君の居場所を
どうも、市舞ポメです。8月ももう後半ということに震えております。光陰矢の如しとは言いますが本当に最近は早すぎますね。
特に最近はラノベを読んでいると午前が終わって、アニメを見ていると午後が終わっています。
そんなことどうでもいいですねはい。こんなゆるっとしてちゃダメなんですよ。今回は真面目な話ですから。みなさんも気持ちを切り替えてくださいね。
今回も一日の暇な時間にゆっくりとお楽しみください。
では、どうぞ!
「よし!こんなもんでいいかな」
俺は額に一筋伝う汗を手の甲で拭き取りながら、満足げな表情でもう片方の手を腰に当てた。
すると、ちょうど玄関の方からガチャリと音がした。おじさんやおばさんはもちろん、いとこにも合鍵は渡していない。なので、考えられる人は一人だろう。
「ただいま帰りました」
部屋のドアを開けながら、リビングに荷物を置く制服姿の戌神さんに「おかえり」と言う。
帰り際に先生と何やら話していた姿を見かけたので、恐らくそれで遅くなったのだろう。俺はよくリビングに居るので、リビングにいない俺を探すように首を振っていた戌神さんの目が俺を捉える。同時に、不思議そうに少し目を見張った。
「ご主人様?その格好はどうしたのですか?」
戌神さんの疑問はもっともだ。なぜなら俺は今、頭に暗い紺のバンダナを巻いて、黒いエプロンをつけており、後ろには掃除機を筆頭とする掃除用具軍団を従えているからだ。
さながら掃除をしているハウスキーパーさんという格好をする俺に戌神さんがこてんと首を傾ける。そして、俺の背後にあるドアを見て、さらに首を傾げた。そこにあったのは俺の自室ではない。
「この部屋を整理してたんだ。正直この家結構広くて持て余していてさ。この部屋は物置みたいに使ってたんだ。でも、いつまでも同じ部屋で寝るわけにはいかないでしょ?だからこの部屋を戌神さんに使ってもらおうかと思ってね」
生活費は基本的に自分のバイト代から出しているものの、おじさんおばさんの猛烈なプレゼンにより、家賃だけは仕送りから出している。その際、部屋もおじさんとおばさんが選んだのだが、それがこの部屋だ。俺は最低限の広ささえあればと思っていたのだが、二人にしては珍しく頑なに「この部屋にしなさい」と譲らなかったのだ。
お陰でこの広い部屋のうち一部屋は適当な物置にしていたのだ。無論定期的な清掃及び整理は欠かさなかったので、汚部屋なんてことはない。荷物を自室に移し、軽くホコリを片付ければすぐにピカピカのフローリングが現れた。この部屋も人に使われたほうが本望だろう。
「え、いいんですか?」
「もちろん、ぜひ使ってよ。せっかく整理したんだから」
「というか、学校から帰ってきてからの短時間ですべて終わらせたのですか?」
「うん、戌神さんが遅くなりそうだったから今のうちに、と思ってね。元々きれいな状態は保つようにしてたからすぐ終わったよ」
「そうですか...入っても?」
「どうぞ?」
緊張に固まった顔で、恐る恐るドアへ歩み寄る戌神さん。そっとドアノブを握る手はかたかたと震えている。何をそんなに緊張することがあるんだと俺は苦笑する。
放っておいたらドアノブをひねらなそうな戌神さんの手に、優しく自分の手を重ねゆっくりとドアノブを回した。そして、淑女をエスコートするように、恭しくドアを開けてスペースを開ける。すると、ようやく戌神さんが動きを再開する。
しかし、その足取りはおぼつかず、トン...トントンと不規則なリズムで床を踏んでいる。誰の目から見ても普通じゃない戌神さんの様子に、俺は眉根を寄せる。どうしたんだと声を掛けるより早く、戌神さんは部屋の真ん中あたりで立ち止まり、口を開いた。
「これが...私の部屋?」
「そ、そうだけど...どうしたの戌神さん」
もしかして何か気に障ったのだろうか...と心配になる俺は戌神さんにそう問いかける。
「...む...です」
「な、なに?」
戌神さんの背からなにかか細い声で聞こえてきて、聞き取ることができなかった俺は聞き返す。
「無理です...」
「え...」
「無理です...いただけません、こんな部屋...」
今度は聞こえる声量だったが、その声はまるで何かに耐えるように震えていて、俺の全身から冷や汗がどばっと流れ出した。
「え!?な、なにか不満だった?ごめん、何か配慮が足りなかったりしたか...」
「違います!」
早口でまくし立ててしまう俺を遮るように、戌神さんが声を張った。今までにない声量に俺はたじろいでしまう。しかし、すぐに立ち直って戌神さんに近づく。
「どうしたの、大丈夫?戌神さん、どこか変だよ」
俺がそう言いながら戌神さんの顔を覗き込むと、俺は驚きの表情を隠せなかった。なぜなら、その顔が俺の見たことのない表情をしていたからだ。
恐怖、混乱、遠慮、申し訳なさ、悲しみ......それ以上はわからない。それでも数え切れないほどの感情が複雑に絡まりあった...とても苦しそうな表情だった。
「戌神さん...?」
「ごめんなさい...でもこんな広い部屋私にはもったいないです」
顔を腕で覆い隠して後ずさる戌神さん。その背中が壁にぶつかり、その場に戌神さんはすとんと座り込んでしまった。
(どうしたんだいきなり。『こんな部屋私にはもったいない』?何かトラウマが?まさか家に関連することでなにかあったのか?)
俺の脳が高速で回転して、思考と予測を組み立てていく。それでも答えが出るはずはなく、俺は戌神さんの近くでかがんで問いかけるしかなかった。
「戌神さん、この部屋は嫌?」
そう問うと、戌神さんは自分の腕の中で小さく首を横に振った。
「じゃあどうして...」
「私はご主人様にしてもらってばかりです。ここに来てからずっと何もかも...。なのにこれ以上なんて私はもらえません」
「なんで」
「私にそんな価値なんてないからです」
「はっ?」
俺は素で困惑した声を出してしまう。本気で彼女の言葉の意味がわからなかったからだ。
「何を言っているの?価値がないだなんて...そんなこと...!」
「ありますよ」
そこで戌神さんが少しだけ顔を浮かせた。その隙間から覗く瞳は虚ろで何か暗い闇を見ているようだった。
「ええ、そうです。私はもらいすぎてました。これ以上迷惑は...いえ、もう迷惑はかけられな...」
「迷惑だなんて思っていないよ!」
少し腰を浮かせようとする戌神さんに、危機感を覚えた俺は思わず声を張り上げて、戌神さんの両頬を挟み顔をこっちを向けさせる。
闇に沈んだような瞳の中に助けを求めるような色を見て、俺は唇を噛み締める。
「俺は戌神さんに価値がないとかあげてばっかりだとか思ってない。貸しを作ろうとしてるわけでも憐れんでるわけでもない。ただ...心配なんだ。君が困っているなら助けたい。...それだけなんだよ」
俺は淡い笑みを浮かべ、この気持ちが伝わるようにとまっすぐに戌神さんと目を合わせた。
戌神さんはぱちくりと瞬きを何度かした後、その瞳に光と水を浮かばせた。滲む視界に目を閉じれば、頬に一筋の涙が流れる。
「こんなにいただいていいんですか?」
「こんな押し付けがましいもので良ければ受け取って欲しいな」
「...そうですか。では......ありがたく、受け取っておきますね」
少し戌神さんに近づいて安心させるように頭を撫でれば、ぽすりと頭を俺の胸に当ててくる。俺はそんな彼女に微笑みをこぼす。
戌神さんの過去に何があったかはわからない。なぜそんなにも自己否定をするのか、もらってばかりを良しとしないのかわからないが、無理に聞こうとも思わない。
それでも、弱っている戌神さんを放ってはおけない。支えたいと思う。その小さな体に闇を抱えようとするのなら、せめて俺はそれも含めて肯定して安心できる居場所になりたいと思う。
密かに決意を固めた俺は、その思いを掌にのせてしばらくそのつやつやな髪の毛を撫で続けていた。
主人公優しすぎですね。これぞ「万物好し」何でもかんでも受け入れてくれそうですね。
さて今回は戌神環というヒロインの奥を少し垣間見るような回でした。
戌神さんいきなりどうしたの!?と思った方々、ご乱心ください。またしばらく真実は明かさんぞ、残念だったな。というわけでこの作品をまだまだ見て真実をその目で確認してくださいね。(誘導下手くそか)
とりあえず次の回は初登場回並みに甘々になる予定だからとりあえずそれで我慢してください(切実)。
今回も読んでいただきありがとうございました。皆さんが沢山僕の作品を見てくれることがモチベーションにつながります。感想もお待ちしています!次の更新に備えてブックマークもな!
では、次回もよろしくお願いします!




