ご主人様は朝からハード過ぎる件
どうも、こんにちは。市舞ポメです。
この作品を追っていただいている人は本当にお待たせしました!この連載をメインに活動をしていくつもりが、他の短編や連載に気を取られて中々進みませんでした!
初めての方もこれから先、更新が遅くなるかもしれないのでご了承ください!あ、見捨てないで!お願いですから、このお話を最後まで見ていってください〜!
こほん、では今日もコーヒーでも飲みながらゆるりと見ていってくださいね。
「......すぅ......すぅ」
俺が戌神さんの背の撫でることしばらく、戌神さんが俺の肩に顎をのせたまま規則正しい寝息をたて始めた。
俺は小さく微笑んで戌神さんを撫でる手を止めた。そして、戌神さんの首と膝の裏に腕を差し込み、その華奢な体を持ち上げた。今日から戌神さんのものとなったこの部屋には既に買っておいたベッドが置かれている。そこに起こさないようにゆっくりと戌神さんを横たえた。
「おやすみ、戌神さん」
ドアを閉める直前、部屋にその言葉を残して俺は自室に戻った。
◇◇◇
「じんさま......しゅじ......ま......」
翌朝、体を揺さぶられる感覚と澄んだ声で鼓膜が揺れる感覚で意識が徐々に浮上していく。ぱちりと目を開ければ黒い影が視界の半分を占領していた。
「わっ」
「ふわっ!?起きて早々なんですか!?」
俺の声に驚いて、先日と同じく制服にエプロン姿の戌神さんの体がびょいーんっと跳ねた。どうやら顔を覗き込んでいた戌神さんが、窓から差し込む後光のせいでシルエットしか見えなかっただけらしい。
俺が密かに納得していると、漫画のように床に倒れ込んだ戌神さんが「もう...」と言いながら立ち上がった。
「ごめんごめん、大丈夫?起きたら半分真っ暗で驚いちゃって」
「い、いえいえ!もとはといえば顔を覗き込んで起こした私が悪いので!気にしないでください」
「あ、起こしに来てくれたんだ」
「はい!朝ごはんの用意ができましたので、いつもより少し早いですが、ご飯が冷めないうちにと思いまして」
両手を合わせてにっこ〜っと明るい笑顔を見せる戌神さん。朝日にも負けないその明るさに日焼けしそうなほどだ。
(起きて目を開けた瞬間これだったら某アニメのように目がやられていた...)
後光にも負けない笑みに、眩い光を放つ呪文を思い浮かべながら俺は部屋のドアを開けた。
そして、飛び込んできた光景に俺の体は硬直した。次の瞬間、俺の目がこぼれ落ちんばかりに見開かれた。
「ん!?」
俺の視線の先にあったのは...リビングの机の上にどどーんと置かれたチーズの滝だった。
「な、なにこれぇ!?」
「はい!これはチーズファウンテンと言いまして、こちらにある食材をつけて食べるのです!」
俺の背後からひょこっと顔を出した戌神さんが、ふふーんと胸を張りながらそのタワーを指し示す。タワーの横にはきれいにカットされた野菜やパン、お肉まで揃っている。
俺がぽかーんと呆けて固まっていると、ぱたぱたとキッチンに歩いていった戌神さんが銀色の棒状のものを俺に差し出してきた。それは一般にフォンデュフォークまたはフォンデュピックと言われる、チーズフォンデュなどを食べるために作られた柄の長いフォークだった。
「へえあれってチーズファウンテンって言うんだ......って、そうじゃなくて!なんでこんなものがうちにあるの...ってか朝からチーズフォンデュってだいぶ重くない?いや、そもそもこんなのを準備するのにどんだけ時間かかったのって...」
「......(ドヤ)」
そこまでまくし立てて戌神さんの方を見れば、「どうですかこれ!」と言わんばかりのドヤ顔を向けられた。
そんな顔を向けられては、俺は興奮と呆れと感心が入り混じった顔で苦笑するしかできなかった。
「...ありがとう、戌神さん。こういうの初めてだから嬉しいよ」
「どういたしまして!」
「冷めないうちに食べようか」
「はい!」
元気な返事にまた苦笑して、俺は椅子に座る。そして、改めて目の前に広がる光景を見て思わずほうっと息をついてしまう。チーズが好きだということもあって、俺の身長と同じくらいのチーズのタワーというのはやはり壮観だ。
いそいそと両手を合わせて「いただきます」と呟くが早いか、ピックにパンを刺そうとする。
その時、俺の横でがががっと何かを引きずる音がした。「ん?」と思い、横を見れば至近距離に戌神さんの姿が。
「んん!?」
「どうしたんですか?ご主人様」
「い、いや。それはこっちのセリフなんだけど...いつもは向かいに座るのに珍しいと思ってね?」
「良いじゃないですか、そんなこと。ほら、早く食べましょ?」
「う、うん。まあ、そうだね。じゃあ...いただきます」
今度こそピックの先端に食材を刺そうと手を伸ばす。少し迷ったが、はじめに選んだのは、サイコロに近い形にカットされたパンだ。少しきつね色の部分があるくらいに程よく焼かれたパンにピックを刺せば、さくっと小気味良い音が鳴る。
次は、そのパンをチーズの滝に溺れさせる。取り出すと、それは真っ白に染まっていて、チーズがたれないうちに慌てて口に放り込んだ。
「あふっ!」
「ああ、ご主人様!お水です!」
その瞬間、熱が口内を満たした。反射的に口をはふはふとさせて、熱気を排出しようとするが、サウナのように熱された口内は中々冷めない。
横から差し出された氷の入ったグラスをひったくるようにつかみ、氷ごと口内に含む。水は喉にそのまま流し込み、喉と胃を冷やしてもらう。氷は口内に残し、まだ少しヒリヒリする患部に当てるように転がした。
「すいません!ご主人様に火傷をさせてしまい...!」
「いやいや、火傷程度で大げさだから。そんな気にしないで。冷ましてから食べなかった俺の落ち度だし......それはそうと、美味しいねこれ!熱かったからあまり感じられなかったけど、それでも今までで一番美味しいチーズだよ!ありがとう、戌神さん!」
火傷しただけだと言うのに自分が怪我したかのように痛々しい表情を見せる戌神さん。彼女に気にしないように伝えた後、素直にチーズフォンデュの感想を述べる。
確かに俺の舌は味より過剰な熱に気を取られていたところはある。しかし、それにしても一瞬感じたチーズの味は過去を振り返っても変わりが見つからないようなものだった。
「そ、そうですか?それは何よりです。準備した甲斐があったというものです」
俺が感謝を伝えると戌神さんは表情をほころばせた。
◇◇◇
「ご主人様はチーズがお好きなのですか?」
戌神さんが一口一口何かを食べる度にふふっと笑みをこぼす俺の様子を見て、そう問いかけた。
「うん、小さい頃からチーズが好きでね。そのまま食べるのも好きだけど、グラタンとか料理に入っていても好きだね」
「なるほど、そうだったんですね」
「それにしてもすごいね、この機械。こんな機械どこで買ってきたのさ」
俺が純粋な疑問を口にすると、戌神さんはこちらを見てぱちくりと瞬きをした。
「いえ、ご主人様の家にあったものですが」
「え、嘘でしょ?こんなものうちにあったっけ?」
「はい、棚の奥の方にありました」
「あっ、言われてみればそんなことも...」
その時、俺の頭の中に引っ越してすぐの記憶が蘇った。
「奏葉はチーズが好きだからねえ。これ、使いなさい」
「いやいやいや!こんなの一人で使わないって!」
「ふふふふ、まあまあ」
そうだ。あの日引っ越し祝いだとかでおじさんとおばさんから色々もらった時、この機械も受け取った記憶がある。
まさか、初めて使うのが本当に一人ではなく、二人で使うことになるとは。ある意味あの時の俺の勘は当たっていたということか。
「チーズも家にあるものを使いました。何種類もチーズがあってびっくりしました」
「チーズにはこだわりがあるからね。料理とかその日の気分によって使い分けたりしてるんだ」
うちには冷蔵庫が二台あり、そのうちの一台はチーズを保存するために使っている。
普通の食品と一緒にすると、チーズの匂いが他のものにつくこともあるし、そもそも一台では全て入り切らなかった。
(チーズをいっぱい買いたいから冷蔵庫がもう一台欲しいなんてわがままも、おじさんとおばさんは笑って聞いてくれたっけ...)
改めて二人のありがたみを感じて、心の中で感謝の気持ちを送っておく。また、あの家に行くときは手土産持っていくか。「別にいいのに...」と遠慮するだろうけど、意地でも受け取ってもらおう。
口に広がるチーズの味に舌鼓を打ちながら、俺は二人に何を買っていこうか考えていたのだった。
◇◇◇
さて、もうそろそろか。椅子に座った俺は、教室前方の壁に設置された時計と教室のドアの間で視線を往復させていた。
今日は俺が一足先に学校についていて、戌神さんは少し時間が経ってから来るはずだ。朝起きた時あんなに柔らかい表情をしていた戌神さんが学校でどんな姿を見せるのか。俺は少し楽しみにしている。
早くこないかな、とわくわくしていると碧依がにやにやしながらこっちに来ているのが目に入った。めんどくさくなりそうな雰囲気を感じ取り、俺は眉をしかめてしまう。
「今日はどうしたの奏葉〜、やけに落ち着きがないね?」
「何を言ってるんだ碧依。俺は至って普段通りだ」
にっこりと笑いかけてくる碧依を視界から追い出して、俺はそう言い放った。
しかし、碧依は怯みもせずさらに笑みを深めた。俺の背後から回り込み、俺の視界ににゅっと顔を出す。
「何〜?やけに僕のことを避けるじゃない?」
「いつも通りだ。お前とはあまり話したくないからな」
「今日なんか火力高くない!?...でも、それもなにか隠したいことがあるからだったりしてね〜?」
「......」
相変わらず勘だけは鋭い。一度疑い始めたら中々止まらない碧依を雑にあしらって俺は机の中から教科書を取り出した。
「碧依こそこんなとこで油を売っていて良いのか?今日は数学のテストがあるんだぞ」
「あっ!そうだった!奏葉ぁ、数学教えてくれ〜」
「誰かさんのせいで今日は機嫌が悪いんだ、ほかを当たってくれ」
「奏葉〜ごめんじゃん〜親友だろ?助けてくれよ〜」
「わかった!わかったからズボンを引っ張るな!あと、俺も勉強しなきゃダメだから昼休みにな」
「わかったよ〜」
やっと自分の席に戻っていった碧依の背中を見て、俺は大きなため息をついた。あいつと話しているとカロリーをとても消費している気がする。朝からどっと疲れた俺は机に突っ伏した。
普通ならテスト勉強をしたほうが良いのだろうが、俺には特にその必要はない。普段からの予習復習を欠かさなければ前日までにテスト勉強は終わる。ではなぜ碧依にああ言ったのかといえば、この朝を邪魔されないためだ。
ガラッ
来た...!俺は弾かれたように教室のドアの方を見た。そこに立っているのは長い黒髪をきれいになびかせた戌神さんだった。そんな戌神さんのもとへ一人の男子が下心丸出しで近づいていく。
「い、戌神さん!お、おはよう!」
さあ、いつもなら真顔で事務的に挨拶を返すだけだが、今日はどうだ?
戌神さんの笑顔目当ての男子たちとは別の意味で俺は戌神さんに注目する。そして、戌神さんは口を開いた。
「おはようございます」
その男子に目をくれることもお辞儀をすることもなく、その挨拶だけを残して戌神さんは彼の横を通り過ぎた。
…今日ならもしかしたらと思ったけど、結局こうなるのか。俺は戌神さんに呆れと惜しい気持ちが混じった視線を送った。すると、そんな俺の視線に気づいたのか、戌神さんと目が合った。
「おはよう、戌神さん」
家でも挨拶をしたとはいえ、学校では他人として振る舞わなくてはいけない。一応目が合ったので挨拶をしておく。
どうせ適当に流されるんだろうな...と思いながらも、失礼にならないように戌神さんからの挨拶が返ってくるまでは視線を外さない。
その時戌神さんが、薄い微笑みを浮かべた。
「おはようございます、犬飼くん」
「っ!おい!」
「今の見たか!あの『氷の妃』が微笑まれたぞ!」
「すっご...今のめっちゃ可愛かったね...」
戌神さんが学校で初めて見せた笑みは、朝の教室の話題をかっさらっていった。教室はにわかに沸き立ち、その視線は笑みを引き出した俺に向いた。
...勘弁してくれよ。次の休み時間は質問攻めだな。考えるだけで鬱になりそうな未来に、俺は引きつった笑みを浮かべたのだった。
今回も読んでいただきありがとうございました!ゆっくりね、リラックスして楽しんでいただけたなら幸いです。
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では、次回もよろしくお願いします!




