氷の妃と学校へ
そして、日常に戻る...ということで日常回です!
体から余計な力を抜いてだら〜っと見てくださいね。
では、どうぞ!
「あ、犬飼くんじゃん!どうしたのいきなり昨日休んじゃって?」
「ちょっと家の用事でな。急遽昨日実家に帰ってた」
「先生心配してたぞ〜?優等生二人が示し合わせたように休むもんだから」
「優等生二人...というと?」
翌日、俺が教室の扉を開くと数人のクラスメイトが俺の周りによってきた。一日だけ休んだのはなぜか気になるらしい。
それだけならいいのだが...優等生二人...ねえ。俺は口では「優等生二人?俺ともう一人、誰が休んだんだ?」言いつつ、心の中では苦笑していた。
勿論俺はそれが誰だか分かっている。間違いなく俺の隣の席で静かに読書をしている戌神さんだろう。
しかし、この状況は俺達も予測済みだ。幸い戌神さんは俺より先に家を出て、登校時間をずらしている。よほどのことがなければ昨日のことは疑われないだろう。
俺が、ボロを出さなければ。俺は心の中で一つ気を引き締めた。
「犬飼と戌神さんだよ。お前ら同じ日に一日だけ休んで次の日からは平気な顔してくるもんだから、さすがにみんなちょっと疑ってるぞ?」
まあとぼけたとしても多少は疑われるだろう。
分かっていた俺は、困ったような笑みを浮かべつつも、はっきりとした口調で否定を返した。
「それに関しては何と言われようと偶然としか返せないかな。戌神さんも偶然その日用事があって、俺も偶然その日用事があっただけだな」
「そうだろうな。特に一日だけ休むってのがよくわからないし。安心しろ、ちゃんと本人の口から言えばすぐにそんな噂なくなるだろ」
「ありがとう。...君からもこの話少しでも広めておいてもらっていかな?」
「任せろ」
サムズアップをする彼に、俺はもう一度お礼を言い席に向かった。
その際、戌神さんが一瞬だけ視線をこちらに向けた。
しかし、俺が何かを言う前にすぐに視線を本に戻してしまった。俺は小さく苦笑して席についた。
「で、実際は?」
「まず挨拶とかするんじゃないの、普通は。開口一番からなんだよ、碧依」
椅子に座った俺に問いかける声がした。俺は声の主をじとっと見上げる。
そこに立っていたのは中性的な顔をした男子だった。はっきり言って相当なイケメンである彼は、真咲碧依という。
いつもニコニコと笑みを浮かべていて、人当たりがよい彼は男女年齢問わず人気がある。まあ俺に言わせればコイツは...
「そんな細かいこと気にしてると、ハゲるよ〜?どうでもいいじゃんそんなこと。それより戌神さんとどんな関係?」
ただのうざい男子生徒なのだが。
なぜか碧依は俺をよくからかってくる節がある。一番腹が立ったのは俺が弁当を忘れたとき、目の前で大きく音を立てながら揚げ物を食べていたときだ。
「あ〜このからあげ美味しい〜」と当てつけのようにつぶやきながら、満面の笑みで口を動かす様子は俺の目には悪魔にしか映らなかった。
基本的には優しくて良いやつなのだが、唯一の欠点ともいえるその部分のせいで素直に仲良くできないのが現状である。
にぱっと、というかにやにやしながら俺と戌神さんの関係を探ってくる碧依。「こいつは...」と思いながら、俺は否定を返す。
「何もないってば。さっきも言ったでしょ?偶然が重なっただけだって」
「ほんとかなぁ〜?」
「ほんとだよ」
「いや〜なんか匂いますな〜」
(こいつ...相変わらず勘が鋭いな...!)
こいつははっきり言って頭があまり良くない。もっと言えば世間一般の目で見ると馬鹿という部類に入るだろう。
しかし、とても勘が鋭いというか、運がいいというか。なぜか的を射ていたり、核心をついた発言をする。
しかも、たちが悪いことに空気を読むことが不得手ときた。非常に鬱陶しい限りである。
俺は話題を脱線させることに決めた。
「一日たりとも風呂は欠かしたことはないけどな」
「くんくん、ふむフローラルないい香りだ」
「いや、シトラス系なんですけど」
「うん...これは...ラベンダーかな?」
「話聞いてます??」
変なノリに乗ってこなくて良いんだよ。俺は呆れて大きなため息をつく。
「で、ほんとのところは?」
「しつこいなほんとに!」
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「あの人...苦手です」
「あははは...悪いやつじゃない...とは思う。ただちょっと好奇心が強すぎるというか。だからそんな嫌わないであげてよ」
家に帰って早々、ぐでーんとソファに横になる戌神さん。俺はそれも仕方ないと苦笑する。
あの後、碧依は俺に加えて戌神さんも質問攻めにしたのだ。どれだけ冷たくあしらっても疑問をぶつけてくる碧依に、精神を削がれたようだ。
自分でも碧依のことを思い出して、疲れた笑みを浮かべながら、俺は冷蔵庫を開けて二つのカップを取り出した。
「まあ、とりあえずお疲れ様」
「ありがとうございます...これは?」
「プリンだよ」
俺が戌神さんに差し出したカップには、黄色と茶色が映えるシンプルなプリンが入っている。
一緒にスプーンも差し出せば、それらを戌神さんはおずおずと受け取った。
俺も彼女の横に腰掛け、柔らかく黄色い山にスプーンを突き立てた。たっぷりすくい取って頬張れば、滑らかな舌触りとともに、卵の柔らかな甘みが広がる。
(うん、今回も上手く出来てる)
俺は小さく頷き、次はカラメルとプリンを同時にすくう。こちらも卵の甘みとカラメルの苦みがいい具合にお互いを引き立てており、我ながらとても美味しい。
隣の戌神さんも小さく「美味しい...」と呟いているので、本当に美味しくできたのだろう。
安堵の色を笑みに滲ませながら、俺は戌神さんに話しかけた。
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」
「え、これご主人様が作ったのですか?」
「うん」
「ほんとに多才ですね...」
「はは、そうでもないよ。作り方さえ分かってしまえば誰でも作れるさ。また作り方、教えようか?」
「ぜひ!」
俺の手を両手で包んで、きらきらした目でこちらを見つめてくる戌神さん。
俺はそんな彼女に「ぬぐっ」と唸る。脳裏にフラッシュバックする、ドアの前で座り込んだ姿。か、かわ...
「?どうしました、ご主人様?」
「い、いや...なんでもないよ。うん。また作ろうね、プリン」
「はい!」
学校とうちでの温度差がすごいな...切り替えが鮮やかすぎる。俺は呆れたような感心したような目で戌神さんを見る。
これを無意識でやっているのだから意味がわからない。スイッチのオンオフが激しい人がいるとはいうけど、ここまでの人は人生で初めてだ。
学校ではあんなに大人しい彼女が今はプリン程度でその整った顔を崩して笑っている。
「ふはっ」
「!な、なんですか」
「いや...くくくっ...なんでもないよ」
「なんですか、言いたいことあるならはっきり言ってください!」
うちが彼女の心安らぐ場所であるなら、遠慮なくくつろいでリラックスできる場所になっているなら、俺は嬉しい。
あの日、ただ目的地にどう行くかだけではない。どこか迷いを秘めたような表情をしていた戌神さんの少しでも力になれているなら。こうして...彼女が笑ってくれるなら。それでいい。
吹き出して笑う俺に、つられて戌神さんも笑みをこぼす。
その日、俺達は寝るまで穏やかに過ごした。ご飯を一緒に食べて、お皿洗いと洗濯を分担して片付けて、お風呂に入って寝るだけ。会話を多くしたわけでもないし、関係が変化したわけでもない。
それでも、昨日の気まずさは欠片も残っておらず、お互いの存在を、昨日より少し近くに感じていた。
今回はだいぶ短かったですが、前回の不安になる終わり方から一転、二人の距離が大きく近づく回となりましたね。これからの二人の関係に注目です!
今回も読んでいただきありがとうございました。感想もお待ちしていますよ!
では、次回もよろしくお願いします!




