりを振られて山南と良く徹夜したものです。もし確認したいということでしたら監視カメラのデータを照合していただければすぐだと思いますよ。」
俺はそもそも小山に味方するつもりはない。事実を言うだけだ。
「あ、なるほど。防犯カメラですね。それは気付きませんでした。」
峯本さんはにこやかに微笑み、続ける。
「佐藤さん、横井さん、大変貴重な証言をありがとうございました。」
思わず頭を下げてしまった。
「小山さんは専務の肝入りの方でしたので、このような貴重な話を聞けて助かります。おつかれさまでした。」
……そういうことか。専務の肝入りだから確固たる証拠がないと手出しできなかったというわけだな。
「おつかれさまでした。」
俺達の研修という名の事情聴取はこうして終了した。




