二人の笑顔のその裏で
デート回後半です。新キャラも登場するかも?
冷房の効いた部屋で、水もこまめに飲みながら読んでくださいね。
では、熱中症と脱水症には気をつけてどうぞ!
「......えいっ」
ストンッ
「おぉ、すごいど真ん中だ」
「やりました!ふふん、次はご主人様の番ですよ」
ドヤッとしながら俺に場所を譲る戌神さん。俺はケースから一つダーツの矢を取り出し、的に向かって構えた。俺達は多くのゲームやスポーツが時間内で遊び放題の室内レジャー施設に来ていた。今は二人でダーツをやっている。現在お互いの得点は、480と431だ。戌神さんは既に自分の番をすべて終えていて、俺はこれが最後の一投だ。
「ご主人様が勝つには、私と同じブルに当てないとダメですよ」
「まあ無理でしょうけど」ともう既に勝った気でいる戌神さん。ブルとはダーツの的のど真ん中のことで、当てたら得点は50点だ。50点を取ることができれば、俺の得点は481点、僅差で俺の勝ちになる。ちらりと横を見れば勝ちを確信して、とてもご機嫌な戌神さんの顔。それを見て、俺の内なる嗜虐心が刺激された。俺はじっと的を見つめ、細く長く息を吐いてから、
「...」
ヒュッ ストンッ
俺は矢を放った。それはきれいな放物線を描いて的の真ん中...の上部に通る円に突き立った。
「...ふぅ」
「やったぁ〜!私の勝ちです!」
その場で両手を上げながらぴょんぴょんと跳んで、喜ぶ戌神さん。俺は彼女の横を無言でスッと通り抜け、無表情でスコアシートに記録し始める。「いや〜負けた〜」みたいな反応を期待していたのか、一人で舞い上がっているのがいたたまれなくなったらしく、ピタッと動きを止めた。中途半端な位置で両手が止まり、手を動かす俺の背中を見る目がじわっとうるみ始める。
「あ、あの...」
「はい」
「へ?」
何かを言いかけた彼女を遮って、俺がスコアシートを彼女の眼前に突き出す。彼女が紙全体に目を通し、ハッと息を呑んだ。俺はそんな彼女に晴れやかな笑顔を浮かべてみせた。
「残念。俺の勝ちでした」
「え、え?え?...ええええぇぇぇぇ!?いや、嘘ですよね!なんでご主人様の勝ちなんですか?だって真ん中じゃなかったですよね!?」
彼女が振り返りながら、指さした的の真ん中には確かに俺の矢は刺さってない。それでも、俺の笑顔は崩れなかった。むしろよりその笑みを深めた。
「戌神さんちゃんと説明聞いてなかったな〜?ダーツにはトリプルっていうのがあるんだよ」
「トリプル?なんですかそれ」
「こっち来て」
二人で的の近くまで歩いていく。そして、俺は自分の矢が刺さったところを指し示した。
「ダーツにはダブルとトリプルっていうルールがあってね。的に大きな円と小さな円があるでしょ?この円上に当てると、的の端に書かれた点数が2倍、3倍になるんだよ」
「確かにこれは小さい方の円のところに刺さってますね...で」
戌神さんがそのまま視線を上にスライドさせる。そこに書かれていたのは、「20」という数字。
「つまり...」
「そう。20の3倍だから60点。11点リードで俺の勝ちってこと」
「なるほど...ぬか喜びだったんですね。ちゃんとルールを聞いておけばよかったです」
しゅんと顔を俯ける戌神さん。「やべ、からかいすぎたか」と俺がフォローしようとした時、両手をぎゅっと握りしめながら、戌神さんが顔を勢いよく上げた。
「次!」
「うん?」
「次は勝ちますから!ダーツでの勝利はご主人様に譲ってあげます」
「そう?じゃあ次は何をしようか」
その後は空が赤く染まり始めるまで、時間を忘れて二人で遊び続けていた。ちなみに、最終的には13種目中俺が6勝、戌神さんが7勝で負けてしまった。最後のボウリングが終わった時、すごいドヤ顔をしていた。まさか最後の回で三連続ストライクを出してくるとは...それで逆転されてしまった。初めのダーツで俺がトリプル取って勝ったのを根に持っていたんじゃないだろうな...その腹いせでトリプルストライク取ったのならすごすぎるぞ。戌神さんって負けず嫌いなのか?一通り楽しんだ俺達は、自動販売機で勝ったアイスを片手に建物を出たのだった。
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少しずつ陽が傾き、日が沈んでいく逆の空では紺色が迫ってきていた。遊び疲れたのもあり、二人してゆったりとした足取りで俺の家へと向かう。周りを行き交う人々も「楽しかった」と満足している表情を浮かべている。きっと俺達も彼らと同じような表情になっていることだろう。
「いや〜今日は楽しかったね」
「はい。どれもご主人様のおかげです」
「そんなことないよ。俺も久しぶりに人と思いっきり遊んだからね。今日は戌神さんと遊べて楽しかったよ」
「っ!そうですか...」
俺の横で戌神さんがぷいっと顔をななめ下の方に向ける。その様子に俺はまた微笑み、前を見る。その時、ある人影が目に入り、俺は目を見張った。
「えっ...」
俺が思わず声を上げると、その人も俺に気づいたようだ。
「あっ...」
彼女は小さく声を上げ、ぱあっと表情を華やがせた。ぴょんぴょんとその場で跳びながら、手を無邪気に振ってきた。
「お〜い、奏葉く〜ん!」
「氷清?何でここに...」
訝しげなような、驚いたような目をしながら俺は彼女に問いかける。近づいてみてもやはり俺の想像した通りの人だった。安曇野氷清、俺がお世話になっているおじさんとおばさんの娘で、俺の従姉、大学一年生で俺の三歳上だ。ただ、ずっと小さい頃から一緒にいたため、呼ぶときは呼び捨てだ。そんな彼女は俺が近づいてくると、両手をばっと広げて...飛びついてきた。予測していた俺はひょいっと体を捻って彼女を躱した。空気を抱きしめたまま、氷清は顔をこちらに向けた。
「え〜ん、何で避けるの〜」
「ここが外だからだよ。思いっきり注目を集めるからや・め・て」
「中ならいいの?じゃあそこのコンビニに入りましょう」
「そういう意味じゃないっての...そんなことどうでもよくて」
「私にとってはそんなことじゃないわ〜」
「なんでここにいるの?」
「今日は大学休みの日なの〜」
「なるほど、そういうことか。...あ、紹介しておいたほうが良いかな」
俺は戌神さんを見る。戌神さんは今日の楽しそうな雰囲気を霧散させ、学校での「氷の妃」モードに入っていた。相変わらず人見知りだなぁと苦笑を漏らしながら、俺は固くなっている戌神さんに声をかけた。
「戌神さん、この人は俺の従姉の...」
「安曇野氷清よ〜」
「氷清、この人は俺の...」
そこで俺は一瞬だけ悩んだ。彼女との関係を何と表現するかだ。しかし、考えすぎると氷清に誤解を与えるかもしれない。俺は瞬時に答えを出した。
「友達の戌神環だよ」
「!」
俺の横で戌神さんが肩を揺らす気配がした。俺の言葉に氷清は優しく笑みを深めた。
「あら、そうなの〜?よろしくね〜」
「よろしくお願いします」
氷清が差し出した手を無表情で握る戌神さん。...まあ瞳の奥にはまだ警戒の色が見えるが。
「ごめん、戌神さん。ちょっと氷清と話すことがあるから、ここで待ってて」
戌神さんに俺はそう言いながら、氷清に素早くアイコンタクトを送る。すると、氷清は了解というようにウインクを返してきた。
「はい、わかりました」
「ごめんね、環ちゃん。ちょっとだけ借りるわね?」
「はい」
通行人のじゃまにならないように端の方によって、じっと動かなくなる戌神さん。それを見届けて、俺は氷清と少し離れたところまで移動する。
「それで、どうしたの?」
開口一番に氷清が疑問を投げかけてくる。相変わらずふわふわとした笑みを浮かべているが、声のトーンは真剣なものになっていた。
「さすが。よく分かってる」
「わかるわよ〜。高校生の奏葉くんたちは今日も学校があるはずだもの」
「でも、わざとそこには触れないでくれたんでしょ?」
「うん。なんとなくね」
「相変わらず察しが良いね」
「まあ?そんなこともあるかしら!」
えっへんと胸を張る氷清。鼻が長く伸びているのが見えるようだ。
「まあかくかくしかじかあってね...」
俺は氷清に今の状況について簡単に説明した。事故にあいそうだったところを助けたこと、家出をしたのかわからないがとりあえず自分の家に泊めていること、彼女に少しでもリラックスをしてほしいと思い、色々していて今日休んだのもその一環だということ。そこまで話して、俺は氷清と目を合わせた。
「...というわけなんだよ。家出...かどうかわからないけど、そこらへん理由についてはまだ聞けてない」
「そこで無理に聞き出さなかったのはいい判断だと思うわ。恐らく話を聞いてる感じ、単純な親との喧嘩じゃなさそうねぇ」
「うん。俺もそう思ってる。だから、彼女がどうするにしてもうちにいる間ぐらいはゆっくり休んでほしいと思うんだ」
「そうね...」
笑顔は気づけば鳴りを潜め、真面目な顔で俺の話を聞いていた。
「そうだわ!一度環ちゃんを連れてうちにいらっしゃいよ。私も力になりたいし、少なくともパパやママには彼女のこと伝えておいたほうがいいと思うし」
「まあ、そうしたいんだけどなぁ...」
俺は思わず遠い目になってしまう。わかっている。いつかはこの状況をおじさんやおばさんにも説明しなければならないということは。ちゃんと説明すれば、おじさんもおばさんもきっと貸せる手は貸してくれるだろう。お世話になっている二人にまた頼ることになるのは心苦しいが、それはまだいい。でも、問題は別にある。う〜ん、と唸る俺に氷清は笑みを再び浮かべて、頷いた。
「わかったわ。うちに来る日を連絡してくれたら、その日準備しておくから」
「お願いしていい?」
「任せて。あんな可愛い子放っておけるわけないじゃない!」
氷清はぽんと胸を叩いた。まあ氷清が当日問題をどうにかしてくれるなら、その間に俺は事の経緯をおじさんとおばさんに説明しよう。それはそれとして。
「本心は?」
「こうして恩を売れば、また奏葉くんを頼れるじゃない?」
「いつも恩を買ってばかりの人が何言ってるんだ。大学生にもなったんだから、もう少し自分のことは自分でできないの?」
てへ、と拳を自分の頭にこつんと当てながら、あざとくウインクをしてみせる氷清。俺ははぁ、と呆れ半分諦め半分のため息をつく。はっきり言おう。氷清はぽんこつだ。自分で言うのも何だが、小さい頃からずっと氷清は俺に頼ってきている。だから、氷清はああ言っているが、正直氷清にあの問題をどうにかできる気がしない。はぁ〜、俺はもう一度ため息をついて、覚悟を決めた。
「わかったよ。また連絡するから、よろしくね」
「まっかせて!」
話を終えた俺達は、戌神さんのところへ戻った。すると、そこで待っていたのは...
「...」
戌神さんは儚げに視線を空に向け、暗く染まっていく空に合わせて彼女の瞳も闇に蝕まれていくようだった。それはまるで捨てられた子犬のような...助けを求めているような...とにかく寂しそうな表情だった。それでも、彼女を問いただしたい気持ちをぐっとこらえて、俺は笑みを浮かべた。
「戌神さん、おまたせ」
「ごめんね〜ちょっと長くなっちゃったわね」
「...えぇ、大丈夫ですよ」
振り返った彼女は、いつもの無表情に戻っていた。しかし、その顔に影が滲んで見えるのは...
「じゃあね氷清」
「はい」
「ふたりともまた会いましょうね〜」
「うん、また」
「失礼します」
何もできない自分に歯がゆくなる。そんな内心をおくびにもださずに、俺はへらっと笑った。
「じゃあ戌神さん。帰ろうか」
「そうですね」
知らない人(氷清)がいなくなり、「氷の妃」モードが切れた戌神さんも、感情のこもらない笑顔を浮かべ、偽りの笑顔は並んで夕日に向かって歩いていた。それからは...他愛もないどころか、中身さえない会話を何回か交わして、気づけば俺達はそれぞれ布団とベッドの中に吸い込まれていった。
どうも市舞ポメです。
ドヤ顔戌神さん可愛かったですね。二人デートでは可愛いところが沢山ありましたが!従姉登場しましたね。
ポンコツお姉さんがこれからどう関わってくるのか、いつおじさんおばさんの家行くのか、これからは楽しみにいただけたら。
いつも通り感想も評価も大歓迎です!気軽にしてくださいね。
というわけで、今回もありがとうございました。次回もよろしくお願いします。




