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命懸けのお人好し

二話も見ていただいてありがとうございます。

暇つぶしに見てください。

キキィィィィィッ!!!


いつも通りの街に突如響き渡った騒音。それは鼓膜を突き刺すような、激しい急ブレーキの音だ。弾かれたように俺が顔を上げれば、スピードを落とす様子も見せずに、赤信号の交差点に突っ込んできた黒塗りの車があった。その車の運転席には意識を失っているのかぐったりとした男性が座っている。そのせいでコントロールを失っているのか、車は俺達二人の方へ速度を上げて迫ってきていた。その進行方向の直線上にいるのは、大荷物のせいで身動きが取れなくなっている戌神さんだ。


「っ......!」


彼女の綺麗な瞳が、絶望と恐怖で凍りつく。完全に足がすくんでしまっているのか、その場から動かず避ける気配がない。


「ひっ......!」


「戌神さん、危ないっ!!」


猛スピードで突進してくる車に、身構えまぶたをぎゅっとつぶる戌神さん。その時頭で考えるよりも早く、俺は恐怖に縛られた自分の体を無理矢理に動かした。他人が聞けばお人好しだと笑われるかもしれない。でも、これが俺の貫くと決めた『個性』であり、誇りだ。そこからは無我夢中だった。俺は風を置き去りにするような鋭い一歩で間合いを詰めると、動けない戌神さんの華奢な手首をガシッと掴み、全力で自分の胸元へと引き寄せた。


「こっちだ!」


「ひゃぁっ!」


内心で小さくごめん、と呟く余裕さえない。俺は彼女の腰に手を回して、しっかりホールドすると大きく一歩飛び退いた。そして、鼻先にかするほどの距離を横切る車を、危機一髪で避ける...それだけでは俺は止まらなかった。戌神さんの体を離し、申し訳ないが安全なところへ突き飛ばす。なるべく優しくしたつもりだったが、今の俺に戌神さんの様子まで伺う余裕はなかった。両手が自由になるとすぐさま、開いたままの運転席の窓に両手を突っ込む。そして、気絶している男性の襟首を掴むと同時に、力任せに引っ張り出した。


「うあああああぁ!」


……………ドゴオオオオオオ!ガタン!ガタン!


背後遠くで響く轟音を最後に、辺りに静寂が訪れた。刹那、次に辺りを満たしたのは人の声だった。


「うおおお!すげえ!何だ今の!」


「あのお兄ちゃんすごい!」


「誰か早く!救急車呼んで!」


「もう呼んであります!」


「そこの方々大丈夫ですか!?」


そう言って多くの人々が俺達を囲んだ。数人が交差点に立って、車を止めてくれている。俺達三人はそんな街の人の助けを借りて、無事に歩道に避難した。歩道に一歩踏み入れた瞬間に、安心した俺は男性をおろし、その場に座り込んでしまった。今頃恐怖がやってきたらしく、全身から汗が吹き出し、耳に自分の呼吸と拍動以外の音が届かない。...それでも、これだけは。


「大丈夫……か、戌神さん」


荒い息を吐きながら、俺は地面にへたり込んだまま、すぐ隣で呆然と立ち尽くしている彼女を見上げた。暴走車から彼女を救い出し、さらに運転手を引きずり出すまでのほんの数秒間。まさに死線を行き来するような、極限の集中状態だった。今回ばかりはお人好しのせいで死ぬかと思った。しかし、二人の命を救うことができてよかったとほっとする自分は楽観的すぎるのだろうか。


「ぁ……え、あ……」


戌神さんは、自分の身に何が起きたのかまだ理解できていないようで、ただただ自分の手首と、俺の顔を交互に見つめている。その顔は、恐怖からか、あるいは別の理由からか、耳の付け根まで真っ赤に染まっていた。目も少し潤んでいるのか、輝いて見える。


「戌神さん...?」


調子が戻ってきた俺は立ち上がり、戌神さんの顔を伺う。すると、戌神さんは唐突にバッと顔を上げた。


「き、気安く触れないでください...!」


「へ?え、あ、ああぁ。ごめんな。さっきは必死で」


いきなり異性に触れられたら戸惑っちゃうか...と、命の恩人に容赦ない彼女に、俺は少し傷ついた。ずーんと落ち込んでいると、戌神さんは自分の巨大なキャリーバッグの取っ手をひったくるように掴んだ。


「あ、ありがとうございました!では!」


そう言うやいなや顔を真っ赤にした彼女は、大きな荷物たちを引き連れて行ってしまった。


「いや、ネットカフェそっちじゃないよ!あと、走ったら危ないって!」


そんな俺の言葉は届かず、戌神さんは角を曲がり俺の視界から消えた。


「はあ...まあ、無事なら良かった。トラウマとかになってないといいけど...」


そんな戌神さんの態度に愚痴を言うことなく、心配してしまうところ。俺はどこまでも筋金入りのお人好しなのだろう。


ウーウー ピーポーピーポー


結局、その後にやってきた警察の事情聴取に巻き込まれ、目撃者として色々と説明する羽目になった。まあめっちゃ事件に関わってたし、仕方ないんだけどね...。警察の人に


「今回は運が良かったが、下手したら三人とも死ぬところだったんだぞ!」


「はい...気をつけます」


とこっぴどく叱られてしまった。俺が体を縮こませていると、相方さんの方が


「まあまあ、そのぐらいにしてあげてくださいよ。結果的には二人の命を救ったんですから」


と言ってくれて、最終的には二人からお礼を言われた。気絶していた男性はというと、事態を聞きつけたらしくすぐに奥さんが飛んできた。そして、現場についた救急車に乗り、病院まで搬送された。奥さんは


「旦那を救ってくださり、ありがとうございました!この御恩は必ず!」


と言った。症状が大丈夫か俺も気になるので、連絡先を交換させてもらった。持病の心疾患の症状が出たらしい。ここ最近は落ち着いていて油断していたそうだ。解放されてアパートの自室へと帰るころには辺りも真っ暗で、疲労困憊だった。だから、俺は家に入ると流れるような動きで、床に倒れ込んで泥のように眠った。不安によって寝付けない人とかもいるかもしれないが、俺はそれはもうぐっすりと眠ることができた。休日だったはずの日が、すでに平日に変わっていたなんて、その時の俺は知らずに硬い床の感触に寝返りを打っていた。


氷の妃との関係はどうなってしまうのか。

次回もよろしくお願いします。

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