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8/12

氷の妃と二人きり

どうも、市舞ポメです!


今回は奏葉が覚悟を決めて寝落ちした翌日の朝のお話です。戌神さんと迎える朝、どうなるのでしょうか。今回いつもより少し長い回となっていますので、沢山楽しんでください!


それでは、今日も良い一日をお過ごしください!

八話をどうぞ!

…ュージュー コト カチャカチャ


「...ぁんだ?」


次の日、俺はかすかな生活音で目を覚ました。


(...なんの音だ?...って!)


それをはっきりと認識した瞬間、俺はバッと身を起こす。俺は一人暮らしだぞ?何でダイニングから音がするんだ!?


(誰かいるのか!?)


焦ったように辺りを見回し、俺は気付いた。視線を横に向けるといつも寝ているベッドがあり、自分は床に布団を敷いて寝ていることに。そして、思い出した。


「そうだ...戌神さんを家に泊めたんだった...」


朝から背筋が冷え、変な汗をかいた俺はどさっと布団に大の字で寝転んだ。起きたばかりで頭が回らず、すっかり昨日のことを忘れていた。はぁ〜と朝からでかいため息をつきながら、俺は自室のドアを開けた。


「おはよ〜」


そう言いながらダイニングに入ると、何やらいい匂いが鼻腔をくすぐった。いい匂いだ...これは卵焼きかな?キッチンを見ると、戌神さんが制服の上にエプロンを着て、フライパンを振っていた。俺の挨拶に気づいた様子はなく、真剣な表情で卵焼きを作っていた。


「...」


俺はしばらくその場に立ち止まり、戌神さんを見つめた。そして、首を傾げた。まあもちろん見惚れていたとかではなく、


(なんか...家にクラスメイトの女子がいるって違和感感じるな)


である。俺は誰とでも良好な関係を築くのは得意だが、プライベートでも関わる友人はあまりいない。それこそ未来くらいのものだ。幼稚園時代から今に至るまで「親友」と胸を張って言えるのは彼女だけだし、家に招いたことがある友人も彼女だけだ。この部屋に自分以外の人がいること自体珍しく、俺は久しぶりの感覚に浸っていた。


(あぁ、でもなんかいいな...人がいるってだけで安心する気がする)


寝起きというのも相まって俺の顔はとても緩んでしまう。そして、なんの気なしに俺が視線を動かすと、テーブルの上に置かれたものに気がついた。


(おぉ!めっちゃ豪華な和食だ!)


そこに並べられていたのは、つやつやな白ご飯に焼き鮭、豆腐とわかめの味噌汁ときんぴらごぼうだった。見栄えはもちろん、少しはなれた俺の場所までいい香りが漂ってくる。


(すごいな...俺も作れるけど、めんどくさいからだいたいトーストと目玉焼きとかで済ませちゃうしな。...朝起きたらご飯が用意されてるなんていつぶりかな)


さっきとは違う微笑みを浮かべながら、俺は窓の外の雲に目を向けた。


(...あれ?これだけの朝ごはんを作るのに、どれくらいかかるんだ?今が7時とかだから結構早い時間から起きてたんじゃ)


そんなことに気づいた俺は我に返り、ハッとした顔でまた箸で卵を巻く彼女を見た。そして俺はキッチンへ向かった。その間も戌神さんが俺に気づくことはなく、俺は彼女の背後から声をかけた。


「おはよう、戌神さん」


「ひゃぅわっ!」


すると、戌神さんの背筋がビクーン!と反応し、変な悲鳴のような声が漏れた。フライパンからお皿へ移すところだった卵焼きが空を舞う。俺はすかさず手を伸ばした。


「おっと、危ない危ない」


「はっ!はぅっ!」


戌神さんのお皿を持っている方の手に自分の手を下から重ねて、卵焼きの落下点にスライドさせる。戌神さんがまた変な声を上げるが、俺の耳には届かない。


「ごめんね。驚かせちゃったよね」


「ご、ご主人様おはようございます」


「うん、おはよう。朝ごはん作ってくれてありがとうね」


「い、いえ。昨日は色々とされてばかりでしたので」


「気にしなくていいのに...でもめっちゃ美味しそうだから、作ってくれて嬉しいよ」


「は、はい!ありがとうございます...!」


俺の言葉に、戌神さんはパッと花が咲いたように笑った。ほんとにわかりやすい子だなぁ。


「これで全部?じゃあ朝ごはん食べようか」


「はい!」


卵焼きをのせたお皿を運ぶ俺のあとを、戌神さんが満面の笑みでパタパタとついてくる。俺は彼女に犬の耳と尻尾を幻視した...。


(頭撫でてあげたいんだけど、なにこの子可愛い!持って帰りたい!...いやここ俺の家だったわ)


内心俺は彼女に萌えていた。想像の中では髪の毛をくしゃくしゃにしながら頭撫でくりまわしていた。そんな自身の衝動を歯を食いしばって、ぐっと抑え込み俺は椅子に座った。向かいに彼女が座ったことを確認して、俺達は手を合わせた。


「「いただきます」」


箸を取ってまず、卵焼きを頬張る。


「――!おいしい...」


「ほ、ほんとうですか?」


「うん。本当に美味しいよ」


「それなら良かったです」


俺は味わいながら食べ進めていく。想像通り、ご飯も味噌汁も焼き鮭もきんぴらごぼうも全て美味しかった。


「うん、美味しい」


一口一口目を輝かせながら俺は箸をすすめた。


「おいひぃ〜」


向かいからも同じような言葉が聞こえてきて、視線を上げる。すると、そこには片手を頬に当てて破顔する彼女がいた。自分が作った料理を食べて、こんな幸せそうな顔をできる人は世の中に何人いるだろうか。そんな彼女を見て俺は...


(頭撫でたいっ!)


そう心の中で叫んだ。俺は思わず目を手で覆い、上を向いてしまう。やばいな...昨日の夜一番初めの時もそうだったけど、「犬モード(俺命名)」の戌神さん可愛すぎる。「守りたい、この笑顔」ってこういうことだったのか。俺の万物好しを存分に刺激してきやがるぜ...!


「あの、どうかしましたか?やっぱり美味しくなかったですか?」


「ん?ああいやごめん、そうじゃないよ。えぇ〜っと...逆だよ。美味しすぎて神様に感謝してた」


「そんなにですか?朝ごはんを作ること自体久しぶりだったので、ちょっと心配だったんです。冷蔵庫に材料がいっぱいでびっくりしました」


「...まあ昨日買い物に行ったからね」


心配そうに俺の顔を覗き込んだ彼女に、自分の内心の声をバレるわけにはいかずとっさに誤魔化した。と言っても美味しすぎたのは本当だし、嘘はついていない。...しかし、一つ引っかかったのはその後の戌神さんの言葉だ。無意識に口をついて出たのだろう、彼女はなにもないように笑っている。俺も表面上は笑みを返す。心の中は、瞬時に曇っていったが。ふぅ、そんな不安を全て小さいため息にのせて吐き出す。気持ちを瞬時に切り替えて、俺は優しい笑みを彼女に向けた。


「で、どうする?戌神さん」


「どうする?とはなんですか?」


上品に小さい口をもぐもぐと動かしながら、疑問符を浮かべる戌神さん。


「今日、学校どうする?」


「ああぁぁぁぁ〜〜〜...」


俺が改めて問いかけると、ご飯を食べようと開けた口をそのままに、視線を泳がせて箸を置いた。


「......」


「...俺は別に無理をする必要はないと思っているよ。戌神さんが休みたいと言うなら、俺も一緒に休むし」


「そっ、それは申し訳ないというか...」


「一日休んだくらいで単位を落とすほど、俺は落ちぶれているつもりはないよ」


「いえっ!そういうつもりで言ったわけでは」


「知ってるよ。戌神さんはそういう人じゃない。ただ、他人の家に一人残されてゆっくりするなんてことは難しいと思う。それに、もしも困ったことがあっても手を貸してあげられないでしょ?だから俺も休むよ。それとも、俺が学校に行ったほうがゆっくりできる?」


「......」


「どうする?」


答えを強制させない、彼女自身が選択できるように柔らかい口調で、俺は問う。俺は彼女がなんと答えようとそれを尊重する。それが今の俺にできる最大限の「お人好し」だ。しばらく、沈黙が流れる。それでも俺は急かすことなく、のんびり彼女の答えを待った。 


カチッ


時計の針が動く音がダイニングに響いた時、彼女は伺うようにそろそろと顔を上げた。


「あの...休んでもいいです、か?」


「もちろん。戌神さんがそう言うなら。戌神さんは教師陣からの信頼も厚いし、一日くらい許されるよ」


「それで...その...」


何やらチラッチラッと視線を送ってくる戌神さん。さっきの「犬モード」全開な彼女とは違い、奥ゆかしい雰囲気をまとっている。


(これはこれで...可愛いな。頭撫でたい)


朝起きてから何度目かわからないその煩悩(?)を頭から追い出す。視線に込められたメッセージに気付けないほど俺は鈍感ではない。だから、俺が言うべきことは決まっている。


「大丈夫。俺も一緒に休むよ」


「っ!あ、ありがとうございます...!」


「何も言ってないのに何で...!」という風に驚いた顔をしてから、彼女は恥ずかしそうに笑みをこぼした。その笑顔を見て俺は...


(頭撫でたいっ!)


心の中に今日で一番大きい声が響いて、山びこのように響いたのだった。

「で、今日何するかなんだけど、何かしたいこととかある?」


「え?いえ、特には...」


「じゃあちょっと出かけようか」


「良いですけど...何かしたいことでもあるのですか?」


「まあね」


そう言って俺は戌神さんにちょいちょいっと手招きして、自室に向かう。首を傾げながら戌神さんも、昨日寝た部屋にもう一度足を踏み入れた。俺は勉強机の引き出しを開けて、そこから一つの封筒を取り出した。


「ご主人様それは...」


戌神さんにニッと笑いかけながら、封筒を開けて二枚の紙を取り出す。その紙には「100回振られたなら101回告白すればいい」と書いてある。

「一緒に映画でも見に行かない?」

「映画...!」と目を輝かせる戌神さんに、俺はさらに笑みを深めた。そして朝食を食べ終え、片付けも終えた後、支度をして街へ繰り出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「よし、着いたよ」


「映画館...久しぶりです!」


映画館のドアをくぐると、ポップコーンのいい香りが肺を満たした。戌神さんは久しぶりらしい映画館の雰囲気に、思わず高揚して尻尾をブンブンと振っている(ように見える)。今日の戌神さんは黒いブラウスに、ロングスカートというコーデだ。いつも流している綺麗な長い黒髪は、ポニーテールにまとめられている。喋り方やテンションも学校とは大違いなので、髪型まで変わると纏う空気がまるで別人のようだ。ちなみに俺は紺色のキャップを被り、シャツにジーンズというコーデ。キャップを目深に被っていれば、万が一学校関係者に見つかっても俺と戌神さんだとはわからないだろう。


「見る映画本当にこれで良かった?他に興味があるやつがあれば、それでも良いよ?」


「はっ!いえっ、大丈夫です!」


映画館内の電子看板に夢中になって、忙しなく動く戌神さんに俺が声を掛ける。すると、彼女は弾かれたようにこちらを振り返り、俺のもとに帰ってくる。しかし、何やら今見ている予告の映画に興味が湧いたのか、後ろ髪でも引かれているようにゆっくりとした足取りだ。


「ほんとに?その映画の予告に見入ってたみたいだけど」


「そ、そんなことはないです...」


「へぇ、この映画面白そうだな」


「ですよね!私も面白そうだと思います!」


「食いつきすご」


さっきの「別に興味なんてないですよ?」みたいな雰囲気はどこへやら、俺が興味を示したような反応をした瞬間だった。両肩をがっしりと掴んで食いついてくる戌神さん。昨日のシャンプーとボディーソープ以上の食いつき方なんですけど。「どうどう」と戌神さんをなだめながら俺は電子看板を横目で見る。予告動画が一周して、キービジュアルが液晶に映っていた。でかでかと三毛猫とゴールデンレトリバーが前脚を合わせる画像だった。上にはポップな字体で「犬猫万歳!大人気上映中!」と書かれている。


「この映画にする?」


「っ!別に...ご主人様が見たいなら?一緒に見てあげてもいいですよ?」


(いきなりのツンデレ、今更我に返るんかい)


「なにか言いましたか?」


「ん?何の話かな?まあ、そんなことはどうでも良くて。俺はこの映画にしたいかなぁ」


「じゃ、じゃあ見ましょう!すぐ見ましょう!行きますよー!」


「いやテンションどうしてん」


変装とかしなくても絶対バレないわこれ。二重人格かよ...いや実質二重人格みたいなもんか?あれよあれよという間に戌神さんは俺の手を引いて、チケットとポップコーンにドリンクを買って...気づけばその映画が上映されるシアターのシートについていた。まあ良いんだけど...「100振ら101告」はまた今度見よう。二人分あるし、二回行くのもな...未来とか誘うか?まあ最悪未来に譲って、八宵と行ってもらってもいいしな。あ、それかあの二人に渡しても良いな。見たいかどうか後で聞いてみよ。


「ご主人様!始まりますよ!」


「ん、もうか。分かった、分かったから揺らさないで」


ガクガクと俺の二の腕を左右に揺らす戌神さん。思考の海に浸かっていた俺は一気に現実に引っ張り戻された。それからすぐ映画が始まった。話の流れをざっくりいうと、犬軍と猫軍が大きな喧嘩をして結局仲直りしてお互いの存在を認め合うというものだった。それだけ聞くと「それ何が面白いの?」と思うだろう。でも「ただそれだけ」の話なのに、不思議と面白いのだ。俺も久しぶりに涙が出るほど笑ってしまった。隣に座る戌神さんはと言うと、


「うえ〜ん!あはははは!うわぁ〜ん!ははは!」


キャラ大崩壊していた。めっちゃ涙流しながらめっちゃ笑顔だった。いくらハンカチで涙を拭いても、ダバダバと止まらない止まらない。普通に周りの客はドン引きである。なんなら隣の人耳栓してたし。せっかく映画館まで来て巨大スクリーンで最高の音響なのに可愛そうだ。しかも耳栓してもうるさそうに耳抑えてたし。...あとで土下座しなきゃな。戌神さんがまさかこんなに感受性豊かだとは思わなかった。こんなに感情を表に出す子だったのか?それとも...最近辛いことがあったり、ストレスが溜まっていたりして精神が限界で、それが今決壊したか...か。今なお盛大な泣き笑いをしている戌神さんの顔を、俺はじっと静かに見つめていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「すいません...ご迷惑をおかけしました...」


「気にしないで。それに戌神さんの新しい一面が見れて面白かったよ」


「うぅ...恥ずかしいです...」


俺達は映画館を出て、街を歩いていた。さっき迷惑をかけた隣の人には戌神さんと一緒に平謝りをした。初めはその人も不機嫌だったが、二人で謝り倒して土下座までし始めると、周りから白い目を向けられ、それに耐えきれなかったのか最終的には許してもらえた。


「まあまあ誰にでも感情が爆発しちゃうことはあるよね。...特にいつも感情を殺して、人前では違う自分を振る舞っている人にはね」


「そ、そうかもしれませんね...逆にご主人様にはないんですか?」


俺がさらっとカマをかけると、一瞬だけ言葉をつまらせた後、すぐになんでもないように切り返してきた。俺の中で一つの疑念が確信に変化しつつある...がしかし、俺もなんでもないように彼女の質問に答えた。


「え〜っと...ない、かな?」


「ないんですか?」


「うん...ないかも。少なくとも俺の記憶にはないな...それこそ小さい頃とかに泣き喚いたときぐらいじゃないかな」


「それは誰にでもありますよ...でも、そうですか。演じてるのとは違いますけど、ご主人様も...何と言ったら良いのでしょうか。その...感情をあまり表に出さないというか、他人のことを優先して自分のことをおろそかにしそうじゃないですか。それこそ感情が爆発することもありそうだと思うんですけど」


「そんなことはないけどな」


「ご主人様いつも笑ってませんか?」


「極力笑顔でいるようにしたいとは思っているけれど、ずっとってわけじゃ。それに他人のことを優先して自分のことをおろそかにとは言うけど、俺は自分のために他人のことを優先してるだけだよ」


「?どういうことですか?」


「あっ...いや...うん。まあ他人の幸せが俺の幸せっていうか...?」


いきなり動揺して視線を彷徨わせ始めた俺に、戌神さんが「なんだ?」という視線を送ってくる。やっべぇ...口すべらせたー。


「つまり!俺がしたいって思ってしてるだけだから。それが俺の感情だよ。それに、人の助けになれれば俺も嬉しい。それで俺はずっと笑ってるんだよ」


まくし立てるように言葉を急いで並べる俺。我ながら少し苦しいか、と思ったが戌神さんはその言い分で納得したらしい。首をひねらせながらも「なるほど?」と言っている。すると、戌神さんがハッとした顔でこちらを見た。


「でもそれじゃ...他人のために感情を爆発させることはないんですか?」


「...え?」


「他人のことを誰よりも気にかけるお人好しのご主人様なら、ご自分のことでなく他の人のことで感情が爆発するのではないかと...」


「ああ、言われてみれば確かに。自分でもそっちのほうがしっくり来るな。自分のことより他の人のことで怒りそうかも。...それでもそこまで感情を爆発させたことは...」


『〜〜!〜〜!』


「っ!うっ!」


「ど、どうしたんですか!?」


突如、俺の頭の中に誰かの大声が響いた。全く聞いたことのない声が...でもなぜか心に馴染むような声が俺の鼓膜でない何かを強烈に震わせてくる。


「あ、頭が...」


「ご主人様!?大丈夫ですか!?救急車を...!」


「い、いや...大丈夫。少し落ち着いたよ」


「本当に?本当に大丈夫ですか?無理をしてないですか?」


「うん...でも少し休みたいかも」


「わかりました。では...あそこのカフェに入りましょう」


「うっ、はぁ」


「...」


彼女に気遣われながら手を引かれ、歩き始めた。その間、しんどそうにする俺の横顔を、心配そうな顔で戌神さんがじっと見つめていた。俺の手を握る彼女の手にぎゅっと力が込められ、浮かない顔で俺達は入店した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ふぅ、落ち着きましたか?」


店の最奥、窓の方向を向いたテーブルに俺達は横に並んで座った。それぞれ紅茶とコーヒーを頼む。しばらくして運ばれてきたカップに口をつけ、一息ついたところで彼女が心配そうに問いかけてきた。


「うん。結構落ち着いてきたよ。...ごめんね?せっかくのお出かけなのに」


「いえ、お気になさらず。それより...どうしたんですか」


「それが...俺もわからないんだ」


「わからない?と言いますと、つまり過去にこのようなことはなかったと?」


「うん。初めてだよ、こんなこと」


「そうですか...」


二人して暗い顔になってしまう。だが実際そうなのだ。初めてのことで俺自身も混乱しているし、不安な気持ちがないといえば嘘になる。...だが今はそんなことを心配するときではない。迷いの雲を吹き飛ばすように、俺は明るく口端を上げてみせた。


「もう頭は痛くないから。まだ時間はあるし、次のところに行こう。行きたいところとかある?」


「そうですね...」


わかりやすく明るく振る舞う俺に、訝しげな視線を送りながらも一応行きたいところを思い浮かべてくれる。う〜ん、と目をつぶって悩む戌神さんは窓の外へ視線を投げた。そして、一つの文字に目を留めた。


「あ...じゃあ...」


彼女の人差し指が指す先を見て、俺は少し微笑んだ。


「わかった。じゃあ行こうか」


さりげなく彼女の分もお金を払い、俺達はカフェを後にした。


「あ、ちょ...もう...」


呆気にとられる戌神さんだったが、何も言わずに先を歩く俺に、一つため息をついた後、駆け足であとを追いかけた。その顔には困ったような笑みが浮かべられていて...目にはどこか申し訳ないような、胸が痛むような色が潜んでいたことに、俺は気がつかなかった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


七話では奏葉にされてばかりだった戌神さんが今朝は朝ごはんを作ってくれました!前の話にも増して可愛くなった戌神さんはどうでしたか?少し不穏な描写もありましたが...きっも二人なら大丈夫ですよね!...大丈夫だよな?作者さーん(棒)?


コホン、さてさて二人きりの休日(平日)後半はどうなるのでしょうか。乞うご期待ということで。


というわけで、感想もお待ちしています!

次回もよろしくお願いします!良い夏休みをー!

仕事だ塾だ学校だという人は、頑張ってください!疲れたら私の作品でも読んで心を落ち着けてください。

では、また!

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