お人好しの親友
あなたに小さな幸せが訪れますように。
新キャラ登場回です。
「う〜ん。グラム単位で計算するとこっちのほうが安い...でも、この会社はあまり買いたくないな...うん、やっぱいつものにしよう」
帰り道。俺は近所の通いつけのスーパーに寄っていた。自炊をしている俺は週に一度ほどの頻度で買い出しに来ている。節約家の血が疼いて、脊髄反射でグラム単位の値段を弾き出している姿はまごうことなき変態である。
「お母さ〜ん。あそこにぶつぶつ念仏を呟いて立ち止まる変なお兄さんがいるよ〜」
「しっ。そんな細かく言語化しなくていいの!」
背後からそんな親子の会話が聞こえてきて、俺は心の中で泣いた。若干痛む胸を抑えながら、俺はそれからはできるだけさっさと買い出しを進めた。しかし、鮮魚コーナーを通りかかったとき、
(お、そういえば明日寿司じゃ〜ん。やったぜ!先生のおごりで食べる寿司はさぞ美味しいんだろうな〜)
とさっきまでの落ち込みぶりはどこへやら。ぽやぽやと笑顔を浮かべて舞い上がっている姿は、まごうことなき変態である(確信)。
「お母さ〜ん。さっきのお兄さんがニヤニヤしてる〜」
どこぞの少年がまたこちらを指さしていたことは、このときの俺は気づかなかった。すると、そんな変態の前から見知った女子が近づいてきていた。
「おっ」
思わず小さく声を上げると、視線の先の彼女も俺に気づいたようで、手を振りながら駆け寄ってくる。
「奏葉じゃん!ぐうぜ〜ん!いつもは休日に買い出しに来るのに珍しいね?」
親しげに俺に話しかけてきた彼女はバイト先の仲間...いや違うな。親友の親水未来だ。
「ああ、昨日は色々あって買い出しに来れなくてな...」
「え?なんかあったの?」
「それはな...」
買い出しの続きをしながら、俺は未来にかくかくしかじかと昨日の出来事を教えた。すると、未来は目を輝かせて言った。
「先輩、イケメンっすね...私がその女子だったら惚れる自信あるわ...」
「やめろよ。そのお人好しのせいで俺も死にかけたんだから」
「ま、それもそうか。気をつけなよ〜?今回は運が良かったけど、奏葉は考えるより先に体が動くヒーロー体質だからね〜」
「え?嘘だろ?そんなに?」
俺は「いやいや、まさか」という顔で未来を見るが、その目はとても嘘をついているようには見えなかった。
「...マジで?」
「マジで。本当にかっこいいやつだなと思いながら見てるよ。まあそれと同じくらい危なっかしいやつだなと思ってるけど。さすが日本一のお人好しヒーロー!」
「やめろその呼び方」
「これでモテないほうがおかしいってもんだよね〜」
「いやそれはお前の方だろ」
「何が〜?」
「モテるのがだよ。現に今も注目集めてるだろ」
俺が周りを視線で示すと、彼女も辺りを見回す。何を隠そうこの親水未来、近隣高校合同のミスコン優勝者らしいのだ。歴代一と言われるほど大差をつけての優勝だったそう。まあ美人だなとは思うが、そこまでなのかと言われると俺はいまいち信じられない。うーん。
「そんなに美人か...?」
「いや、声に出てるから」
「え?」
俺が隣を見ると、そこには不満げに頬を膨らませた未来の顔があった。
「ひどいなぁ。私って奏葉にそんな可愛くない女だって思われてたわけ?私は悲しいよ〜?」
「いや、悲しんでるっていうより怒ってるのでは...」
「アァン!?」
「ごめん、ごめん!そういう意味じゃなかったんだって!俺はお前の可愛さに慣れちゃってるから、そうでもないように見えるのかなって思っただけだよ!ちゃんと未来のことは可愛いって思ってるから」
仮にもミスコン優勝者が人様にお見せできないほどの顔をしてキレないでくれ。普通に顔面の圧がすごすぎるんだよ。思わず饒舌になりながら、俺はまくしたてる。勢いで少し恥ずかしいことを行っている気がするが、そんなことを気にしていたらまたキレられそうなので開き直ることにした。
「...ほんとに?」
ブンブンブンブン、と首を縦に振りまくる。ダメ押しに真剣な表情で未来の瞳を見つめる。
「えへへ。じゃあ仕方ないなぁ。今回のところは奏葉を信じてあげよう」
未来はあっさりと陥落した。頬に手を当て、体をよじらせる未来。内心「意外と単純だなこいつ」と思ったりしたが、気づかれないように表情筋にぐっと力を入れた。
「そりゃどうも。じゃあ早く行こう。沢山の人に見られてるぞ」
「え...」
俺の言葉に未来が首を振ると、大勢の人と目が合った。生ぬるい視線を一身に受け、未来はただでさえ赤い顔をさらに赤く染めた。というわけで、俺達は注目を集めすぎたのでさっさと退散することにする。俺も未来狙いの男たちから、嫉妬の矢を集中砲火されてるしな。もうそろそろ背中の方だけ服が焦げそうだ。
「自分の可愛さを自覚してるなら、もう少しそのオーラしまえないのか?背中が痛いんですけど」
俺が少し恨めしいような視線を未来に送ると、恥ずかしさから立ち直った未来が俺の一歩前に出た。
「ごめんね〜私が可愛すぎて☆」
あざとくウインクをしながら、アイドルのようにポーズを決める未来。周辺の男子が「うおおおおお!」と声を上げているのが聞こえる。そんな彼女に俺の反応はというと、
「あ!きゅうりが安い!漬物にするか」
「こっちを見んか〜い!」
俺の頭に容赦なくチョップが振り下ろされた。その後、俺達は二人並んでセルフレジに向かった。買い物かごを置き、手際よくバーコードをかざしていく。全部かざしたら、次は決済...poypoyを選択っと。そして、俺がスマホを開き、電子決済アプリpoypoyを呼び出そうとしていると、目の前の機械からピッと音がなった。
「え?」
画面には決済完了の文字。右隣を見れば未来がピッと決済音を鳴らしているところだった。すました顔で携帯を仕舞い、山のように商品が盛られた買い物かごを両手で持ち上げようとする...が、商品の山は未来の貧弱な腕ではピクリとも動かなかった。
「んん〜、んんんん〜!」
顔を真っ赤にして腕に全力を込める未来だが、買い物かごは大人しく動いてはくれないようだ。悪戦苦闘する未来の肩に、俺はそっと手を置く。
「友達にかっこよく奢ってあげて、颯爽と去りたかったんだよな?大丈夫だ。俺にはわかってるから。ありがとな?」
限りなく天使に近いほどの慈愛に満ちた表情を浮かべながら、肩を叩く俺に、未来は肩をプルプルと震わせ...
「私と奏葉は親友だし!」
「あ、ツッコむのそこなんだ」
そして、俺達二人はスーパーを出た。俺の両手は大量の荷物に塞がれており、未来は完全な手ぶらだ。
「くっそ〜今日はかっこいいところ見せる予定だったんだけどな」
「レジのところで、は、かっこよかったぞ?俺の分も払ってくれてありがとな」
「ねえ!わざとだよね!?わざと言ってるよね!?も〜!」
今日一番の大声が夜中の住宅街にこだました。
「犬飼くん...あんな可愛い子と仲が良かったなんて...はっ!私ってば何を言ってるの!?」
奏葉たちを尾行しているのは誰なんだ?
次回もよろしくお願いします。




