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氷の妃は崩れない?

今日もいい日になりますように。

リラックスしながら読んでください。

「腹減った〜!」


翌日、晩ご飯を抜いたせいか、俺の腹の虫が盛大に鳴った。口からも腹の虫が(?)叫ぶ。何かあったっけと冷蔵庫を開ける俺。そして、冷蔵庫の中には...


「何もない...そりゃそうか。昨日はもともと買い出しのつもりで出かけてたんだもんな...」


空っぽの中身を見て、腹の虫にも負けないほどの大きなため息をつく。


「仕方ない。今日の朝ごはんはコンビニだな...」


そう言いながら、リビングに戻る俺。ふと「今何時だ?」と思い、目線を上げる。時計に目を向けてみると...んん?


「8時!8時!」


「...」


起きてすぐにつけたニュース番組もご丁寧に、時間を教えてくれる。奏葉はすぅーっと大きく息を吸い込み、言葉と一緒に吐き出した。


「やっべぇ...!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ガラガラガラ!


「はあっ、はあっ!あっぶな〜...」


教室のドアに手をかけたまま、手の甲で頬に伝う汗を拭う。ギリギリ先生が来る前に間に合ったようだ。


「あ、犬飼!おはよう!」


「犬飼くんおはよ〜!」


「みんな、おはよう」


挨拶をしてくれるクラスメイトに挨拶を返しながら、自分の席に向かう。今日も爽やかな笑顔はクラスメイトに好印象を抱かせている。しかし、その内心はというと。


(くっそ〜!寝坊したせいで晩御飯に続いて朝ごはんも食べられなかった。めっちゃお腹すいた〜!今日の昼ご飯は学食で爆食いしてやる!)


である。俺は笑顔でみんなに挨拶を返す反面、心の中では涙を流していた。そうして、自分の席について俺は机にリュックを置く。隣の席を見ると、今日も今日とて見目麗しい戌神さんが座っている。大きなキャリーバッグは見当たらず、制服の着こなしも完璧だ。夕方の交差点で、大荷物を抱えて「ネットカフェ……」と困り果てていた人とは、到底同じ人間には見えない。まさに学校公認の『氷の妃』そのものだった。または人に懐かない猫とも言うが。彼女は頬杖をついて窓の外を眺めている。...今日は曇りだけど何を見てるんだろう?


「おはよう。戌神さん...痛いところとかはない?大丈夫?」


挨拶ついでに戌神さんに調子を尋ねる。最後の方は周りに聞こえないように声量を抑えて。しかし、聞こえていないのか彼女は無反応だ。


「戌神さん?あの...」


聞こえていないのだろうか、と思い俺は戌神さんの肩に触れようとする。すると、戌神さんは姿勢を崩さずに、ガガガっと音を立てて俺から距離を取った。椅子を引きずって、俺の手を避けたようだ。「え...俺嫌われてる?」と心配になってしまう。昨日、一応命懸けであなたのことを助けたんですけどね...どうやら『氷の妃』はそのぐらいのことでは崩せないらしい。


「あなたが心配することはないわ。だから、気安く話しかけないでもらえるかしら」


「え?ああ、ごめん戌神さん...」


やっぱり俺は嫌われているのかもしれない。冷たく、突き放すような戌神さんの声。周囲の男子たちが「あいつ朝イチから戌神さんに話しかけて玉砕してるぞ」とヒソヒソ笑うのが聞こえる。...まあいいか。戌神さんが無事なら...。その時の俺は気がつかなかった。彼女の塩対応に打ちひしがれていたからか、彼女の机の横にバッグがかけられていたからか。彼女の足が生まれたての子鹿のようにガクガクプルプルと震えて、耳の裏も若干赤くなっていて、暗い窓に映る戌神さんの顔は無表情ながら、薄っすらと頬が赤くなっていたことに。


「だ、大丈夫ならいいんだ。体は大事にね...」


「...」


人知れずスンッと鼻をすすりながら、俺は一時間目の授業の準備を始めた。                          

キーンコーンカーンコーン――。


朝のチャイムが鳴り響き、気まずい空気は授業の始まりとともに流れていった。その後も授業中、放課後に至るまで戌神さんとは一言も言葉を交わさず、俺たちはただの『隣の席のクラスメイト』として一日を終えた。やっぱりお人好しって損な性格だな。午前中の授業の間、俺の頭の中は、


「早く...早く!昼休みになってくれぇ〜!ご飯んん〜!」


と、昼ご飯に占拠されていたのもあり、あの後声をかけられなかったんだよなぁ。で、お腹が満たされたら満たされたで


「ふぅ〜。幸せぇ〜」


って幸福に浸っていると、午後の授業はあっという間に終わっちゃうし。やはり食欲は全てを凌駕する。というわけで、戌神さんとの関係に一歩も進展はなかった。特に理由はないが、クラスメイトである以上誰とでも仲良くしたいというのが俺の考えだ。昨日のこともあり、戌神さんとも仲良くなれるのでは...と期待した俺は単純すぎたということか。メンタルはメッタメタに、心の中はビッショビショにされた俺は、我ながら哀愁を漂わせまくりながら荷物を片付けていた。バッグを肩にかけ、帰ろうとしたとき担任の先生に呼び止められた。どこか嫌な予感がしたが、大人しく職員室まで着いていき、話を聞くと。


「犬飼、悪い! お前文章書くの得意だろ? 今度新しく配るプリントの挨拶文、ちょっといい感じに考えておいてくれないか?」


「嫌ですよ〜、俺だって暇じゃないんですけど」


やっぱりじゃないか。この先生はまた俺をいいように使って...。今日という今日は断ってやる。俺はいつでも都合のいいように使える駒じゃないんだぞって言ってやらなきゃ。


「あの先生...」



「やってくれたら、明日の晩ご飯奢ってやるよ」

「任せてくださいよ、先生!バッチリ挨拶文考えて来ますから!回転寿司が食べたいです!」


「おお、そうか。じゃあ天狗寿司連れてってやるよ。よろしくな」


「はい!先生!」


そうして俺は、意気揚々と我が家へと向かった。...いや、ちょろすぎるな俺。まあ仕方ないよな。天狗寿司は美味しいし。もらえるものはもらっておく主義なんだ。どっちみち、断ってたら俺の良心(お人好し)が痛みそうだったし...。あと普通に晩御飯代が浮くのは嬉しいしな。俺は生活費の大部分を自分で稼いでいるからな。おじさん、おばさんには仕送りをしてくれているけど、まあ自分のことは自分でできる年になったんだ。極力迷惑はかけられないよな。優しいおじさん、おばさんの顔を思い浮かべながら、俺は家路をたどった。


「あ、買い出し行かなきゃ」


そこで、俺は昨日の散歩の目的を思い出した。家に向う足を、スーパーへ向けた。


「......」


俺を見つめる視線には気づかず、戻ってきた日常を噛み締めながら、ゆっくりと歩いていた。

奏葉を見つめる視線の正体とは?

次回もよろしくお願いします。

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