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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:アルカディア 「決意」

いつも皆様お楽しみいただきありがとうございます。

セラフィナ様の決断のお話。

お楽しみください。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。

 

 聖都、教王の間にて。

 アウレリアは細い顎を上げ、教王の間の天井のさらに向こう――遥か北方の空へと視線を向けた。

 

 教国を手中に収め、実動部隊をも完全に配下に置いた。

 満たされない異才ゆえの退屈を埋めるには、あまりにもあっけない勝利。

 

 最大の障害と思われたセラフィナも、この現状を最早ひっくり返すことは出来ないだろう。

 多数工作で僧正会を把握し、聖女の正当も認めさせた。体裁は整っているのだ。

 地母神教とその教団、さらにはアルカディア教国を愛する彼女には「力で押し通す」なんて強引な真似も出来ないだろうし、彼女には後ろ盾もないのだ。

 

「重畳です……」

 

 そうつぶやくと、アウレリアは自らの唇を細い指先でそっと撫でた。

 

 先ほど、感応を通じて交わした、数千キロの空を隔てたあの男——ガルハートとの精神世界での逢瀬。その余韻と唇に残る感触を、彼女は一人内省していた。

 

(……ガルハート。ジョルカス帝国とヴァルツァーク宗家を滅ぼした黄金の男……)

 

 自分の退屈な人生をぶち壊してくれた男。触れ合った瞬間、直感した。あの男は自分と同等、あるいはそれ以上の危険で破格な予感を秘めている。

 

(あの男は必ずやって来る。その時には、四聖女よりもさらに上の『黄金の番』として、私のすぐ傍に置いてあげる……)

 

 アウレリアの胸の奥で、異彩ゆえの独占欲が静かに疼く。

 彼女は自分の豊満でしなやかな肢体と、黄金の髪へ視線を落とした。己が若く健康で、男を狂わせるに十分すぎる美貌を持っていることを彼女は完璧に理解している。世俗の恋愛など経験したこともないが、全能感に満ちた彼女の脳内には揺るぎない打算があった。何となれば、自らの身を差し出してやれば、あの男とて自分に惚れ込み、膝を折るだろう、と。

 

 教国も、帝国も。すべては自分の退屈を埋めるための可愛い玩具に過ぎないのだろう。失う事にも躊躇いは無い。

 

 しかしながら、あの男だけは地母神を敵に回しても、欲しいと思えるものであった。

『黄金の番』ガルハートだけは。

 

 ◇◇◇

 

「毒針……ですか?」

 

 セラフィナが息を呑んで尋ねると、ガルハートはニヤリと口角を上げた。

 

「なに、簡単な話だ。あの女も帝国も、あんたら旧執行部が追い詰められたら、大人しく退位を受け入れるか泣き寝入りすると思ってただろ。……まさか自分たちの手で『教団を分裂させる』なんて真似、やるはずがねぇとな」

 

「ッ……!」

 

 セラフィナの肩が、小さく跳ねた。

 

 セラフィナはどこまでも誠実な地母神教徒であり、長年にわたって教団の体裁を守り、発展させてきた実務家で、常識人だった。自分が愛し、積み上げてきた教団に自らの手で亀裂を入れ、国を二つに割る——そんな破壊的な決断は、どれほど追い詰められようとセラフィナの倫理観が許さない。

 

 アウレリアはセラフィナが「為政者であっても覇者」ではないことを完璧に見抜いていた。愛する教国を守るであろうからこそ、自身の勝利を確信していたのだった。

 

「……ガルハート殿、セーラ殿。ですが……っ」

 

 セラフィナは蒼白な顔で唇を噛み締め、激しく葛藤した。

 

「教団を割るなど……あまりに影響が大きすぎます! 地方の回廊や信者たちが混乱し、最悪の場合、信仰そのものが流血の惨事へと発展しかねません……! 私の一身の保身のために、そのような歴史に悪名を残す大罪を……!」

 

「保身だなんて、おかしなことをおっしゃいますのね」

 

 躊躇するセラフィナへ静かに歩み寄ったのは、セーラだった。

 セーラは大広間のテーブルに分厚い書籍を置くと、深く、力強い眼差しをセラフィナに向けた。

 

「セラフィナ殿。巨大な世界宗教において、分派や分裂など歴史の長き流れにおいては稀にあることですわ。後世から見れば、それもまた信仰が進化するための必然の過程に過ぎません」

 

「……っ」

 

「恐れておられますの? 自らのその一言、その決断が――地母神教の歴史を永遠に変えてしまうことに。それとも新たな火種を生み出しかねないことに」

 

 セーラの歴史家としての厳格な問いかけに、セラフィナは言葉を失い、固まったように息を詰まらせた。

 

 己の決断が持つ歴史の重み。そこへ、ガルハートがガシガシと頭をかきながら、どっかりと立ち上がった。

 

「セーラの先生の言う通りだ。……セラフィナさんよ、今までのあいつのやり口を見てりゃ分かる。あのアウレリアって女はな、あんたが誠実な常識人だってことを完璧に見抜いてやがんだよ」

 

「……え?」

 

「あんたが教団を愛し、守ってきたからこそ『自分から国を割るような大それた真似は絶対にできない』と高をくくってやがるのさ。あんたのその真面目さと常識こそが、あいつの計算の前提になってんだ」

 

 ガルハートは歩み寄ると、セラフィナの正面で不敵にニヤリと口角を上げた。

 

「相手はすべてを見通した気になってる怪物だ。……なら、正面からあいつの土俵で付き合ってやる必要がどこにある? 相手が怪物なら、あいつの『思考の外』で戦うんだよ!」

 

「思考の……外……!?」

 

「あいつの思い通りに大人しく枠に収まってやる義理もねぇ。国を割る泥を被るってんなら、まず俺が一緒に被ってやる」

 

 そう言うとガルハートは腕を組み、背後に静観していた領主オルトへと視線を向けた。

 

「なあ、領主様。ライナル王国もスターレ家も、腹は決まってんだろ?」

 

 オルトは不敵に口角を上げ、重厚な声を響かせた。

 

「ふむ、もちろんだ。国を割る泥も、ジョルカス帝国からの反発も、我がスターレ家とライナル王国がすべて引き受けよう。セラフィナ殿、我が国と我が家門を信じて、思う存分旗を掲げられるといい」

 

「ガルハート殿……オルト様……っ」

 

 セラフィナの瞳から、涙が一筋こぼれ落ちた。

 アウレリアの過剰な全能感と計算。その「思考の枠外」へと踏み出し、常識を破って決断を下す覚悟。

 三人の言葉と王国の重厚な後ろ盾によって、彼女の心の中にあった迷いの鎖が、音を立てて弾け飛んだ。

 

「……わかり、ました。……アウレリア様が私を『思い通りに収まる大人しい女』と高をくくっておられるのなら……その思い上がり、ここで正してみせましょう! 地母神教のあるべき姿を取り戻し、神意を正しく伝え続けるために!」

 

 セラフィナが強く胸に手を当て、固い決意とともに顔を上げた。

 

「真なる聖女メルツラ様のもと、『地母神教正統派』の立ち上げを宣言いたします……!」

 

 大広間に、静かだが決然とした空気が満ちる。

 

 アウレリアの計算を「思考の外」からの不徳な盤外返しで打ち砕き、詰んでいたはずの盤面は完全に初手に返った。これで勝負の行方は完全に分からなくなった。


いつもご愛読いただいありがとうございます。


別作品の紹介

厄介な親子関係を宇宙人が解決する人情噺

重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜

https://ncode.syosetu.com/n7660me/

火木金の週3投稿です。

皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。

どうぞ気軽にご一読ください

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