閑話 鋼鉄の獅子と最高の種馬
いつも皆様お楽しみいただきありがとうございます。
オルトとシンバのお話。
お楽しみください。
月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。
月水土曜はガハハの日 お忘れなく。
ザク、と踏みしめられた雪が重い音を立てた。
『鋼鉄の揺り籠』の中庭。白銀の雪原の中央で、天下十剣・筆頭『大剣豪』オルトと、鋼鉄の牙頭領『鋼鉄の獅子』シンバの隻腕剣が激しく衝突していた。
シンバの右手はガルハートとの一戦で動かなくなっており、実質的に柄を握るのは左手一本だ。だが、その奇妙な『隻腕剣』から放たれる一撃一撃には、雪原すら切り割るほどの凄まじい威圧が宿っていた。
大広間の壁際では、副団長ザルカスが黒い毛皮を揺らして腕を組み、隣には鋭い眼差しで手合わせを見つめるカインの姿があった。
「……凄まじいな。シンバ殿の剣には迷いがない。一直線に父様を追いかけている」
カインの呟きに、ザルカスは鼻から白煙のような息を吐き出し、ぽつりと呟いた。
「あいつの剣が重いのは当たり前だ。背負ってきたものが違う」
「背負ってきたもの……ですか?」
「俺たちの一族は、いまの帝国領内に領地を持つ小領主だったのさ。人口五百ほどの小さな村だが……場所が悪かった」
ザルカスは遠い目をして、雪空を仰いだ。
「激戦区を見下ろす、なだらかな丘。帝国軍からすりゃ、喉から手が出るほど欲しい『要衝』だ。親父と爺さんの代までは帝国に忠誠を誓ってたが……帝国の上層部は、言いがかりをつけやがった。『軍役が不十分だ』『忠誠が足りん』とな。そうやって祖父の代に領地を丸ごと奪い取られたのさ」
「封臣契約をしていたのではないですか? ライナル王国では考えられません」
「ああ。もともと帝国は、王国より歴史が浅い。今でこそ国土は王国とどっこいになったが、当時は必死だったんだろうな。おかげで俺たちは、一族郎党引き連れて傭兵家業と相成ったわけだ」
「……だから、ですか」
カインは息を呑み、静かに視線を雪原の激闘へと戻した。
「大国の都合で、不当に居場所や誇りを奪われる者の痛みを……シンバ殿は痛いほど知っておられる。だからこそ、今回のアウレリアと帝国の密約に反感が出たわけですね」
「ふん、察しがいいな」
ザルカスはフッと口角を上げ、顎でセラフィナたちがいる大広間を示した。
「セラフィナ殿たちの境遇は、昔の俺たちと重なるのさ。大国や権力者の勝手な都合で、積み上げてきたものを奪われ、追い詰められる。……シンバがあっさり『正統派』に力を貸す気になったのは、ガルハートへの義理だけじゃねぇ。あの聖女様たちの無念に、他人事とは思えねぇシンパシーを感じたからだ」
「……なるほど。シンバ殿は、真の武人ですね」
カインが感嘆を込めて呟いたその時――。
**――ガキィィィィンッ!**
空気を切り裂く金属音が響き渡り、中庭の雪が爆風のように舞い上がった。
オルトの放つ『虚空』の剣圧と、シンバが左手一本で振り抜いた『隻腕剣』の重撃が正面から激突したのだ。
互いの刀身が軋み、火花を散らす。
オルトは不敵に目を細め、シンバの鋭い眼差しと正面から交錯させた。
「……良い剣だ、シンバ殿。不当な歴史を生き抜き、領民と仲間を守り抜いてきた……重く、気高い刃だ」
「ハッ! ライナル王国最強の『大剣豪』に褒められるたぁ、光栄すぎて身震いがするぜ!」
シンバは豪快に鼻を鳴らすと、ギシギシと交錯する大剣を押し返し、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「だがよ、オルト殿! 泥を被って国を割る覚悟を決めたなら、俺たち『鋼鉄の牙』も最後まで付き合ってやるぜ! 俺たちの過去を奪った帝国に、一矢報いる絶好の機会だ!」
「フッ……心強い!」
再び二人の覇気が爆発し、白銀の雪原に鋭い剣戟の音が響き渡った。
『正統派』の旗揚げとともに、武人たちの絆が固く結ばれた瞬間であった。
◇◇◇
二人の打合いの最中、中庭の片隅でドタバタとした足音が響いた。
「難しい話はもう嫌なの!お外に行きたいの!」
感情を高ぶらせて大広間から飛び出してきた聖女メルツラを、追いついてきた相談役であるグレゴがその腕でギュッと後ろから抱きすくめ、物理的に押さえつけた。
肉感的な白衣の尼僧とみずみずしい美しさの聖女のハグは微笑ましくも艶めかしかった。
「静かに。……聖女様、ご覧ください」
グレゴの低く落ち着いた声に、聖女メルツラは身をよじるのをやめ、中庭の中央へと目を向けた。
そこでは、空気を切り裂く刃の風が吹き荒れていた。
異質なまでの威圧を放つシンバの『隻腕剣』と、気配すら極限まで削ぎ落としたオルトの『虚空の剣』。法力を一切介さない、純粋な剣術と身体能力のみが激しく交錯する極限の攻防。
武闘派の法力僧であるグレゴの目が、その凄絶な気配に引き込まれるように細められた。
グレゴの腕の中で、すっかりおとなしくなったメルツラが、ふと見上げるように呟く。
「ねえグレゴ……この二人は、どっちが強いの?」
グレゴは二人の刀身が重なり合う一瞬も見逃さず、静かに分析を口にした。
「攻防自体は互角に見えます。……ですが、オルト殿はシンバ殿の剣の『特定の箇所』ばかりを意図して狙って叩いています。恐らくはあえてシンバ殿の剣を折り、手合わせを互角の引き分け(五分)で終わらせるための手加減でしょう。オルト殿の技量が、あまりにもすさまじいということです」
「すごい……! ねえ、グレゴは勝てるの?」
「法力を使えば、私が勝ちきれます。ですが……法力無しの純粋な剣術や徒手空拳となれば、どうでしょうか。あの境地、おいそれと勝てるとは言えません」
直後、――ガキィィィンッ!と甲高い金属音が雪原に響き渡った。
グレゴの分析通り、シンバの剣の疲労箇所を正確に捉えたオルトの一撃により、激しい火花とともに手合わせが終わりを迎える。互いに息を整え、刀身を引いた。
その瞬間――。
「すごーいっ! ふたりとも、とってもかっこよかった!」
グレゴの腕をすり抜けたメルツラが、目を輝かせてパチパチと拍手をしながら、可憐に駆け出していった。
残されたグレゴは、法力僧として、そして何より一人の「武人」として、正面から戦い抜いた二人へ深く深く頭を下げた。一切の無駄がないその礼の動作は、雪原の中で息を呑むほど美しく、気高いものであった。
「……ッ」
「……う」
さっきまで死線を潜り抜けるような凄絶な手合わせをしていたはずのオルトとシンバが、無邪気に喜ぶ聖女の可愛らしさと、グレゴのあまりにも艶やかで美しい武人の礼に毒気を抜かれ、二人揃ってちょっと顔を赤らめてそっぽを向いた。
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別作品の紹介
厄介な親子関係を宇宙人が解決する人情噺
重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜
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火木金の週3投稿です。
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