猫のち犬の『氷の妃』
今回も見ていただきありがとうございます。
あの『氷の妃』があんなことになってしまうとは...。
しばらく未来と並んで夜道を歩いていると、いきなり視界が開けた。そこにあったのは巨大なタワマンこと、未来の家である。
「何度見てもデケェ〜」
「まだ慣れないの〜?もう何回来てるのよ」
「お前の買い出しの荷物持ちだけでいち、に、さん...」
「わああああ!もういいから、数えないで!」
聞くところによると、未来のお父さんが大金を積んでタワマンを丸ごと買っちゃったらしい。どこの富豪だよ、ほんとに。「ほえ〜」と見上げるだけで首が痛くなるマンションに改めて感心していると、マンションから女子が出てきた。その女子はメイド服を着ていて、俺もよく知っている人だった。
「お嬢様、おかえりなさいませ」
「うん、ただいま八宵。奏葉から荷物を受け取ってくれる?」
「承知しました」
彼女の名は湯月八宵。外国人の血が入っているらしく、夜でも眩しい金髪に透き通った碧眼をしている彼女だが、生まれも育ちも日本。なので、もちろん日本語は完璧だ。同い年ながら、昔から未来を世話してきたのだそう。
「奏葉様、お久しぶりでございます。いつもお嬢様がお世話になっております」
「いえいえ、僕も好きでやっているので。未来と話すのは楽しいですし」
「ふふふ、そうですか。好き、だそうですよ?良かったですね、お嬢様」
「当たり前だよ。だって私と奏葉は親友だもん!」
「...そういうところですよ、お嬢様」
えっへんと胸を張る未来。何だか幼稚園児ぐらいの少女が「すごいでしょ!」と自慢しているようでとても微笑ましい。八宵さんと一緒に優しい目で見つめていると、未来が何かを感じ取ったらしく、ぷぅっと頬を膨らませた。
「二人ともなんか私のことバカにしてない?」
そんな未来に俺と八宵さんは更に笑みを深め、同時に言葉を返した。
「いや?ただ可愛らしいなと思っただけだけど?」
「いえ?ただ可愛らしいなと思っただけですよ?」
「も〜!二人して私のことを子供扱いして〜!」
……
「ぶっ、あはははははは!」
閑静な住宅街にそびえ立つマンションに、3つの笑い声が響いたのだった。
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サラサラサラスラスラスラ...
「今更だけど原稿用紙5枚分の挨拶の文とか、誰が読むんだよ。せいぜい1枚でお腹いっぱいだと思うけどな...」
未来を家まで送り届け、家に帰った俺はすぐに先生からの事案に取り掛かっていた。頭の中は明日の天狗寿司(ウニや大トロばっかり頼んで、先生に悲鳴あげさせてやる)のことでいっぱいだというのに、俺の手は一切の迷いなく文字を紡ぎ続けている。気づけばすでに原稿用紙3枚分の文章を書き上げていた。文句を言いながらも頼まれた仕事を完璧にこなしてしまうあたり、我ながらお人好しがすぎるというか、妙に器用というか……。
プチッ
「あ、折れた。...うわ、まじか。シャー芯もうなかったっけ」
学生のプチストレスランキング第一位「シャー芯が折れる」が発動!奏葉の特性「お人好し」により、ストレスを無効化! ...いや、相手は無機物だぞ。なんで「お人好し」発動すんねん!それはもう「お人好し」じゃないじゃないか。もはや「万物好し」だそれは。
「う〜ん。こんな時間まで空いてる文房具屋か...ちょっと遠いけどウルトラ文ちゃんしかないか。今日までに仕上げたいし、行くか」
そう言って俺は、大きく伸びをして首を回しながら立ち上がった。リビングで財布と鍵を取り、ポケットに突っ込み、玄関に向かう。鍵を開け、何気なくマンションのドアを開けた。
「ご主人様♡ シャーペンの芯、お持ちしました。未熟者ですが、この戌神環今日からよろしくおねが――」
その瞬間、俺の脳は活動を停止した。そして、視覚から送られた大量の情報は、行き先をなくし脊髄へ届いた。俺の脊髄が下した判断は...
バンッ!!!
「……やっぱシャー芯あるかもしれないし、もっかい探してみるか」
ドアを閉め、情報を強制的にシャットアウトする。そして、やっと活動を再開した脳は「部屋の中をもう一度探そう」と命令を出した。うん。別にドアの前に何かがいたから目を背けたわけじゃないからな。無駄足になる前に念の為、部屋の中をちゃんと探そうと思っただけだから。
カリカリカリカリカリカリ……ッ!!
「〜!〜〜〜!」
何かドアの方からひっかくような音が聞こえるけど多分気のせいだ。ハハ、自分で気づかないうちに疲れてたのかな。一回ゆっくり眠ったほうが良いのかもな。遠い目をしながらも俺は部屋の中を探し回る。しかし、特に探す場所もなく、すぐに時間稼ぎという名の現実逃避は終わってしまう。いや、きっとさっきのは神様が俺にいたずらをしただけだ。気をしっかりもて、俺。普通に考えてこんな真夜中に人の家の前でガン待ちするやつがいるか?そんな非常識極まりないことを誰がするんだ。うん、そう考えたら大丈夫な気がしてきた。よし気を取り直して、ウルトラ文ちゃんにシャー芯を買いに行こう!自分に暗示をかけるように、心の中でまくしたて、俺は玄関へ向かう。期末試験に挑むほどの覚悟を決め、俺はドアに手をかけた。
ガチャリ
「ご主人様あああああぁぁ!」
「うわあああああぁぁ!」
バンッ!!!
「よし寝よう!今日はもうだめだ!休んだほうが良い!」
知らないもんね!俺の家の前に『氷の妃』がいて、いきなりキャラ崩壊してたなんて!俺は何も見てないぞ〜!
カリカリカリカリカリカリ……ッ!!
わ〜!何も聞こえませんよ〜!
「閉めないでくださいぃぃ! ご主人様ぁ! 捨てられた私を拾ってくださいぃぃ!忠犬ハチ公もびっくりするぐらい働きますからぁ!だからこのドアを開けてくださいよぉ!」
俺は頭を抱え、静まり返った夜の廊下に響き渡る声であの日のツッコミを繰り返した。
「お前は猫なのか犬なのかどっちだよ!?」
ついに戌神環がデレた!?
次回もよろしくお願いします。




